第5話 昼食! ランチタイム!

「あれっ? けーご、お弁当じゃないんだ?」

「作るわけねーだろ、めんどくさい」


 朝礼の後、俺達は、特に、クラスメイトから声をかけられることもなく。

 午前の授業をこなし、無事昼休みを迎えた。

 そのまま、俺が誘って、こうして、購買前に来ていたわけだが。


「そういうお前こそ、弁当じゃないんだな?」

「えっと……、ボクは、その……、ええっと」


 困った顔をして、ゆーとが視線をそらす。

 まあ、女になったからって、家事がいきなりできるようになる訳ないんもんな。

 あ、おばちゃん、これとこれとこれとこれ、ちょうだい。


「ほれ、卵サンドとホットドック」

「うぇっ?」


 視線を反らしてたゆーとの前にどん、と突き出す。


「今日は、オゴりな。オマエ、これ、好きだったろ?」

「あっ……、う、うん♪ ありがとう!」


 満面の笑みで、ゆーとが受け取る。

 ああっ、……くそ、何か、キラキラしててカワイイな、おい。


「……、……、……???」

「あー……、こっちで食うぞ?」

「……ひゃっ?」


 昨日のように手を引いて、ズカズカ廊下や階段を進んでいく。

 何事か? と、驚く視線も感じるが、気にしてられるか。


「さあ、ここ、ここで食おう」

「……、……、……ここで?」


 着いたのは、人気のない屋上へと続く階段。

 ゆーとは、何故か、ドギマギした表情で、こちらを見てる。

 あ、あのなぁ。

 いちいち手を繋いだくらいで、ドキドキすんなよ。


 ……俺も、してるけどさ。


「教室じゃ、落ち着いて……話できないからな」

「……そ、……それも、……そっか」


 多少、挙動不審になりながら、二人して並んで階段に腰掛ける。


「1年前……、だって?」

「う……、うん」


 もそ、と、卵サンドを頬張りながら、ゆーとが頷く。


「正確には、1年半、……前かな。

 突然、その……あそ、……下腹部に、激痛走って、さ……」


 空いた手で、お腹、……の下の方をさすりながら、ゆーとが続ける。

 ……って、何か、エロいなその指の動き、おい。


「半年かけて、身体が女の子になったんだけど、ね?

 ○○○や○○が徐々に陥没して、○○や○○に変わっていくから、その。

 こう、メリメリ~……っ、と……、もう、痛くて、辛く……」


 ……あのな、極力、エロくない表現でかつ正確に表現しようとしてるという努力は認めるぞ。

 しかしだな、お前、今の自分の美少女っぷり、忘れてないか?


「……、……そ、……そうか」

「……あ、……え? ふぁっ?! ご、ごめんっ!」


 顔が上気してそう返すのがやっとの俺に対して、ゆーとが慌てて止める。

 いや、……ゆーと、オマエは悪くない。

 真面目な話なのに劣情を催してしまった俺が悪い。


「けど、ほんとに辛かったのは、……その、後、っていうか」

「……、……、……っ?」

「……?!!」(はっ)


 ホットドックを食しながら、ゆーとが何気なく漏らしたその一言。

 何故か、ひっかかった。

 まじっと見つめた俺に、明らかに狼狽したのを見て、確信する。


「オマエ、まさか、……まじ、いじめられたのか?」

「……、……っ、……っっっ!」


 明らかに動揺した顔で、……ゆーとがこちらを見てる。

 そして、……目元に浮かぶ涙。

 っっっ、何だよ、それ。

 がっ、と、有無を言わさず、抱きしめると頭を撫でる。


「辛かったな。 悪い! 悪いこと聞いた! 問題ない。 問題ねえよ!

 俺が、東京に残ってりゃ、こんなこと……!」

「け、……けーご、……ぐすっ」


 腕の中で、ぐずり始めるゆーと。


「くそっ、どこのクソ野郎だ! こいつを泣かせたのはっ!

 欲望に任せて、クッ、……何てことをっ!!」

「……うん? あ、……あの、けーご……?」


 ゆーとが、……腕の中で、……はえ?と首を傾げ、次いで、何かに思い至ったかの様子で、ボッと火を吹いたように赤くなる。


「……あ、あのね、あの、あの、あのねっ?」

「な、何だ……、もしかして、オレ触るの、まずかった、か?」

「い、いや、そ、そーじゃなくて……ッ! ボッチなっただけで、その……。

 え、"セックスなんか"は、されてない、からねっ?!」

「……、……、……そなの??」

「……、……、……そうだよ!」


 心外だとばかりに、ゆーとが、じーっと見つめてくる。


「けーごならともかく、他の男子なんか、指一本触れられるなんてやだ!

 レ○プなんてされたら、舌噛んで死んでやるんだからっ!」

「お、おおう……? あ、ああ、わっ、わかっ……た。 す、すまん」

「あ……、えと? あ、あー……うあ、ぼ、ボクの……方こそ、その、ごめん」


 ゆーとは、ひとしきり、大きなため息を漏らした後、……とすん、と腰を下ろし。

 ふらっとこちらに倒れてくる。

 そのまま、受け止める俺。 はふ、と安堵したようにため息を漏らすゆーと。

 なんだコレなんだコレ? おいおい?


「……色々、あったん、だな?」

「……ん」


 ゆーとは、ぐりぐりと、ネコのように頭を擦り付けてくる。

 ……保て、保て、俺の理性。


 しかし、あの、今さっきのセリフ、……あれ、俺ならいいってこと?

 それと、あれって、……NTRマンガでよく見るセリフのようなっ?

 このまま、俺が一歩踏み出さないと、近い内にこいつ、他の男に……っ?

 あーいやいや、止まれ俺のエロゲ脳!!!

 とまあ、俺が悶々としてる間に、昼休みの時間は過ぎ。

 午後1の授業に駆け込んで、二人して、メッチャ怒られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る