第2話 とりま! 自宅連行!

「ほら、こっちだから来いよ」

「……? ……、……???」


 このままコンビニ前で放置するのも何だったので、手を引っ張って、連れていく。

 ゆーとはというと、何故か帽子を目深に被り直しながら、どこか、ためらい混じりに引かれていく。

 しかし、なんつーか。


「……ちっせーな、手」(ぼそっ)

「……っ?!!!」


 あ、しまった、つい……。また地雷踏んだか?

 振り返るが、帽子のひさしで表情が見えない。

 顔が何だか赤いような気がしないでもないが、よくわからん。


「……、……、……」

「……、……、……」


 距離にして、歩いて数分。

 後は、特にこれといった会話もなく、到着する。


「ほれ、ここが、今の俺ん家だ! さ、上がってくれよ!」

「……えっ?!」


 築4年、新しいことを除けば、ドコにでもあるような積粋ハウス製の一軒家。

 それを前にして、何故か、顔を真赤にして、玄関前でまごつくゆーと。

 おいおい。


「いや、まじで俺ん家だぞ?

 東京じゃ、俺ん家に来るなんて小6まで何度もあったろ。

 何、ためらってんだよ?」

「……や、……その」


 やっぱり、何かがおかしい。

 ゆーとは、豆腐メンタルでも、もっと活発なやつだったと思うんだけどな。

 手も、ちょっと熱っぽくて汗ばんでるし、……やっぱり、顔が赤い。


「おい、オマエ、もしかして、風邪か?」

「ひゃうっ!?」


 額を触ったら、目を見開いて、とんでもなく高い声を上げた。

 マジ、熱くなってる。

 まずいんじゃねえの、これ?


「何やってんだよ。 ほら、早く入った入った」

「え? え? えっ?」


 手を引き、家の中に強引に引きずり込む。


「ほーい、ただいまー」

「あ、お、おじさん、おばさんっ、突然、お邪魔しますっ!」

「ああ、親父もお袋も、今、いねーぞ?」

「……え?」

「親父が来年7月まで海外派遣でお袋までついていってさ。

 とにかく、ここにゃ俺たちしかいねーから、気を使わなくていいぞ」

「……え、えええっ?」


 うん? 手の熱と汗が増えた?

 ……マジ、まずいんじゃね?

 しかも、靴を脱いだところで、立ち止まってて、動かねえ。

 こいつ、ちっさいけど、力あるから、面倒っつーか。


「……はあ、ここまで来て、何やってんだよ」

「や、でも、それは、キミ……、が……、えっと、あの、その」

「めんどくせっ」

「……ふぁっ?」


 近寄ると、肩裏と膝裏に手を差し込み、ぐっと持ち上げる。

 病気や怪我したガキ……じゃなくて小柄なやつ運ぶには、これがいい。

 何故か両手で帽子をかばいつつ、ゆーとは、目を見開いてこちらを見上げる。


「こ、……これ、……おひ、おひ、めさ……ま、だっ……?」

「……、……、……黙ってろ」

「……!???」


 まじ風邪なんだな、会話になってねえ。

 そのままズカズカ進むと、リビングのソファに放り込む。

 大きくてフカフカでベッドみたいにでかいから、ゆっくり休めるだろ。


「ふぁっ?!」

「薬持ってくるから、待ってろ」

「……、……? ……、く、クスリ?! な、……何の?」


 ゆーとは、自分の身体を抱きしめ、顔を真赤にして口をパクパクさせている。

 これは、あれか、寒気までするのか。

 毛布を無造作に投げる。

 まずっ、頭の上にまですっぽり掛けちまった。

 まじちーせえなあ、こいつ。


「ひゃっ?!」

「……すまん」

「な、なななな、何を、……うぇっ??」


 風邪薬を取り出し、水を入れたコップを用意して戻ると、ちょうどゆーとが帽子を押さえながら、毛布から脱出したところだった。


「……ほれ」

「……え?」


 薬とコップを目の前にして、ゆーとが不思議そうにこっちを見上げる。


「バビロンエースと葛根湯、……風邪によく効くぞ?」

「……え?」

「何を期待してたんだ、オマエは?」

「ふぁっ?!」


 甘いイチゴ味の薬でも期待してたわけじゃあるまいな?

 顔を真赤にして、泣きそうになりながら、葛根湯を飲むゆーと。

 ……うん、……バビロンエースは、口に合わないか。

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