第192話 北部戦線、異常アリ!?
「前方、旧越境地点に、魔人多数です」
偵察に出ていたエリカが報告に戻って来た。ゾールは現地に残っている。
「魔人か」
俺はリコを振り返った。
「魔人だけで5万近い数ですね。連れている魔獣を含めると、50万近くになりそうです」
「ふうん・・ゾール、戻ったか」
向けた視線の先で、凶相の男が地面に片膝を着いて低頭した。
「大型の地龍、小型の走竜や飛竜も居るようです」
「龍種が多いな」
「アウラゴーラ・・という沌主だと、捉えた魔人が申しておりました」
「沌主か。どこに居るのかと思えば・・」
俺は小さく笑った。
名は違うが似たようなものだろう。
「・・向こうも、こちらを見付けたかな」
殺意のこもった視線が向けられているようだ。
「リコ・・どんな奴だ?」
「えっと、多分、黒いドレスを着た女の人・・頭に一本角が生えてます」
リコが慎重に"眼"を使いながら言った。
「少し眼を借りる」
「はい」
頷いたリコの肩に左手を置き、右手に細剣を抜き放つと切っ先を斜め上方へと差し向けた。
「付与無しの武技では効かないだろうけど・・」
こいつか・・。
リコの"眼"が捉えている大柄な魔人が見えた。なるほど、黒いドレスを着た女だ。生地の少ない黒い長衣から豊麗な肢体がこぼれんばかりに覗いている。額には長い一角が生えていた。どうやら、こちらを見ているらしく、額が縦に裂けて黄金色の瞳らしき物が真っ直ぐに俺の眼を捉えている。
「沌主様は御怒りらしい」
・・・細剣技:Rheinmetall 120 mm L/44
*** M830HEAT-MP-T ***
重たい金属音の響きを脳裏に聴きながら、細剣技を打ち放った。
腹腔を殴られたような重爆音と共に、噴出した火炎煙が視界を埋め尽くす。
さらに、1発、2発、3発、4発・・・。
連続して打ち放つ。
「結界・・多重結界と魔防壁の組み合わせですね」
リコが呟いた。
寸分の狂い無く女魔人めがけて降り注いだ M830HEAT-MP-T が連続して炸裂していたが、波紋のようなものが宙空に幾重にも拡がっているだけで、その先に居る女魔人には届いていなかった。
「まずまず・・か」
俺は
これは、期待外れかもしれない。
そんな思いがある。
確かに、並の魔人よりは強いのだろう。少なくとも煌王よりは格段に上の存在だ。
それなりに力を使わないと仕留めきれない相手だ。
(だけど・・)
その程度だった。
「・・まあ、やるか」
俺は舌打ち混じりに息を吐いた。
「武技、魔技、魔法・・・すべてを解禁する。自由に使って、あいつらを
「やったぁ~!」
サナエが片手棍を手に飛び跳ねた。
「久しぶりの魔法ですね」
リコが微笑する。
「まずは、遠距離から相手の数を減らす。俺とリコの攻撃で
俺の指示に、全員が頷いた。
向こうでも、魔人達が展開を始めている。
黒いドレスの女魔人が呪文の詠唱に入っていた。詠唱要らずの魔人が、わざわざ詠唱を行っているのだ。相当な魔法が準備されているのだろう。
(雷撃系らしいな)
女魔人の術式を読み取りながら、こちらの動きを確認した。
ゾール達が滑るように前へと駆け去って行く。
その背を見送り、
「護りは気にするな」
リコに声を掛けながら、右手の細剣を正面やや上方へと向ける。
「はい!」
リコが表情を引き締めながら、兜の面頬を落とした。
すでに両手を上方へと持ち上げて、魔力の操作を開始していた。
・・・細剣技:Rheinmetall 120 mm L/44
*** M829A3 ***
細剣技を準備しながら、付与を総掛けにしていく。
「いきます!」
リコが短く宣言した。
それを合図に、俺は 細剣技:Rheinmetall 120 mm L/44 を打ち放った。
貫通力に優れた M829A3 を付与で強化している。先ほどの結界程度では防げない。
轟音と共に火煙が噴き荒れる中、
「先唱・・
リコが魔法名を口にするのと同時に、直上から巨大な雷撃が降り注いできた。
派手派手しい大音をあげて俺とリコを直撃したはずの雷撃は、しかし、眩い閃光を残して消え去っていた。
一方で、黒いドレスの女魔人の周辺は広範囲に渡って泥濘んだ泥地へ変じている。巨大な地龍はもちろん、空を飛べるはずの魔人達までが一気に頭まで泥に沈んで藻掻いていた。女魔人と僅かな供回りらしい魔人だけが泥上に立っている。
女魔人達が張り巡らせた結界や魔防壁は、先に到達した Rheinmetall 120 mm L/44:M829A3 によって粉砕されて掻き消えていた。そこをリコの魔法が襲ったのだ。
「次唱・・
リコの魔法が放たれ、魔人達が溺れる泥海の中に銛のような尖った頭部をもった茶色い
「追唱・・
黒衣の女魔人が、凄まじい形相でこちらに向けて何かの魔法を放ったようだが・・。
俺の左手は魔法を喰らう。
魔法の打ち合いだけでは、俺の護りは突破できない。
十分な距離まで詰め切ったゾールとエリカが黒矢を放った。
一旦、遙かな上空へと打ち上がった黒矢が、しだいに向きを変えて落下へと移りながら、無数に数を増やしながら地表めがけて降り注いでいく。2人が同時に放ったのだから、回避する隙間など無い。何かで防ぐか、矢を受けながら耐えきるか・・。
地龍の鱗を紙のように貫き、黒矢が矢羽根近くまで深く突き立つ。
苦鳴を放ち、巨体を暴れさせて泥海で
「合図だ」
「はい!」
俺はリコと連れ立って疾走を開始した。
上空に、純白に輝く巨大な
サナエの得意の聖術だった。
オリヌシとヨーコにとっては突撃の合図でもある。
縦横に斬撃が
多くの魔人にとっては、理不尽で一方的な死を告げる殺戮劇の始まりだ。
上空から降ってくる聖なる彗星を防ぎ止めようとする女魔人だったが、いきなり飛来した黒矢に頭部を弾かれて仰け反る。鬼の形相で射手を捜して視線を巡らせるが、今度は異様な擦過音と共に斬撃が襲って来る。
泥上を
「お・・おのれぇっ!」
女魔人が怒声を放ちながら、総身から真っ黒い炎を噴き上がらせた。黒い火炎が龍のように首をもたげてヨーコを狙い、オリヌシを襲う。遠間から狙撃するエリカやゾールの黒矢が黒い火炎に触れて蒸発して消えた。
「八皇・・参れ」
牙の伸びた女魔人の口から怒りに震える声が漏れた。
途端、女魔人の周囲に、棺に似た細長い箱が八本、次々に出現して柱のように立ち並んだ。
そこへ、サナエの
聖光の輝きで視界が奪われる中を、鞭のような黒影が奔り抜け、鉤爪が獲物を求めて打ち振るわれる。
だが、すでに、ヨーコもオリヌシもその場には居ない。
エリカの瞬間移動で遠く逃げ去っている。
「
リコの火炎魔法が女魔人が居る辺りを中心にして劫火で包んだ。
直後、
「ホォーーーーーリィィィーーーー キャッスルゥゥゥーーーー」
サナエの掛け声と共に、聖光の防壁が聳え立った。
煉獄の炎の中から放たれた攻撃が、聖光壁に当たって激しい炸裂音を立てる。
「煉獄・回流」
リコが劫火を渦巻き回転させ始めた。
内側から黒い炎が噴出し、リコの劫火と争うようにして互いを灼き尽くそうと絡み合い渦巻いている。
「次唱・・
リコの掛け声と共に、煉獄の劫火が一気に輝きを増し、緋色から白色に、そして青白い炎へと変じていく。
「追唱・・
上方から無数の光柱が降り立ち、光る
(細剣技:12.7*99mm・・・付与・聖、光、蝕、毒、速、魔、闇、重、双、震、貫、裂、衝、回、吸、喰・・・
上空から見下ろすようにして光の檻を眺めながら、俺は細剣技による掃射を開始した。
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