第166話 集結
「どうだった?」
俺が振り返ったそこにゾールとエリカが立っていた。
2人がそれぞれ偵察に出て、周辺状況の確認をしてきたのだ。
「ゾールさんの予想通りの位置取りになっています」
エリカが、リコの
「北からヤガール、エイプラス、カンルーラ、ウォルダンが陣地を築き、会談場所となるプルフール村にはカリーナ神殿の神殿騎士が陣取っております」
ゾールが手短に報告した。
「カリーナの長は?」
「レイン司祭、アマンダ神官長、神殿騎士の束ねはミューゼル神官です。神殿騎士は51騎」
「村の人達にとっては迷惑なことだな」
俺は苦笑した。
会談の場所に指定されたのは、レイレン湖という美しい湖の
ヤガール、エイプラス、カンルーラ、ウォルダンの四王国の代表がそれぞれ護衛の騎士を引き連れて明日から始まる会談に向けて準備をしていた。当然、小さな村に入るわけにはいかない。各国共、いらぬ
無論、各国の使者が陣地間を行き来し、プルフール村のカリーナ神殿とも連絡を取っていた。
この騒動の仕込みは、カンスエル・ドークという男だ。
魔王が誕生したと触れ回ったのだ。
俺に会った後、あちらこちらへ出没して、煽動して回った結果だった。
「魔人は?」
俺はリコの地図へ眼を向けた。
「わずかな数ですけど、こことここに潜んでいます。転移陣を構築しているようです」
リコが地図上に指を滑らせた。
リコが"眼"で見て、ゾールとエリカが目視で確かめてある。ほぼ誤差の無い位置情報だろう。
「アマンダ神官長が先生に会いたいって言ってました」
プルフール村へ行って来たエリカが封書を差し出した。
「アマンダさんか・・」
封書の中身は、案の定と言うべきか、ほぼ質問状となっていた。
「・・お元気そうだ」
"神"の相手をするべく本殿から出張って来たのだろう。最近では、滅多に本殿を留守にする事が無いらしいが・・。
「こちらの腹づもりは伝えてくれた?」
「はい。レインさん、アマンダさん、ミューゼルさん、3人がいらっしゃる場所で伝えました」
エリカが頷いた。
「ありがとう。リコ・・ヨーコとサナエの方は?」
「今のところ討ち漏らしは無いようです」
2人は"眼"の外を巡って邪魔者の排除を行っているのだった。魔物に混じって、この場に招かれていない国々の影者が忍び込もうと集まってきている。他にも、遠方からの覗き見を試みる魔導師も居たらしい。中には、ここに来ている四王国の間者も混じっているだろうが知ったことでは無い。
「勇者は?」
俺の問いかけに、リコがわずかに笑みを見せて首を振った。
それらしい人影は見当たらなかったようだ。虎の子の兵力ということで、本国に温存してあるか、あるいは使い物にならないので置いて来たのか・・。
「では・・確認しよう」
俺は居並んだ仲間達の顔を見回した。
カンスエル・ドークは、魔王の因子を宿した人物を華々しく登場させるために中央平原の主立った国々を煽って集合させた。カリーナ神殿は表向きは各国に
「みんなが予想するように、俺を魔王として認定させ、各国の軍勢で討伐させようという企みなら、四王国、魔人を問わずに殲滅戦になる。俺は、カンスエル・ドーク・・その後ろに居る奴を狙って動くことになるだろう」
あるいは、この殲滅戦をもって、俺という魔王が誕生したのだと喧伝するつもりなのかもしれないが・・。
「本当に魔王が出て来たらどうしますぅ~?」
エリカに連れられて、ヨーコとサナエが舞い戻ってきた。
「俺を狙って動けば叩くが、四王国を相手に動くようなら放置だ」
四王国共、申し合わせたように騎士を五千騎ずつ連れて来ている。どの程度戦えるのか、見物だった。
「十中八九、うちの大将を魔王だと誤認させるための罠だと思うがのぅ・・」
オリヌシが太い腕を組んだまま唸るように言った。
「転移してくる魔人達、四王国の騎士団、カリーナ神殿騎士・・これに、新生するという魔王が加わって、我が君を狙って来ると想定しておくべきでしょう」
「やっぱり、先に四王国だけでも片付けちゃいません?」
ヨーコが手刀で斬り払うような仕草を見せる。
「先生としては、カリーナのレイン司祭は護りたいんですよね?」
リコが俺の顔を見る。
「そうだな。だけど、あちらはアマンダ神官長が一緒なら大丈夫だろう」
「ミューゼルさんも居ますからね」
エリカが頷いた。
「・・魔王の名前がちらつけば、自慢の勇者達が登場するかと期待したんだけどな」
俺は口元を軽く歪めた。
様子見を決め込むなら、五千騎もの騎士達は多すぎる。四王国合計で二万騎という騎士が無為に散って土に還る事になりそうだ。
不意に、その場の全員が視線を振り向けた。
「来たか」
「来たわよ」
むくれた顔の天空人が立っていた。
ラキン・デス・ライリュール・ミドン・ジィ・リエン・モーラン・ウル・リーエル・・・ラキン皇国の皇太后と、
「また大勢連れて来たな」
甲冑姿の天空人が500人近く並んでいる。
「近衛よ。要らないって言ったんだけどね。どうしてもって宰相の奴が押し付けたのよ」
あら、みんな強くなったわね・・などと言いつつ、リーエルが俺の横に並んで地図を見る。
「カンスエル・ドークって生意気なお人形が来たんだけど、あいつって本物?」
地図を見たまま、リーエルが
「神を名乗って現れた。色々と言っていたが・・うちの連中は、俺を魔王に仕立てる茶番じゃないかと疑っているな」
「ああ、それはあるかもね。あんた、滅茶苦茶強くなってるし、実際、歩く災害だもんね。魔王とか言われても今更じゃない?」
リーエルがずけずけと言いたい放題だ。
「まあな・・」
俺は苦笑しつつ、リコ達を見た。
居並んでいた全員が笑みを見せつつ頷いている。
「ラキンの年寄り達は、北の魔族領が騒がしいとか言っていたわね」
「・・魔人が?」
北の魔族領といえば、踏み入って暴れたことがある。古エルフの里を狙って来た魔人も、北の魔族領から来た連中だった。
「大物が動いているんじゃないかって・・まあ、阻害されて観測できていないから、ただの憶測だけど」
「数はどのくらいだろう?」
「大物になればなるほど内包する魔素が桁違いに大きいわ。渡界の負担はそれだけ大きくなるから・・普通に考えると、外に出てくることすら出来ないんだけど」
「・・出て来ると?」
「いつまでも渡界の減衰がどうのと言っている連中じゃ無いでしょ。そういう研究を重ねて何か方法を見付けたんじゃない?」
「あんたはどうなんだ?」
「天空人というか、ラキンは魔導門を開発したわ。まあ、近衛は3割減ってところだけど。私はちょいちょい遊びに来てたから耐性が付いたわよ」
ラキンの皇太后がにやりと口元を綻ばせる。
「・・同情するよ」
俺は、リーエルの後ろに並んでいる近衛達に労りの声をかけた。
「始まりそうね」
リーエルが顔をあげた。
「そうだな」
俺も夜空へと視線を向けた。
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