第165話 神が来たっ!
小さく扉を叩く音がして、
「先生、神様だって人が来てるんですけど?」
リコが扉越しに声を掛けてきた。
「神?」
常ならば、相手にせずに追い返せと言うところだったが、そういう存在を創ったと言う奴と対話したばかりだ。
「外で会う。待たせてくれ」
部屋に居たタロンに館を中心に全周警戒するよう頼みながら玄関のある一階へと向かった。
廊下に並んだ部屋から、エリカやヨーコが覗いている。
「一緒に来るか?」
「良いんですか?」
聴きながらも、いそいそと部屋を出て後ろをついてくる。途中、食堂に居たサナエが加わり、玄関前でリコが合流した。
外で待っていたのは、疲れたような顔色の中年の男だった。
白髪混じりの金髪で、赤みがかった茶瞳。中肉で中背。やや猫背で見るからに冴えない雰囲気を醸し出しているが、俺は当然として、後ろに並んだ4人の少女達も、外見で相手の程度を判断するような甘い世界を生きていない。
「貴方がシン殿ですかな? お初にお目にかかる。わたくし、このカルファルドで神をやっている者でして、一般にはセインズールなどと称されております」
男は、慇懃に身を折って見せた。
「シンだ」
俺は短く名乗ってから男の正面に立った。こちらは、花妖精。元から細身で小柄だ。中背の男を前にすると、少し見上げる形になる。
「どうします?」
いきなり男が訊いてきた。
「何を?」
「カルファルドの未来を」
「意味が分からないな」
俺は苦笑気味に首を振った。
「貴方は、創造主を害そうとされました。代わって何かを成そうという望みがあったのではありませんか?」
「いや何も無い。少し腹が立ったからやっただけだ」
「・・・腹が立ったから?」
神を名乗る男が、わずかに目を細めたようだった。
「そうだ」
俺は無表情に男の顔を眺めながら自然体で立っている。
「カルファルドの行く末には御興味が無い・・と?」
「そうだな」
「それは・・貴方にとって問題が生じない範囲において・・という事でしょうな?」
「俺と俺の・・仲間達にとってだな」
「・・なるほど」
男の視線が、俺の後ろに並んでいる少女達へと向けられた。
「さぞや、大切な方々なのでしょうな?」
「そうだな」
「ぁ・・」
男が思わず声を漏らした。
「幻では無さそうだ」
目の前、すれすれの位置に俺が立っている。右手の人差し指が、上着の上から男の胸元を抑えていた。
「訊きたい事がある」
「・・なるほど、貴方は危険だ」
男が低く感情を抑えた声で呟いた。
「敵意を持っている存在にとっては危険かもしれないな」
俺は一歩下がって男を正面に見た。
「この世界の神を敵に回すおつもりか?」
「敵に回れば狩る。味方になるなら放っておく。それだけだ」
「・・神を
男がそっと嘆息した。
「そもそも、俺の認識には人の家を訪ねてくる神など存在いない。あるとすれば、神を
「わたくしをお疑いに?」
「疑う? なぜ、そう思う?」
「・・では、わたくしが神だとお信じになる?」
「体は人間のものだ。魔素の巡りは魔人のそれに近い。霊気の
すでに指で触れたのだ。隠蔽されていた情報は洗いざらいに見透している。
「・・・やはり、貴方は危険です」
「面白い成り立ちをしているようだが、捨て駒にしても力が足りていないな」
再び、俺の指が男の胸元に触れていた。
身動き一つできず、指が胸元に触れてから反応している。
「動くな」
短く警告をした俺は、男の背後に寄り添うように立っている。今度は、俺の指先が男の後頭部に触れていた。
「神を
目の前の男の体は造り物だった。ただ切り貼りしたような稚拙な生き物では無い。様々な生き物を霊的に混ぜ合わせた
「キメラを御存知なのですか?」
「造り方も、壊し方も知っている」
「わたくしの創造主を?」
「お前自身だろう? カンスエル・ドーク」
「・・やれやれ、本当によく見える眼をお持ちだ」
男が口元を
「用件を聞こう」
「共闘のお願い・・ということになりますな」
「断る」
俺は首を振った。
「・・では、ひとまずの休戦では?」
「戦ってもいないのに休戦か?」
妙な事を言い出す奴だった。
「我が主には、今少しの時間が必要なのですよ」
「対価を示せ。その価値によって猶予期間を定めよう」
「・・時間を買えと?」
「そうだ」
「ふむ・・金銭など必要とはしておらず、武器防具は羨ましいほどに整っていらっしゃる。配下の方々にも恵まれて・・となると、価値ある物の選定が難しゅう御座いますな」
俺の顔を見つめながら、男がしばし口を
「・・情報でしょうか」
「いい線だ」
「送還の魔法を求めていると
「それはすでに終わった話だ」
確実な方法は存在しないという結論に達している。低確率の博打のようなやり方なら、わずかに可能性があるのだが・・。
「おや、そうでしたか・・すると」
「キルミスについての情報だ」
「意地の悪いことを・・」
男がひっそりと笑った。
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