第146話 悪魔が来た!
バルハルの館を中心に、黄金色をした甲冑人形が楯を構えて円陣を作っている。
それを見下ろすようにして、館の出窓にタロンが姿を見せていた。
「おとさん、だいじょうぶ?」
「ゾール、ゲンキ、ダイジョウブ」
「パパは?」
「パパ、ツヨイ、モットダイジョウブ」
もう何度目になるのか。出窓に並んで腰掛けたタロンとリリアンの会話である。
転移して襲撃してきた悪魔達を、エリカの転移術で再転移させて無作為に方々へ散らばらせた上で、こちらから転移による奇襲攻撃を掛けているのだ。少女4人のチームと、オリヌシと3人の獣人にゾールを加えた5人のチームに別れて急襲していた。
悪魔達の個々の能力は、魔人で言うところの狂王から覇王の間といったところだったが、ほとんどの悪魔が"人殺し"の特性持ちだった。人数差もあり、激しい戦闘になっている。
さらに当初の82体を追うようにして、500体を越える悪魔が転移をしてくる。
俺とラースは、そちらを担当していた。
といっても、転移の予兆を感知し、正面へ移動して待ち伏せ、実体化してくる悪魔めがけて細剣技:7.62*51mm を打ち込んでいるだけだったが・・。
効かない相手が出てくれば、細剣技:12.7*99mm そして、Rheinmetall 120 mm L/44 へと変更していくつもりだが、今のところは、付与を盛った 7.62*51mm だけで瞬殺できている。魔人と違って、悪魔達は甲冑のようなものを着ておらず武器も持たない。肉弾戦というより、魔素を使った魔技、魔法の類いを得意としていて、精神攻撃や幻覚、呪術の類いを多く使ってくるようだった。
(形も気持ち悪いのばっかりだ)
蛸っぽい形状でイボが全身を覆ったやつだったり、毛のような触手がびっしりと体表を覆った四つ足の生き物だったり・・。
あるいは、"魔族鏖殺"の特性が無ければ苦戦したのかもしれないが・・。
距離にして、1~2キロという間合いを保ったまま、転移してくる悪魔達を片っ端から皆殺しにしている。
特に数えはしなかったが、もう200体以上を屠っただろう。
(あれで、魔人と祖が同じ?・・信じられないな)
いつぞや言葉を交わした悪魔は、魔人と悪魔の祖先は一緒だと言っていたが・・。
魔人はやたら身体が大きかったり、腕やら眼やらの数が多かったり少なかったり、翼があったり、下半身が蛇だったり・・といった感じで、さほどの違和感は覚えない。ただ、悪魔の方は、どうにも生理的に受け入れられない。ひたすらに気持ちが悪かった。見ていて気分が悪くなるのだ。あの外見も、一種の攻撃手段なのかもしれない。
(そろそろ、7.62*51mm が打ち止めか。次はどうしようかな・・)
付与を使わなくても、1時間あたり、960発×9,999回 を距離 1500メートルから打ち込める。これに付与魔法を乗せると、双撃になるために倍の回数で、なおかつ威力も距離も伸びる上に傷口から様々な状態悪化が引き起こされて悪魔達を苦しめるのだ。
集団で転移してくる悪魔達は格好の的だった。
これの下の、細剣技:5.56*45mm は、どちらかと言えば単体を相手にする時の牽制用程度だし、9*19mm などは尋問でしか使用した事が無い。
(・・・12.7*99mm にするか)
悪魔達の残存数は分からないが、1時間経てば 7.62*51mm が満量まで回復するのだ。12.7*99mm は、ばらまくだけなら6000メートルの彼方から打ち込める。命中精度を求めるなら2000メートル程度だが・・。
悪魔からの反撃を回避するのはラースに任せて、転移してくる集団めがけて躊躇無く打ち込んで回る。転移を発見、察知するのはラースの仕事だ。楽しい遊び相手を見つけたとばかりに、未だ転移が完了しない内から発見して、大喜びで駆け付ける。その襟首に跨がった俺が、細剣技を乱れ打つという・・途中から作業と化していた。
殲滅速度があがり、いよいよラースが止まらなくなっている。
大はしゃぎで宙空を疾走し、数キロ離れた地点へも瞬く間に駆け付ける。瞬間移動かと疑いたくなるくらいに速い。
(こいつも、魔技やら武技やら凄いな・・)
いつの間にか、ラースの魔技や武技の数が俺より多くなっていた。数で勝っているのは耐性くらいか。この頃の模擬戦には、ラースやバルハル、タロンまで参加してくるから、それぞれ多芸になっているのは知っていたが・・。
(ラース・・俺より魔法の才能があるのか)
羨ましいことに、風と雷、暗黒といった名の付く魔技をそれぞれ30種類以上も覚えていた。生命量や魔力量では俺の方が勝っていたが・・・なんとなく、負けた感がある。
(まあ、リコ達に比べれば・・)
あの4人は、多芸多才の塊である。耐性数、武技、魔技、加護、特性、さらには俺には無い、称号という項目欄があり、ここの称号が心身の能力に影響を与えているのだとか。
覇王程度と良い勝負をやっているのも今の内だけだ。ものの数ヶ月で数段上の強さを身につけるだろう。
(・・オリヌシやゾールは凄いな)
あの少女達を上回る能力を身につけている。それぞれ得意分野に特化していて、少女達のような万能型では無かったが、十分に肩を並べられる戦闘能力を身につけていた。
もしかしたら、オリヌシやゾールにも、召喚されたり転生したり・・そうした異世界の血が混じっているのかもしれない。
オリヌシが連れているアマリス達で、どの程度なのだろうか。
いくつか魔法、魔技を覚え、それなりに武技も使えるが、生命量や魔力量はわずか数千足らずだ。治癒魔法や自己回復の武技を身につけているので何とか同行できているが、魔人などを基準に考えればすぐにも殺されてしまいそうな脆弱さだ。
ゾールの愛娘リリアンも、当然と言えば当然だったが、とても戦場に連れて行けるような身体では無い。
予知夢という能力があり、魔力量もアマリス達より多く、治癒魔法も使えるし、精神耐性が高い。ただ、予知夢はリリアン自身のことが視えないらしく、俺が知るだけでも2度、命の危機に陥っている。当然、魔人あたりに狙われればリリアン1人では対抗しきれないだろう。
アマリス、エルマ、リュンカ、リリアン・・この4名が、常識的な人間の範囲なのだろう。バルハルが背負う"館"が無ければ、こうして連れて回る事も難しかった。
「タロン、バルハル、家の護りを頼むぞ!」
「ハイ、パパ! タロン、マモリテ」
出窓から頭を覗かせて、タロンが小さな手を挙げて見せた。下で、物言わぬ粘体が体の一部を触手のようにして挙手していた。
「リコっ!」
範囲魔法のごり押しで悪魔の集団を灼き払っているリコの元へとラースを走らせた。
「転移元は見付けたか?」
「・・はい!」
リコが頷いた。転移元を潰さないと、いつまでも受け身で戦わなければならない。
「別の世界?」
「そのようです。なんというか・・上も下も無いような・・真っ暗な空間です」
僅かに光はあるらしいが、ほぼ暗黒といって良いぐらいに暗い世界らしい。
「空気が無いとか、アイーシャが言ってたな」
そのため、攻め入ったアイーシャ達は諦めて退散しなくてはならくなったのだ。
「本当みたいです」
向こうの空気は、人にとっては毒になる成分を含んでいるのだとか・・。
「それでも位置の特定はできるんだな?」
「はい」
「よし・・・エリカ!」
やや離れた場所で、弓による連撃を行っている少女に声を掛けた。
「先生?」
エリカが瞬間移動で現れた。
「リコが見ている先に俺を飛ばして、10分経ったら連れ戻して欲しい」
俺の依頼を聴くなり、エリカが不審そうにリコを見た。
「・・リッちゃん?」
「見えてる。何て言うか・・隕石みたいな岩をくり抜いた物があって、そこに悪魔が集まっているわ」
「先生、大丈夫なんですか? 呼吸できないんですよ?」
エリカがじっと眼の奥を覗き込むようにして見つめてくる。
「だから、10分だ」
俺は苦笑気味に答えた。単に呼吸を止めているだけなら、もっと長く無呼吸状態を保てるが、戦闘をしながらとなると10分程度だろう。
「見ていて危なくなったら、無理にでも転移させますよ?」
「それで良い」
あくまで奇襲を兼ねた様子見だ。ろくに呼吸が出来ないような世界で長居をする気は無い。
「・・それなら」
リコがエリカを見た。
「分かりました。転移やります」
エリカが小さく頷いて見せる。
「頼む」
俺は抜き身の細剣を右手に、左手には騎士楯を握り、兜の鬼面を閉じた。
(ゾエ・・)
『御館様、魔国は気温が極めて低うございます。10分という時間は、御身にとっても、かなりの負担になるかと・・』
(そうなのか・・毒もあるらしいから、少し短めに・・3分くらいにしようか)
『そのくらいならば・・』
「ああ・・時間は3分にしよう。そのくらい危ない場所らしい。あまり欲張らないことにする」
俺が言うと、リコとエリカが大きく頷いて見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます