第135話 帝都へ行こう
赤茶けた乾燥しきった荒野の中に、高い城壁に囲まれた巨大な城があった。
城壁は高く、その向こうに聳えている城はそれ自体が山のように幾層にも積み上がった造りをしていた。旧帝都・・栄華を極めた魔導帝国を偲ばせる偉容だったが、今は悪魔達が居座る城となっている。
まだ距離にして8キロほどあるだろうか。
荒野に遮る物が無いため、これだけの距離で眺めても長大な城壁の連なりが見て取れる。当然、向こうからも見えているのだろう。城壁上に大きな玉のような黒い物が浮かび上がった。
「目玉です」
リコが呟いた。
城壁上に浮かび上がった目玉はそのままに、翼のある蛇のような飛影がいくつも舞い上がっていき、こちらに向けて押し寄せて来た。
「私達を試す感じかなぁ?」
「蛇っぽいから、毒とか吐くのかも?」
「こっちを観察していたんなら、火とか雷は無いでしょ」
「りっちゃん防御で、エリの弓スタート?」
「いや、あいつらはラースに任せて、もっと近づこう」
少女達の打ち合わせに割って入りつつ、命令を待ちわびている銀毛の魔獣に頷いて見せた。尻尾を振りたてていたラースが喜び勇んで空中を駆け上がって行った。
「リコの魔法はここから届く?」
訊ねると、リコが首を振った。
「届く魔法もありますけど、あまり攻撃力は無いです」
「ヨーコやエリカの武技は?」
「私のは短いです。たぶん、500メートルくらいかなぁ」
「私の弓だと1キロちょっとですね。でも、威力と命中精度が落ちます」
2人がそれぞれ答える。
「サナエは?」
「う~ん、3キロくらいからならメテオがぎりぎり届くかなぁ~ コメットは射程1キロぐらいですねぇ」
「リコ?」
「3キロなら、届く魔法が増えます。呪炎系になりますが・・悪魔に呪炎って効きますかね?」
リコが呟いた。
「よし、エリカの転移で3キロまで接近、バルハルを中心に陣地を築く」
遥かな遠い空でラースが交戦を始めていた。翼のある蛇達はラースより大きかったが、ラースの方が優勢のようだ。それでも、数百という数で押し寄せるため、ラースも蛇の攻撃を受けている。まあ、はしゃいでる感じなので大丈夫そうだったが・・・。
「銀龍を呼んでラースの援護をさせてくれ」
「はい」
少女達がそれぞれの龍を呼び出した。
ほぼ伝説級の白銀龍が4体も舞い降りてきて、少女達に鼻面を撫でられている光景に、
「相変わらず、とんでも無いのぅ」
オリヌシが呆れ顔で唸った。その後ろで、アマリス、エルマ、リュンカの3人が遠い眼差しをしたまま無言で見守っている。
少女達に指示を受けた銀龍達が舞い上がって行くのを見送り、一度、全員がバルハルの背負った館に入って前進を開始した。
何しろ馬より速い。揺れない。傾かない。
「とんでも無いのぅ・・」
オリヌシが溜め息混じりに唸る。
その時、
「先生っ」
何やら喜色を浮かべたリコが袖を引くようにして窓辺へ誘った。外を見てみると、
「お・・」
まだ遠いが、見知った男がこちらに向けて駆け寄ってくるところだった。
「おう! ゾールか!」
後ろから覗き見たオリヌシが吠えるように声をあげた。
懐かしくすら感じる凶悪な容貌と痩せた体つき、腕に抱かれた愛娘のリリアンも元気そうだ。
「そういえば、あいつも西大陸に行くって言ってたな」
「良かった。リリアンちゃん、元気そう」
エリカが嬉しそうに言いながら玄関扉を開け放った。
みるみる近づいて来たゾールが並走しつつ、許可を求めるように刃のような双眸を向けてくる。
「入ってくれ!」
「感謝します」
声と共に、バルハルに並走していたゾールが玄関から飛び込んできた。
「リリアンちゃん!」
リコやヨーコ、アマリス達まで、わっと歓声をあげて父娘を取り囲んだ。
「元気そうだ」
「はっ、シン様も御健勝そうで何より」
ゾールがはにかむリリアンを床に下ろしながら片膝を着いて一礼した。
「おう!御健勝も御健勝、すっかり化け物だぞ」
オリヌシが破顔する。
「おまえのどら声も磨きがかかった」
「おっとそうだった。声が大きくてすまんな、リリアン!おぬしも元気そうで良かったぞ!」
オリヌシに声を掛けられ、リリアンが大急ぎで父親の背中へ隠れた。
それを見て、
「神眼を使う」
ひとこと断って、神眼・千 を起こした。
視たのはゾール父娘では無く、その周囲・・さらには室内から窓の外、玄関扉にかけてだった。
「先生!?」
エリカが緊張した声をあげた。
瞬間、
「サナエっ!」
鋭い声をあげながら、俺は左手でリリアンの額を鷲掴みにした。思わず腰を上げかけたゾールを制するようにリコが手を広げて立ち塞がり、サナエがリリアンに向けて聖光を浴びせながら同時に治癒術を使う。
「引き剥がすぞ?」
俺の声に
「大丈夫ですぅ~」
サナエの返事は気合い十分だ。
「面倒な呪いだが・・」
俺の神眼は、リリアンの身体を包み込んでいる汚れのような付着物を捉えていた。表面ばかりでなく、木が根を張るように幼い身体の中へ細い繊維のような影が入り込んでいる。
(ゾエ・・・ヤルタンシュと視える)
『魔界の寄生生物です。寄生した宿主から魔力を吸いながら、少しずつ侵食して宿主に成りかわって自我を奪い盗る・・・すでに相当な侵食量でしたが』
サナエが聖光術で肉体の損壊部位を再生しつつ、高位の治癒術で精神まで癒していた。
すでに、俺の左手には皮袋のようになった不気味な寄生生物がぶら下がったまま白い無数の触手をざわめかせている。剥ぎ取られた瞬間は幼女の肌身のような姿をしていたが、今は暗い紫色になり徐々に灰褐色に変じつつある。
「魔界の寄生生物らしい」
凶相の父親を見ながらリリアンの状態を説明した。
「苦情は後で聴く。まずは・・・どこで寄生した?」
俺は操辱・指 を使いながらヤルタンシュという化け物に声を掛けた。
「ヴ・・ヴァエ・・・ヴァエホル」
「そんななりで声帯があるのか・・・誰かの命令か?」
「いら・・い」
「誰の依頼だ?」
「・・・ゼシュー」
「どういう地位の奴だ?」
「かんとく・・しゃ」
「・・監督者?」
「ネイジィール・・じょうしゅ」
「城主? 監督者じゃないのか?」
「・・わざわい・・あれ」
掠れた声と共に寄生生物が灰状になって崩れていった。ただの捨て台詞では無かったらしく、呪詛らしい感覚があったが、俺の耐性を突破できるほどでは無かった。
「先生・・遠方から魔力が向けられています。私の使い方と同じ・・座標を狙っている感じの魔法です」
リコが小声で囁いた。
「サナエ、ヨーコは、リリアンを守れ」
俺は鬼鎧を纏いつつ、細剣と騎士盾で武装した。少女達も即座に神具で身を固める。
「来ます」
リコの声を聴きながら、魔力を感じとった俺は騎士盾を持った左手を前に、収縮していく魔力めがけて突っ込んだ。
具現化して何らかの効果をもたらそうとしていた魔力が霧散して搔き消える。
「リコ、視せてくれ」
「はい」
リコが身を寄せて、俺の背に手を当てた。すぐに、リコが感じ取っている魔力の凝縮地点が可視化されて、周囲に渦のようなもの無数に浮かんで見えた。
すかさず、盾を握る左手で次々と殴り消していく。
「相手の位置を特定できる?」
黙々と魔力の凝縮点を叩き潰しながら、背中に付き添うリコに訊ねる。
「まだ精密には分かりません。でも城内なのは間違い無いです」
「よし・・」
俺は窓から見えている旧帝都へ眼を向けた。
「全員、耳を塞いでおいてくれ」
延々と繰り返される魔力の凝縮を叩きながら注意を促すと、窓から見える旧帝都めがけて、細剣技:Rheinmetall 120 mm L/44:M830HEAT-MP-T を打ち放った。使い込んだおかげか、射程は4キロに達するようになっている。1時間に打てる数は999回。だが、付与・双を乗せることで、同時に2発が放たれるのに、1回としてカウントされるという・・とても危険な武技と化していた。
城壁の上縁を粉砕して破砕煙を立ちのぼらせた。
(もう少し上か)
それで、城壁越しに内部へ放り込めるだろう。
いきなり数を増やした魔力の凝縮点を忙しく叩き消しつつ、続けざまに8連撃を打ち放つ。
今度は城壁ぎりぎりを掠めるように越えて、内部のどこかへ降り注いだらしい。立て続けに凄まじい轟音が鳴り響いてきた。何かが燃え始めたのか煙も立ちのぼり始める。
与えた効果のほどは分からない。
ただ、しつこく繰り返されていた遠距離からの魔法の狙撃が止んだ。
「防御と回復に徹してくれ」
言い置いて、館の外へ出るなり、
(ゾエ、踵を固定っ!)
『畏まりました』
鬼鎧の踵から杭のように地面へと突起を打ち込ませて足下が固定されると、そのまま細剣の先を旧帝都へと向けた。
(・・残り全部打ち込んでやる)
俺は、細剣技:Rheinmetall 120 mm L/44:M830HEAT-MP-T の連撃を開始した。
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