第132話 緊急招聘
控え目に扉を叩かれたので外に顔を覗かせてみると、獣人の若者が立っていた。身なりからして城勤めだろうか。
「尊師にお客様が訊ねて来られましたが・・如何致しましょう?」
ラオンを入城させた一件以来、カサンリーンの獣人達は俺の事を尊師などと呼ぶようになってしまった。
「・・名は?」
「アイーシャと名乗る女性で御座います」
「ああ、アイーシャか。1人?」
「いえ、エルフ族の女性をお連れです」
「そうか・・通してくれ」
「はっ」
若者が身軽く立ち去って行く。
場所は、カサンリーンの王城にある中庭だ。そこに、バルハルを移動させて住んでいる。来客は、王城の城門を通る必要があるため、こうして城勤めの人間が報せに来るのだった。
丁度、
「先生、お客さん?」
オリヌシとの鍛錬が終わったらしく、4人が連れ立って戻って来た。
途中で、伝令役の若者と擦れ違ったらしい。
「アイーシャとヒアンらしい」
「アイーシャさん?」
「事件だ、これ・・」
「ヤバイ占いかもぉ」
「ヒアンさんも?」
玄関から小走りに館に駆け込むなり、それぞれ3階にある自室へと上がっていく。
俺は読みかけの本に栞を挟んでテーブルに置くと、タロンを呼んでお茶の準備を始めた。
「パパ、オチャウケ、ドウスル?」
「タロンと焼いた煎餅にしよう」
「ワカッタ、オチャハ、コクスル」
「うん、そうだな」
2人?で手際よく、お茶の仕度をしているところに外から足音が近付いて来て、開けたままの玄関にアイーシャの顔が覗いた。
「・・上がって良いかい?」
「どうぞ」
「ドウゾ、オアガリクダサイ」
「へっ?・・あ、ああ・・ええと、ありがとうね」
アイーシャが、タロンを見てギョッと身を竦ませてから、信じ難い物を見る目でそのタマネギのような鉢金を見つめつつ、ソファーに腰を下ろした。
「お邪魔します」
続いてヒアンが姿を見せた。紙の包みを手に提げて、館の中を見回すようにしながらアイーシャの隣に腰を下ろす。
「スコシ、アツイノデ、オキヲツケクダサイ」
タロンが2人の前に湯気の立つ湯飲みを置いていった。
「・・・・ねぇ」
アイーシャが俺の顔を凝視してくる。
「どうした?」
「今の・・」
アイーシャが何か言いかけた時、
「オチャウケニ、ドウゾ」
タロンが音も無く姿を現して、木皿に盛った煎餅を置いていった。
「ひっ・・あ、ああ、ありがとう・・美味しそうだね」
アイーシャが引き攣った笑顔を見せつつ礼を言った。
「ドウゾ、ゴユックリ」
ぺこりとお辞儀をして、タロンがすうっと消えていく。近頃、覚えた瞬間移動の魔技である。エリカの瞬間移動とは手法が違うらしく、長距離は跳べないようだが、この館の内なら何処にでも移動できるらしい。
「ええと・・ね」
アイーシャが頭を抱えるようにして小さく溜息をついた。
「あれって・・あれだろ?」
「コーリン様、今のは・・」
ヒアンがそっと訊ねた。
「どこで拾って来たんだい?」
「ん? タロンのことか?」
「ああ・・さっきのタロマイトさ」
「霊峰跡地だ」
正確には地下空洞の魔素溜まりの中だったが・・。
「霊峰・・あそこかい。あんなところに・・」
「知ってるのか?」
「・・そりゃあね、あれを造った奴とつるんでいた時期があったからさ。でも、あれは・・破壊されたはずだけど・・・」
「動いているじゃないか」
「・・まあ、そうなんだけどね。あたしが記憶してるのより小さくなったし・・」
「タロンを破壊したというのは魔人か?」
「いや、それが分からないんだよ。あたしが見付けた時には破壊されてたからね・・それに・・いや、やっぱりおかしいね。あんな身体じゃないはずだよ? ちゃんと金属の手足をしていたんだ」
「ふうん?」
「あんたねぇ、タロマイトはあれだ・・ほら、あたしが世界を壊してやるって息巻いてた時に、その当時のつれが造ってくれたやつなんだ。聖法具を依り代にして造ったから、馬鹿みたいな量の聖術を浴びせないと起動できないはずなんだけど・・」
アイーシャが難しい顔でブツブツと呟いている。
「・・まあ、良い奴だぞ?ちゃんと掃除の手伝いをするし、最近は料理もするようになった」
「まあ、あの子、お料理も出来るんですか?」
ヒアンが感心したように声をあげる。
「結構、上手だぞ・・というか、この館で一番腕が良いな」
俺が苦笑しながら言った時、背後で軽く咳払いがした。着替え終わった少女達が降りて来たらしい。
「お久しぶりです。アイーシャさん」
エリカが代表して挨拶をした。
「ねぇ、聴いておくれよ。あんた達の先生が、またやっちゃってんだよ!」
「・・はい?」
「タロマイトさ、あの・・」
「ああ、タロンちゃんですか?」
「あれって、ヤバイんだよ?動き出したら最後、人間を皆殺しにするまで停止しない兵器なんだからね?」
「う~ん?・・良い子ですよぉ?」
サナエが首を傾げた。
「いや・・あのねぇ・・本当に頭のぶっ飛んだ奴が狂ったようになって造った終末兵器なんだから・・」
「あははは・・大丈夫ですよ。悪い事したら、恐ぁ~いパパが怒りますから」
ヨーコがけらけらと笑い飛ばす。
「・・・まあ、そうなんだろうけどね」
アイーシャが溜息をついた。
「色々突っ込みたいけど・・家を載せてる神獣のこととか、色々聴きたいんだけども・・今日は別の件で来たんだ」
「今度は何だ?」
「・・煌王が来るのさ」
アイーシャが疲れの滲む顔で言った。
「煌王・・確か、魔人の・・覇王の上だったな?」
魔人を尋問した時に、それらしい事を言っていた。
「そうさ。そいつが、覇王やら狂王やらを引き連れて魔族領から出て来たんだよ」
「へぇ・・」
「そんでもって、あんた達をご指名だ」
「・・は?」
面識など無いのに、いきなり指名というのは何事だろう。
「一つ目の覇王を斃した奴・・って言ってんだけどね。あんた達なんだろ?」
アイーシャの問いかけに、俺はリコ達を見た。
「・・居たか、そんなの?」
「私達が苦戦した奴ですね。巨人っぽいやつで・・」
「ああ・・あれか」
以前に、リコとヨーコが圧され気味に戦っていた巨人のことらしい。
「やっぱり、あんた達なんだね?」
「どうも、そうらしい」
「以前、ヒアンを送り届けようとした古種エルフの森を覚えてるかい?」
「・・うん」
「あそこの転移門から出て来やがってね、あんた達を連れて来いって言ってんのさ」
アイーシャが出張って、防護結界を張って古種の森を守っているそうだが、魔人がその気になれば結界を壊されてしまう。どうしようかと頭を抱えていたとろこに、煌王の使いだという魔人が、一つ目の覇王を殺した奴を連れて来いと告げてきたそうだ。
「何人だ?」
「煌王が1人、覇王が4人、狂王が12人、蛮王が87人、盟主が215人、他のは若い魔人がぞろぞろ居るけど、まあ数の内には入らないね」
「多いな」
「あまり待たせると古種の森を焼かれちまう。それなりの対価を用意するから、ひと戦やってくれないかい?」
「やるよ。煌王というのに訊いてみたい事があるし・・」
俺は4人の少女達を見た。全員が迷い無く頷く。
「オリヌシを呼んで来てくれ」
「はい・・あ、アマリスさん達はどうします?」
「治癒魔法が使える。オリヌシが許すなら連れて行こう」
癒やし手は多い方が良いだろう。リコやサナエは魔人との戦いで身動きが取れなくなるかもしれない。
「わかりました」
エリカが瞬間移動して消えていった。
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