第131話 入城
「王子がおらぬのでは恰好がつかんだろう」
オリヌシの一言に、居並ぶ獣人達が頷いた。
「しかし、行けば邪魔になってしまう」
ラオンが唇を噛んだ。
犬鬼や大鬼などが相手ならともかく、魔人が相手となると、無駄に死人を増やすばかりになる。
「足萎えの老人を連れているわけじゃない。皆、戦士だろうが?お主を王にするためなら笑って死んでくれる奴ばかりだぞ?」
オリヌシが獣人の戦士達を見回した。
我が意を得たりと、激した眼差しを向けたまま戦士達が大きく頷く。
「道は儂が開く。おぬしの命は、そこのリザ殿、さらには儂の女達が護る。儂が連れて来たヴァキーラの戦士に腰抜けはおらん。それに、おぬしの戦士団がおるのだ。数は少し足りんが、未来の王が入城する体は整えられるだろう?」
「応っ!」
獣人の戦士達が滾る思いのままに声を発した。
「・・分かった。ここまで来て尻込みなんかしたら、冥府で姉君に笑われてしまう」
ラオンが決心を固めた顔で小さく息を吐いた。
「オリヌシ殿、お力添えをお願いします」
「それは、リュンカに頼んでくれ。儂は自分の女のためにやっとるのだ」
オリヌシが、赤髪の獣人の女を前に押し出した。
「オ、オリヌシ様・・」
困り顔でさがろうとするリュンカに、
「リュンカには幾度も命を救われた。恩は生涯忘れない」
ラオンが頭を下げた。
「・・・よき王におなり下さい。それが、我が義母の願いでありました」
リュンカが困った顔のまま告げて、そそくさとオリヌシの後ろへとさがった。
「まあ、そういう事らしいが・・」
オリヌシが大剣を手に王城の方向を振り返った。
そこに、オリヌシの主人が立っていた。黒々とした鬼面の甲冑に身を包んだ、見るからに禍々しい様相だが・・。
「何をやっている?城に行かないのか?」
「ほら見ろ、叱られたではないか」
オリヌシが、ラオンを振り返って苦情を言った。
「城の魔人は・・」
「ほぼ片付けた。まだ隠れている奴がいるかもしれないが・・」
俺は鬼面を開いて顔を覗かせ、手短に現状を説明した。
魔人達は、城の中に魔虫や魔獣を入れなかった。城内にはごく少数の魔人だけが入っていたのだ。その他の魔物達は城外で野営させていたらしい。
そして、城外の魔物は、銀龍を駆る少女達によって空襲され、大半が灼き払われて灰になり、生き残った魔物達も散り散りに逃げ去っていた。
「広い城だ。案内が無くては討ち漏らしがある。あの城に詳しい者はいるか?」
俺の問いかけに、獣人の戦士達が次々に手を挙げた。
「よし・・」
「先生」
呼び声と共に、エリカが瞬間移動をして現れた。
「ほぼ討ち取ったんですけど、1人強い魔人がいます。私達じゃ時間がかかりそうです」
少女達が4人がかりでも長期戦になりそうな魔人が残っていたらしい。
「ああ、俺が行こう。オリヌシ・・」
「おう?」
「ラオンと一緒に城内まで来てくれ。王子は門から入らないと恰好がつかないだろう」
ラオンが堂々と城門を潜って、城を奪還したという事実があった方が後々のためにも良いだろう。
「うむっ!儂もそう思うて説得しとったところだ!」
「そうか。とにかく、魔人は片付けておく。そっちは任せるぞ?」
「おうっ!」
「ラース、ラオンを乗せてやれ」
俺の指示に、銀毛の魔獣がラオンの前に蹲った。オリヌシとアマリス達は、ラースの前だな。戦士団が左右を・・バルハルは後ろ」
大きな魔獣に跨がって入城したとなれば、だいぶ見栄えがするし、遠方に喧伝されるにしても華がある。
手早く指示を飛ばしてから、
「行こう」
「はい」
エリカの手を取って、瞬間移動で戦闘の現場へと跳んだ。
「・・まあ、ああいう男だ。色々と乱暴だが、意外に細かいところを見ておる」
オリヌシが苦笑しつつ、固まっているラオンを摘まむように持ち上げて、銀毛の魔獣の襟元へ跨がらせた。
「すまぬが、少し静かに歩いてやってくれるかの? おぬしの主人と違って、あまり丈夫に出来とらんのだ」
オリヌシの言葉を聴きながら、ラースがゆっくりと身を起こした。
「城まで儂に従ってもらうぞ! 向かって右手に、ヴァキーラの戦士、左手に、カサンリーンの戦士だ。綺麗に列を作って行軍する。カサンリーンの旗はあるか?」
「御座います!」
頭に少し白いものが混じった獣人の戦士が旗を巻き付けた棒を手に進み出た。
「よしっ、おぬしが先頭に立て。アマリス、エルマ、リュンカは3人横並びに、後ろが儂だ。王子っ、覚悟は良いかの?」
「うん! 城へ行こう!」
「うむっ! ではラース殿、儂等に合わせて行進してくれ!」
オリヌシが銀毛の魔獣を見上げて声をかける。ラースが軽く尾を振って応えた。
「カサンリーンの旗を掲げろ!」
「応っ!」
初老の戦士が誇らしげにカサンリーンの旗を掲げ持った。
「ヴァキーラの旗を掲げろ!」
オリヌシの声に、
「はっ!」
右翼に列を作っていたヴァキーラ戦士団の先頭にいた男が急いでヴァキーラの旗を掲げ持った。焼け痕と血脂に汚れていたが、なんとか旗の体を成している。
「よし、進め!」
オリヌシの号令で、旗を掲げ持った初老の戦士が胸を張って歩き始めた。
****
「悪魔とは?」
問いかける俺の指が、女のように細い魔人の首に食い込んでいた。左右に二つずつ、額に一つの眼を持った痩せた体格の魔人だった。
リコ達を圧倒するほどの魔法、魔技を駆使してきたようだが、俺が持つ魔法吸収の魔技によって手も足も出なくなり、こうして捉えられてしまった不運な魔人だ。もちろん、喉に食い込む俺の指は操辱の魔技を発動している。
「・・太古の昔、我等と別れた別種・・」
虚ろな眼差しのまま魔人が答えた。
「どこに居る?」
「魔界に・・」
「魔界とは?」
「・・この世とは異なる世界」
「魔族領とは違うのか?」
この魔人がどの程度の地位なのか知らないが、悪魔について知識があるようだった。
「・・違う・・領は、魔界より渡り来た我等が土地・・・こちらの世界で手に入れた大地」
「悪魔と魔人の関係は?」
「連絡が絶えて久しい・・互いに不可侵・・と・・聴いている」
「ふうん・・悪魔が魔界から渡って来る方法は?」
「召喚・・大掛かりな・・」
「召喚魔法か・・ところで、魔人は何人居るんだ?」
「子は滅多に産まれぬ・・北天の魔族領は5万人程度だ」
人の王が聴けば気絶しそうな数である。
「覇王の上の位は何だ?」
「・・煌王・・」
「その上は?」
「貴王・・」
「すると、盟主、蛮王、狂王、覇王、煌王、貴王・・か。沌主というのは、まだ先か?」
「・・・ぅ・・む・・」
不意にうなり声をあげると、魔人の双眸に力が戻ったように尖った視線を向けてきた。そのまま灰となって崩れていった。まだ命力は残っていたはずだが、自ら命を縮めたようである。
(自我を戻したのか・・沌主というのは、なかなかだな)
アイーシャもお茶を噴いていたし、ちょっとした禁忌なのかもしれない。
「先生、オリヌシさん達が城門をくぐりました」
様子を見に行っていたエリカが戻って来た。
「そうか」
俺は床に転がった大きな血魂石を細剣で貫き徹した。
埃っぽい城内に絶叫が響き渡り、無数の光が舞い上がった。
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