第126話 獣の王国へ
「カサンリーン?」
聞き覚えのある国名に、俺は読み
「おう・・知っておるのか?」
オリヌシが意外そうに大眼を見開く。
「確か・・」
どこかの迷宮を攻略した時に連れ回した獣人の少年が、そんな名前の国から来たと言っていたような・・?
「ラオン君ですよぉ? カサンリーン国の王子様だったじゃないですかぁ」
サナエが囲んでいる盤上を眺めながら教えてくれた。
アマリス達と一緒に、異世界にあるという"人生ゲーム"という物をやっているところだった。エリカとヨーコの合作らしい。
「ラオン・・ああ!」
ようやく記憶が蘇った。
カダ帝国の商館で囚われていた獣人の少年だ。一緒に魔人の女が居たが、なんという名前だったか・・。
「リザノートさんですね」
エリカが言った。
「ああ、そんな名前だったな・・」
「なんだ、あそこの王子がこっちに来ておったのか?」
オリヌシが訊いてくる。
俺は・・というより、主に少女達が当時の様子を話して聴かせた。
「なるほどのぅ・・」
「そのカサンリーンがどうした?」
「なに、いつもの王家の跡継ぎ騒動だ」
「ふうん?」
「お主達と別れてから、儂はこやつ等の故郷へ向かったんだが、あっちこっちで魔物が
オリヌシが連れの女達の故郷を巡った旅の様子を話し始めた。
・・と言っても、たいした内容では無い。
故郷へ着いたが誰もおらず、方々を捜し回る内に、カサンリーン王国で保護されている可能性が高いことを掴んだものの、ヴァキーラ王国を通過中に魔人による侵攻戦に巻き込まれてしまい、体よく利用されて各地を転戦させられて・・。
「相変わらず、お人好しが過ぎるな」
俺は嘆息混じりに言った。
「うむ・・儂もそう思うのだが、どういう訳だか、そういう事になってしまってのぅ」
オリヌシが頭を掻く。
ヴァキーラ王国はほぼ壊滅し、王家の人間の生死は不明。今、オリヌシが連れていた500余名はヴァキーラ王国の戦士らしいのだが、王家の動向を知る者は居ないのだと言う。
「カサンリーンという国に身を寄せているかもしれないな」
「うむっ! 実は、儂が連れとる者達も、そのような事を言っておってな。できれば、連れの奴等をカサンリーンまで送り届けたいのだ」
「また面倒なことを・・」
俺は顔をしかめた。
「そう言うな。これも人助けだ」
「どうして、俺が人助けをしないといけない?」
「むっ?・・それは・・確かに理由は無いのぅ」
「足があるんだ。そいつらが勝手に歩いて行けば良いだろう?」
「だが魔物がおるぞ?」
「戦士だろう?魔物なんか斃して行けば良いじゃ無いか」
「・・それもそうだの」
「足萎えの老人やら赤子を抱えた女やらが居るなら護衛も考えるけど・・」
「いや、実はな・・儂の女が1人、カサンリーンへ住んでおってな」
「・・女?」
「リュンカというんだが、ちと事情が出来ての。カサンリーンの東部にある町に置いてきた」
「・・で?」
「すまぬが、ちょっと立ち寄って貰えぬか?これだけ魔物が溢れると、ちと心配になっての」
「おまえなぁ・・ぐだぐだ言う前に、それを先に言え」
俺は嘆息を漏らした。
「うむ・・ちと、図々しいかと思うてな」
オリヌシが頭へ手をやる。
「用も無いのに行けという方が図々しいだろ? おまえの身内の話なら、ちゃんとした理由じゃないか」
特にこれといった目的地があるわけじゃない。納得ができる理由があるなら、どこへ向かっても良いのだ。
「む・・うむ、そう言われればそうじゃのぅ」
「それで、カサンリーンの王家がどうのというのは?」
「おう! それだ! どういうわけか、儂の女が・・リュンカのやつが、王家の遠縁らしいのだ!」
「・・は?」
間の抜けた声が出た。
「王家の後継争いなど面倒なだけだと分かってはおるんだが、力添えを頼まれてのぅ・・血縁となれば義理というものがある」
「・・・ふうん」
俺は"人生ゲーム"をやっている集団を見た。
話は聞こえているだろうに、誰1人としてこちらを見ようとしない。
「エリカ」
「・・はい」
エリカが、びくっ・・と背を縮めてから、そうっと振り返った。
「説明して」
「・・はい」
観念した顔でエリカが近付いて来た。
「王家のゴタゴタに介入するつもりか?」
「・・そうしたい気持ちはあるんですけど・・でも、迷ってるんです」
エリカが晴れない表情のまま呟くように言った。
「何に迷ってる?」
「責任を取れないって言うか・・その後の事まで面倒は見れないのに関わって良いのか迷うし・・・それに、私達って、もう簡単に関わっちゃ駄目なくらいに強くなっちゃっいましたから・・・反則かなって」
その気になれば、競争相手の王族を丸ごと消し去る事だって出来る。それこそ、万を超える軍勢が相手になったとしても、今のエリカ達なら殲滅できるだろう。
「リュンカというのは、アマリス達と一緒に助けた獣人だろう?」
顔はうろ覚えだが、たしか真っ赤な髪をしていた背丈のある獣人だ。
「はい」
「その上、王家の後継争いの1人が、あのラオンか?」
「・・そうなんです」
妙なところで縁が繋がるものだ。
「ラオンの望みは?」
「まだ会いに行ってないので分かりません。でも・・魔人の侵攻があったから、後継争いどころじゃ無いのかなって思うんですけど」
「・・そうだな」
周辺の国が魔物に滅ぼされている中で、王家の継承争いなどやっていられないだろう。
「私達は、リュンカやラオン君とリザノートさんが無事ならそれで良いんですよ。正直、王家がどうとか興味が無いですし・・」
「リュンカやラオンが玉座を求めたら?」
「魔物の退治とか、ラオン君達の護衛くらいなら協力しても良いかなって思うんですけど」
「リコ、ヨーコ、サナエ・・みんなで話し合った意見か?」
俺の問いかけに、3人が頷いた。
表情からして迷いがあるのは本当らしい。
「ラオンの競争相手だからといっても・・悪人という訳じゃないんだぞ?」
「・・はい」
「相手を殺すのか?」
「・・・いえ・・」
「ラオンの競争相手が武力に訴えるなら応じる。ラオンが武力に訴えるなら無視・・そう上手くはいかないだろう」
「・・ですかね」
「ラオンの依頼で、国内の魔物を駆逐する・・そのくらいなら協力してやっても良い。あくまで、ラオンの知己として・・ラオンだから協力した・・そういう形にすれば、あいつの手柄になるだろう」
「はい・・それが良いと・・今思いました」
リコが頷いた。
他の3人も納得顔で頷いて見せた。
「オリヌシ、俺に雇われる以上、俺達の方針に従って貰うぞ?」
「おうっ! 儂は、リュンカに少しばかり手を貸してやれれば良いのだ。結果として、誰が王になろうが関係無いからの・・・お前達も、それで良かろう?」
オリヌシが2人の獣人に問いかけた。
「はい。それで十分かと」
アマリスとエルマ、2人の獣人の女達が頷いた。
「よし・・なら、まずはリュンカに会って事情を確認しよう」
俺は、読みかけの魔導書を
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