第48話 救出劇
「もう大丈夫ですよぉ~」
サナエが女達の治療をやっているところへ、尖塔の上層に幽閉されていた女達を連れてエリカが戻って来た。
獣人の女達が元通りになった獣耳や尻尾を触りながら涙している。傷一つない美貌が戻り、健康的で艶やかな肢体が少々目に眩しい。
「オリヌシ様っ!?」
エリカが連れて来た女の1人が声をあげた。
「おうっ・・町役の」
オリヌシが安心したように破顔した。
「娘はっ! 娘を知りませんか?」
女がしがみつくようにしてオリヌシに訊ねている。
「私達と同い年くらいの女の子でしたら助けました。体の方は大丈夫です。でも、ひどく泣いていたので・・」
そう言ってエリカが姿を消した。
すぐさま戻って来る。目元を泣き腫らした14歳くらいの少女を連れていた。
「マウル!」
女が声をあげて駆け寄った。少女の方も声にならない悲鳴のような叫びを出して抱きついていた。すぐに安堵の嗚咽が漏れ始める。
「ヨーコは?」
俺の問いかけに、
「呪術師と戦っています」
エリカが答えた。
「そいつ、どの程度だ?」
「力は強くないんですけど幻像とかを魔法で出してくるので、なかなか攻撃が当たりません。呪詛を唱えてくるんですけど・・まあ、私達はそっちの耐性は持ってますから」
「なら時間の問題だな」
相手の消耗の方が激しいだろう。
「リッちゃん、どう?」
エリカがリコを見た。
リコが能力を駆使して様子を見ているらしい。
「ヨーコの攻撃が当たり始めたみたい。でも、治癒か何かで、体が再生しているっぽい」
「再生持ちか」
俺は軽く鼻を鳴らした。
領主はなかなか良い手駒を抱えていたらしい。
「先生、ヨーコ大丈夫ですか?」
「そのまま攻撃を続ければ良い。肉体の再生が終わる前に攻撃を当て続けるんだ・・・その内に、再生阻害という特性を覚えるかもな」
俺が言うと、
「えっ!?」
エリカ、リコ、サナエの視線が勢いよく向けられた。
すぐに、
「エリ、ヨーコの所へ連れてって!」
リコの頼みに、エリカが大きく頷いた。その肩にサナエが手を置いている。
「先生、ちょっと行って来ます!」
慌ただしく言い残して、少女達が消えていった。
(再生阻害の特性狙いか・・)
確かに、再生阻害の特性があるのと無いのとでは斃せる敵の種類が大きく変わってくる。
「おぬしの連れ・・なにやら物騒だのぅ」
オリヌシがぼそりと言った。
「ああ見えて強いぞ?」
細っそりとした華奢な容姿に騙されたら大変なことになる。
「・・そうだろう。話をしながら、油断無く儂に気を配っておった。隙らしい隙は見当たらんかったぞ」
オリヌシが唸るように言った。
成長しているのは喜ばしいが、気を配っていたことを相手に気付かれるようでは・・。
(・・まだまだだ)
俺は尖塔から連れて来た女達を見た。
「領主のモイーブ、息子のフェルドは亡くなった。不幸な事故だった」
「御領主・・いえ、領主が死んだのですか! あの忌まわしい息子も!?」
女達が喜色を浮かべて騒ぎ始めた。
「ええ・・町の女を掠って薬漬けにして奴隷商に売っていたようですから・・まあ、死んでも仕方無いでしょう」
俺は、収納から柑橘類を絞った飲み物と平べったい塩パンを取り出して女達に配った。それから、女達が受け取ったパンの上に、串焼きの肉を載せていく。
「おまえは、こっちだ」
じっと見ているオリヌシに、こんがりと焼けた分厚い肉の塊を放り投げた。
「おうっ! すまんな!」
オリヌシが嬉しそうに相好を崩して肉にかぶりつく。
女達もそれぞれ肉やパンを頬張り始めた。
「その・・御名前は?」
町役の妻女だという三十前後くらいの綺麗な顔立ちの女が訊ねてきた。
「内緒です」
「そんな・・それでは夫に叱られてしまいます。恩人の御名前も知らないなんて・・」
「幽霊ですよ。ふらりと領主の城に立ち寄って、ふらりと消えていく幽霊です」
俺は小さく笑みを見せて、収納から半魚人が使っていた大きな棍棒を取り出した。
「無いよりマシだろう?」
「む・・済まんな」
オリヌシが肉を頬張りながら受け取った。
「この人達を町へ送ってくれ」
「・・心得た。しかし、おぬし達はどうする?」
「幽霊は夜が明けると消えるものだろう?」
俺は小さく笑った。
「ふむ・・もう会えんか?」
大男が不満げに太眉をしかめた。
「さあ、どうかな」
「・・そうだな。儂は雇われの身だったからの・・・ちと用事がある。それが終われば旅をやるつもだ」
意を決したようにオリヌシが言った。ゼールの跡目争いがどうのと言っていたはずだが・・。
「なら、また会えるかもな」
「うむっ、これが最期では儂の気が済まん」
「もし、次に会ったら、約束の酒をおごれよ?」
「おうよっ! 浴びるほど呑ませてやろうぞ!」
オリヌシが鼻息荒く言いながら、女達に声をかけて広間から出て行った。
町で一悶着あるだろうが、町役だけでなく、領主によって強引に女房や恋人を掠われた男達が居るのだ。領主が居なくなった今となっては、やりたい放題やっていた町の兵士達の居心地は最悪に転じるだろう。
(ゾエ、戻れ)
思念で命じて、黒い甲冑を収納したところに、
「先生っ!」
嬉しげな声と共に、エリカ達が姿を現した。
結果は聴くまでも無い。
全員が特性を手に入れたのだろう。顔を喜色で紅潮させている。
「無事だな?」
「はいっ!」
ヨーコが眩しいくらいの笑顔を見せる。
呪術師との戦いは、自分でも手応えを感じたのだろう。
「よし、家捜しだ」
「先生?」
「金目の物や使えそうな物は根こそぎ貰っていくぞ。相当な悪徳領主だったらしいから、間違い無く貯め込んでる」
「そうか! さすが先生っ!」
リコが手を打って目を輝かせ、ヨーコやエリカ達もにっこりと良い笑顔を見せた。
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