第39話 今度は死霊だ!
「結構、きますね・・」
山賊達を殲滅し、血みどろの惨状の中で、ぽつんとサナエが呟いた。
精神的にくる・・という意味なのだ。
時々、俺の分からない表現をするので戸惑うことがある。
「みんな、大丈夫か?」
俺は、少女達の青ざめた顔を見回した。
「途中で、心傷耐性というのが出ましたから」
全員を代表して、ヨーコが呟いた。
「慣れる必要は無いけど、必要な時にやれないと困る場面もあるからな」
俺は1人だけ生かしておいた山賊を見下ろした。
そろそろ夕暮れ時だ。夜になる前に宿泊場所を決めておきたい。
「どこが根城だ?」
「・・・」
俺は細剣技:9*19mm を男の手の甲へ打ち込んだ。
「どこが根城だ?」
「てっ、てめぇなん・・」
俺は細剣技:9*19mm を男の手首へ打ち込んだ。
「どこが根城だ?」
「や、やめ・・」
俺は細剣技:9*19mm を男の腕へ打ち込んだ。
「どこが根城だ?」
「い、言うから、まっ・・」
俺は細剣技:9*19mm を男の肘へ打ち込んだ。
「どこが根城だ?」
「あっち・・あっちのっ!」
俺は細剣技:9*19mm を男の二の腕へ打ち込んだ。
「どこが根城だ?」
「あっちへ廃墟があって、それでぇっ・・」
俺は細剣技:9*19mm を男の肩へ打ち込んだ。
「どこが根城だ?」
俺の細剣が男の眉間へ向けられた。
心傷耐性が無ければ、本気で心的外傷が残りそうなものを見せられて、血の気を失った顔の少女達が互いにしがみつくようにして震えていた。おそらく、耐性値の練度があがっただろう。
(向こうに、廃墟・・?)
俺は男が最期まで訴え続けていた方向へ眼を凝らした。
「・・来るか?」
山賊の根城へ行くか?という問いかけに、全員が小さく何度も頷いて見せた。
また同じような惨劇を眼にするかもしれないのだが・・。
黙々と歩いた先は開けた丘陵地になっていた。少し高い丘にあがって見渡すと、林のようなものが点在し、その一つに大きな石材がちらと覗いて見える。
(見張りが居ないようだが・・?)
念の為、神眼・双を起こして周囲をぐるりと見回してみたが、人も獣も見当たらなかった。
「どうも罠みたいだ」
俺はぽつりと呟いた。
あの山賊、なかなか大した奴だったらしい。
「罠・・?」
サナエが小首を傾げている。みんな鑑定眼持ちだが何も見えないのだろう。
「全員、武装を」
声を掛けつつ、俺は収納からテキパキと武器や防具を取り出して身につけていった。
そんな俺を見て、少女達も急いで収納から武具を引っ張り出す。町で与えた1時間の間にちゃんと買っておいたらしい。誰1人として無駄口をたたかないのが成長の証だろう。
一番軽装のリコとサナエも、鎖帷子の上から厚い胸甲、背には矢避けになる厚地の短マントを羽織っていた。ヨーコとエリカは、金属甲冑で身を固めている。その上で、全員がきっちりと頭部を包む兜をかぶっていた。
「人では無いものが居る・・と仮定して進む」
静かに言って、俺は細剣を右手に、左手には小楯を握って先頭に立った。
ゆっくりとした足取りで丘を下り、岩のゴツゴツとした平地を歩いていくと、林の中にあるのが崩れた砦の跡だと判った。石の防壁が崩れて散乱し、詰め所らしい見張り小屋跡が林の端に見える。
砦の石館は基礎部を残して瓦解してしまっていた。
(あれが根城だって言うんなら地下なんだろう・・ただ・・)
どうも様子がおかしい。
俺は自分の予感を信じて、より慎重に周囲へ気を配りながら進んだ。
ちらと西の空へ眼を向ける。
もう陽が沈んでしまい、わずかな赤みが残っているだけだった。ほどなく夜になる。
(・・魔物の類いかな?)
俺は妙な気配を覚えて周囲へ視線を巡らせた。
「先生・・」
リコがそっと囁いて右の方を指さした。
見ると、地面から白く煙のようなものが立ちのぼって、みるみる人のような形に変じていった。
それを皮切りに、次々に周囲に白い煙のような人形が出現していった。
「・・死霊?」
本で読んだだけだが、挿絵にあった姿とはかなり違うようだ。
「あっちにも・・」
囁いたのはサナエだった。
指さす先に居たのは、先ほど俺達が殺した山賊達だった。
血塗れの死骸はそのままに、よろよろと歩を進めて近づいて来る。
「あれが屍鬼・・かな?」
見た目は怖いが、動きは遅そうだ。唾液で感染して屍鬼と化す・・と書いてあったが、たぶん俺には効かない。記憶が曖昧だったが、冒険者協会の冒険者に死霊使いが居て、そいつに命を狙われた時に色々と耐性が顕現したのだ。
あいつが操ったのは、こんなちゃちな死霊や屍鬼じゃなかったが・・。
ちらと様子を見ると、
「あれ、感染る?」
「感染るっしょ」
「サナエ?」
「聖術の浄化あるよ。噛まれたら言って、すぐ治すから」
少女達が小声で打ち合わせをやっていた。
こいつらは大丈夫そうだ。
「まずは、死霊と屍鬼を片付けよう。どんなに多くても数には限りがある。最悪、朝まで続ければ消えるだろう」
俺が言うと、
「はいっ!」
全員が勇ましく返事を返した。
朝まで素振りとか普通にやっていた事だ。長時間の戦闘はお手の物だった。
「聖と光を付与してみる」
そう言って、俺は前に出た。
死霊がふわりと滑るようにして寄ってくる。
聖・光を付与して貫くと、苦悶しながら消えていった。
「次は、聖のみ」
少女達に聴かせながら、別の死霊を貫く。これも一撃で消えた。
「光のみ」
これでも一撃だった。
「付与無し」
さすがに、これでは消えないようだった。
「あとは・・ヨーコ?」
俺はナギナタを手にしているヨーコに声をかけた。
「はいっ!」
ヨーコが前に進み出るなり、鋭く斬り裂いた。
ヨーコ独自の武技で、破邪の刀法というらしい。武器に破邪の気を載せるのだとか・・。
死霊が苦悶して消えていった。
「やりました!効くみたい!」
ヨーコが嬉しそうに言った。
これで、全員が自分の魔法や武技だけで、死霊を斃せることが判った。
「さあ・・始めよう」
俺は、細剣を眼前に直立させた。
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