第29話 救助
「収納できる?」
俺が訊ねると、少女達全員が出来ると答えた。さすがは召喚された子達だ。みんな収納魔法が使えるらしい。
「なら、海蛇の死骸を収納しておいて。鱗や牙、肉も価値があるらしいから、どこかで売れるかも。半魚人の方は・・う~ん、価値があるのか無いのか・・・まあ、好きにして」
すっかり陽も上がった浜辺の上は、大変な惨状になっていたが、疲労困憊といった様子の少女達も表情はどこか明るい。みんなでせっせと収納して回っていた。
俺は清浄の魔法をかけてから武具を収納した。
すっかり潮のひいた海を眺め、
「まずは、あの小船まで行ってみよう」
言いながら歩き出す。
すぐさま、少女達がついてきた。
「潮は、右から左だな」
「湾を抜ける潮が速いんだと思います」
言われて顔を向けると、ひょろっと背丈のある少女だった。
「あ・・うち、お爺ちゃんが漁師だったんで。よく船に乗せてもらってたんです」
「漁師・・あっちの世界でも漁師という仕事があるの?」
「ありますよ」
「へぇ・・」
「あんなに大きな船じゃ無いですけど」
少女が指さしたのは、座礁して横転している小船だ。沖に泊まっていた大型帆船に比べれば小船だが、二十人は乗れるだろう立派な船だ。
「沖の・・潮がどう動いたかは分からないよな?」
「はは・・無理です」
「帆船はこう・・後ろがこっちに向いてました」
別の少女が身振りで説明する。
「じゃあ、流れはこちらに向いてたのか」
避難用の小舟などで隠れて脱出したなら、こちらに流されていたかもしれない。
「喰い散らかされてるな」
俺は座礁している小船にぶら下がった水夫を見て言った。
上半身しか無かったが、たぶん二十歳になったかならないかくらい。赤茶けた髪をした若い男だった。
俺は綱にしがみついている男の手を外して船外の岩上に下ろした。
(他の乗員は死体も無し・・か)
小船に手を当てて、収納を試してみたら、あっさりと収納できた。
(本当に、無限に入りそうだな)
半ば呆れながら、俺は自分での手を見つめた。
「向こうへ・・流された先を見てみよう」
若者の死体で、にわかに顔色を悪くした少女達に一声かけて、俺は身軽く磯場を歩いて行った。
途中、片足と腰ベルトが磯に引っかかっていた。サーベルの鞘はあったが中身が無い。鞘の意匠が凝っていて、ちょっと高価そうな鞘だった。少し考えてから、その足ごと収納しておいた。
「鮫っ!」
少女の1人が声をあげた。
見ると、やや離れた海面をいくつか背びれが行き来している。
「あっちにも」
少し遠い場所にも似たような背びれがウロウロしているのが見えた。
「半魚人の方が物騒だろ?」
俺は不安そうな少女達に呆れながら、神眼・双を起こして前方を扇状に見回した。
「ぁ・・」
漂流者が居た。
結構な人数だったが、ここからだと生死は分からない。
「人がいる。急ごう」
俺は岩を蹴って走り出した。少女達に合わせていたら、間に合うものも間に合わなくなる。
助けるためには海中へ飛び込まなければならないが・・。
(・・仕方無い)
ざっと漂流者達の様子を視界に入れて状況を判断するなり、俺は思いっきり宙へと跳び上がった。
大量の木片や布地、木箱に櫂などが浮かんだ中に、若い男女が漂っていた。それに、鮫が群がっている。
俺は宙から落ちる間に、細剣技:5.56*45mm で、空中から鮫を狙って仕留めていった。魔物では無い、ただの鮫だ。
そのまま海中へと飛び込み、食いついてくる鮫を掴んで短剣で引き裂く。
わずかな数の鮫だ。片付けるのは簡単だったが・・。
(血で寄ってくるからな・・)
本来なら見難い海中を神眼・双で見透かし、寄ってくる鮫を武技で仕留める。すぐには死なないし、痛覚があるのか無いのか分からないのは半魚人と一緒だ。それでも、頭部を吹き飛ばしておけば死んでいく。
(とりあえず、死んでても生きてても・・)
岩の上に運び上げてしまおう。そう決めて、俺は手足や腹が喰われて無くなっている奴から、無事そうに見える奴まで片っ端から最寄りの岩場へ運んだ。合間、合間に、どんどん集まってくる鮫を仕留める。
(へぇ・・)
追いかけて来ていた少女達が、血溜まりの上に漂う木材を足場に、ぴょんぴょんと跳んで俺がいる岩場まで渡って来ていた。いつの間に、あんな動きが出来るようになったのだろう?
「シンさん!」
「その人達は?」
少女達が駆け寄ってくる。
「治癒ができるなら頼む」
俺はずらりと並べた生死不明の人間達を見た。
手足が無くなった死骸も混じっていたが、怯んだ顔を見せたのも一瞬、
「はいっ」
全員が返事をしてそれぞれ漂流者達の様子を確認し始めた。
「まだ他に居るかもしれない。周囲を見てくる」
言い置いて、俺は海を見ながら磯場に沿って湾処を巡って捜索を続けた。
原形が無くなっていた者もいたが、9人も見つかったのだ。捜せば、もっと居そうな気がした。
果たして、岬状に突き出た断崖を回って向こう側の海を覗いた時、海上に浮き沈みしている人が見えた。
(・・どこに、これだけ居たんだ?)
不思議になるくらい大量の鮫が集まってきている。
俺は迷わず崖から飛び降りた。風を切って落ちながら、距離を測って 細剣技:5.56*45mm で鮫を狙っていった。着水までに、8匹は仕留めただろう。着水してから、泡に視界を遮られたまま、海面へ浮き上がる間に、さらに5匹のエラから腹にかけて打ち貫く。
(2人・・いや3人か)
女二人かと思ったら、女の一人が赤子を抱えていた。
俺は、漂流者へ近付くと掴まっていた木樽ごと海岸めがけて押して泳いだ。
追ってくる鮫は片っ端から狙い打ち、わずかに岸際に見えている岩へと三人を持ち上げる。
干潮の間だけ海面に頭を出している岩だ。すぐに移動しなければいけないが・・。
「シンさん!」
不意に声がして、すぐ傍らにエリカが出現した。
「ぉ・・」
思わず身構えながら、俺はほっと息を吐いた。
「大変です。治療してたら、急に男の人が襲って来て・・・」
いつも冷静そうなエリカが狼狽えている。
ただ事じゃないらしい。
「よし行こう・・あ、この人達を運べるか? 俺は自分で登る」
「運べます! すいません、急いで下さい!」
緊張した顔で言いながら、エリカが三人に抱きつくようにして消えて行った。
(なんだ?・・襲われた?そんな体力がありそうな奴は居なかったはずだけど?)
訝しく思いながらも、切り立った崖に取り付くと、指で岩を摘まむようにして手早く上まで上った。上で、エリカが待っていた。先ほど漂流者を担ぎ上げた方向を指さし、また三人を連れて瞬間移動して消える。
(火・・魔法か)
行く手で火の球が飛び交い、あちこちに煙をあげていた。
これは、怪我人が暴れ始めたというようなレベルじゃない。
戦闘が行われている。
俺は軽く地を蹴って走りながら、小楯と細剣を取り出していた。
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