第26話 建築大工
一枚一枚がすうっと収まっていく。
継手を切った所は軽く小突いてやれば、しっかりと組み合わさる。
それは少女達にとって感動の体験だった。
朽ちて苔むしていたお化け屋敷のような石館に床板が張られ、さらに仕切り板が組まれて部屋が生まれ、天井板が張られて二階が出現し、そして屋根板ができたのだ。きつめに張った屋根板の隙間に、木の薄皮を詰めて、ひとまずは完成だ。
窓は、本来の大きさの窓枠に板を張り、船用の丸ガラスを埋め込んだ。
各部屋の扉も船からの流用だ。
船から持って来た古釘はほとんど壁や扉の取り付けに使用した。
部屋や全部で18室。
食堂だったかもしれない大部屋、それより少し狭い程度の広間、炊事場や食材置き場、洗い場に便所、小部屋が五つ。二階に七部屋。地下室も片付けて端材で梯子を組んでおいた。
「部屋は人数分ある。二階の部屋を自由に選んでくれ」
「ここに、住んで良いんですか?」
エリカがじっと俺の眼を見る。
「自分達で屋根や床を作ったんだ。当然だろう?」
「・・ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
エリカの声をかき消さんばかりに少女達が大きな声で礼を言った。
「水瓶は川で濯いで洗浄して使った方がいいかな。食材は海の物は傷みが早いから燻製にしたら良いんじゃない? あ・・誰か縫い物はやれる?」
「私が出来ます」
眼鏡をかけている少し冷めた感じの表情をした少女が手をあげた。
「針や糸も・・少しあります」
どこにとは訊かなかった。召喚された子達だ、みんな収納魔法を使えるのだろう。
「じゃあ、布地は・・」
俺は自分の収納から、綿生地を棒状に巻いた物をいくつか取り出した。
「足りるかな?」
「えっ!?・・と、何を作れば?」
「自分達の服・・いつまでも、そんな格好じゃ・・落ち着かないだろう? 布は他にもあるけど、まずはそれを使って」
「はいっ」
「二階は自由に使ってくれて良い。というか、俺は一階の・・そこの部屋で寝起きする他は外に出ているから。俺のことは気にしないでいい」
俺は炊事場の横にある小部屋を指さした。
「・・どこに行くんです?」
訊いてきたのは、少女達の中では一番背丈がある、ひょろっと細身の少女だった。
「この館が安全だとは限らないだろう?船を襲ってきた半魚人のようなのもいるだろうし、どこに何があって、どんなのが居るのか調べておかないとなぁ」
館を中心にして、ある程度の安全圏がどこまでなのか調べておかないといけない。
「人里でも見つかれば良いんだけど・・」
俺は、がらんと何も無い大部屋の中を見回した。
「あのっ、私達、まだあなたが大丈夫って信じて無いですから!」
不意に、横にいた小柄な少女が言った。
「死ねば良いのに」
俺は本音を口にした。
すぐに、
「ああ、すまん。本音が出た」
謝罪した。
「タエ、止めて・・今言うような事じゃないでしょっ!」
眼鏡をかけた少女が慌てて声を荒げる。
「し、死ねば良いって言ったわ!言ったわよね?ほらっ、こいつ、全然信用できないよ!」
「あなたは、海賊なんですか?」
別の少女が訊いてくる。
「俺が何者だとか関係無いんじゃないか?」
「・・どうしてですか?」
また別の少女が訊いてくる。
もう、死ぬほど面倒臭い。
「おれがどこかの王様です・・とか、海賊ですとか言ったら信じる? 何者だって言えば信じるつもり?」
「でも、だって・・不安なんです」
「う~ん、もしかして馬鹿なのかな?」
俺は嘆息混じりに言った。
「俺が、いつ、ここへ来いと言った? おまえらが勝手に来たんだよな? それで、おれが信用ならないとか・・・その頭は飾りで脳味噌は入って無いの? 俺は信用してくれと頼んだか? 頼むから疑ってくれ、どうかお願いします。精一杯疑って信じないようにして欲しい。俺は最悪の人間だ。悪逆非道の殺人者だからな、絶対に気を許したら駄目だ」
「・・・そんなつもりじゃないんです」
「心配しなくても、俺はおまえたちの生死に全く興味が無いから。好きなように生きて、好きなように死んでくれ。この館で暮らすのも自由なら、外で暮らすのも自由。俺は、おまえたちの衣食住・・ああ、さっきの布はあげる。おまえたちの生活にはまったく干渉しない。だから、俺の方にも干渉しないでくれ。すごく迷惑だから」
俺は言うだけ言って、さっさと自分の部屋へと引っ込んだ。
面倒臭くて仕方無い。
(ここも長居はできないな)
どうせ、ああでも無い、こうでも無いと言い出すに決まっている。
(布地をやったのは失敗だった)
俺が他にも何か持っているだろうと、色々と要求し始めるかもしれない。
苛々するが、今はあんな奴等に構っている場合じゃない。ここが安全だとは思えない。周辺の調査は急いでおかないと、夜も安心して眠れなくなる。先ず自分の安全を確保したうえで、もし余裕があるようなら他者を支援する。それが俺の生き方だ。
俺が選んだ小部屋は、炊事場の隣にあり、館の裏手に位置している。
日当たりも良くない。館の部屋の中では、あまり良くない場所なのだが、外に出る出入り口がついていた。たぶん、館の使用人とかが住んでいた部屋なのだろう。
大部屋を経由しなくても、部屋から直接外へ行けるのは便利だった。
俺は広間側の扉には掛け金の鍵をかけて扉から外へ出た。
館に居るより、外に出た方がよほど心地が良い。
まずは北側へ・・。
足早に林を抜けて緩やかな斜面を登る。立木の様子を確かめながら歩いているが、熊や鹿が残すような傷はついていない。小さな糞が落ちているのは見付けたが、あの大きさは、せいぜい栗鼠か野ねずみだろう。
(ふうん・・)
小動物以外の踏み跡が無い。
近くには小鬼なども棲んでいないらしい。思っていたより、安全な場所かも知れない。
緩やかな斜面がしだいに勾配を増し、かなりの坂になってきた。
館近くに流れていた小川の他にも、斜面からしみ出ている真水があった。時々、飛ぶ鳥が地面に影を落とすほかは静かだった。
「ここ・・・島なんだな」
小山を登り切ったところで、俺はぽつんと呟いた。
それも、あまり大きくない島だ。
船が座礁した磯場とは逆側、真北には入り江のようになった切り立った岸壁が連なって見える。座礁した磯場しか船を寄せる場所が無いのだとしたら、簡単には人が寄りつけない島だと言う事になる。
どうやら、大きな獣はいそうもない。
食べやすい獲物となると、鳥と小動物か。
(蛇や蜥蜴くらいはいるだろ?)
あまり、虫を食べるのは得意じゃないんだが・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます