第24話 半魚人、襲来!

 魚人では無く、半魚人だという理由が分かる。


 腰から背、頭部にかけては確かに魚を想わせる形状で、顔に当たる部分は川や湖で見かけた人喰い魚によく似ている。喉元から胸、足へかけては、魚というよりトカゲのような感じだろうか。大きく屈伸させたような形の足・・爪先は広く大きな水かきと鉤爪がついていた。両手は立っていても甲板に着くほどに細く長い。その両手に、一本一本が短剣のように鋭く長い鉤爪が生えている。身の丈は二メートルほどだろう。

 魚では無く、トカゲでも無く、人でも無い。

 正に、半魚人だった。


(・・へぇ)


 青々とした鱗をした奴から、やや黄色みを帯びた奴、赤みがかった奴まで居る。

 中には石か骨か・・鉤爪のような突起のついた棍棒を握った奴や、背丈ほどの短槍を握った奴まで居た。


 あの鱗に、細剣の刺突が徹るなら、やりようはあるのだが・・。


 俺は収納から狩弓を取り出して毒矢をつがえた。

 その動きで、半魚人達が一斉に向きを変えて俺を見る。


(見えて無かった?・・こいつら、眼より耳なのか?)


 俺はくるりと振り返って、高櫓の背後から伸び上がって食い付いてきた海蛇へ矢を射た。顎の下へ身を入れ、小楯で海蛇の勢いをわずかに逸らしながら楯の表面で滑らせる。

 楯で鳴る連続した硬質の擦過音は、海蛇の鱗だろう。

 黒々とした巨体だったが、こちらは陸で見かける大蛇と大差ない。まあ、側頭部に幾つも眼らしいものが並んで光っていたくらいの違いだ。

 

(牙は短めだったが・・まあ、毒持ちだろうな)


 一瞬の交錯で、ざっと情報を拾いつつ、続けて毒矢を放つ。

 毒を持っている生き物だからといって、必ずしも毒に耐性があるわけでは無い。

 最初の一矢は食い付いてきた口へ入れたが、追撃の矢は鱗に弾かれてしまった。それなりの強弓で、鉄の薄板くらいなら射貫くのだが・・。


(硬い・・)


 ただの大蛇だと油断すると面倒な事になりそうだ。


(ぉっ・・!?)


 斜め下から、凄まじい勢いで短槍が投げつけられた。

 そうと見て取った直後には、もう短槍の切っ先が俺の腹部ぎりぎりまで迫っている。


「ハッ!」


 鋭く呼気を吐いて、俺はその場で体を回転させ、左手の小楯で殴りつけるように衝突させた。


 重たい衝撃に、


(楯がもつのか・・?)


 ちらと不安が過ぎったが、短槍は大きく弾かれて高櫓を越えて海面へと落ちていった。


(あの槍・・下手な魔法より怖い)


 俺は細剣を眼前に直立し、小楯を腰元へ引きつけた。


「行くぞっ!」


 下甲板に溢れかえった半魚人めがけて声を叩きつける。

 直後に、今度は俺の方から下甲板へと飛び降りて行った。

 


 ヒュッィィィ・・・



 甲高い風切り音が辺りに聞こえ、半魚人達が身構えようとした時、



 カカカカカカッ・・・


 

 連続した音が軽快に響いた。

 

 一番手前に居た青みがかった半魚人が、両膝から胴体、喉元にかけて俺の刺突を浴び、血を流しながら甲板に転がっていた。しばらくは、派手に身を躍らせて暴れていたが、すぐに動けなくなって痙攣を始めた。


 半魚人達が身構えるようにして俺を捜す。


 再び、硬質な刺突音が鳴り響き、今度は背側から首筋を抉られ、胸板まで貫き徹された半魚人が倒れた。


「・・硬いな」


 俺は細剣を鋭く振って、再び眼前に直立させた。

 

 半魚人の群れのただ中に、ぽつんと立っている。


 俺の背後に居た赤みがかった半魚人が棍棒で殴りつけてきた。ほぼ同時に、横手にいた黒っぽい半魚人が短槍を腰だめに突き出して来る。


 俺は、短槍を小楯で弾き、身を捻りながら突き出した細剣で棍棒そのものを弾き上げた。それで、二体の半魚人が姿勢を崩している。

 後は、晒された急所めがけて刺突を叩き込むだけだ。


 姿勢を低くしていた黒っぽい方の顔面から首筋にかけてを穴だらけにし、続いて棍棒を持っている方を狙おうとした時、別の半魚人が腕の鉤爪で殴りかかってきた。


(ちぃっ・・)


 咄嗟に後ろにさがりながら、小手先だけで細剣を繰り出す。

 しかし、それでは鱗をわずかに削った程度で手傷も与えられない。


(・・っと!?)


 今度はほぼ真上から海蛇が大口を開けて食いついてきた。


(こいつら、連携してるのか)


 海蛇は、甲板をぶち破って漕ぎ手が居た船倉へと頭から落ちて行った。

 割れて飛び散った甲板板が宙を舞い、釣られて半魚人の視線が左右する。その間を狙って、俺は仕留め損なっていた黒っぽい半魚人にとどめを刺した。さらに、棍棒の半魚人の膝頭を貫き、胸から顎下へと腰を入れた連撃を打ち込んだ。


 小楯をかざして頭上から振り下ろされた鉤爪の一撃を受けつつ脇へと滑らせ、代わりに喉元へ痛撃を打ち込む。


(そうか・・鈍いのか)


 俺はようやく気が付いた。

 どうも、この半魚人達は痛覚が鈍いか、欠如しているようだった。

 眼など潰しても、痛みで怯む様子は無い。膝を貫いて床に転がしても、構わずに手足をばたつかせて攻撃しようとする。ただ、痛みに鈍いだけで、ちゃんと心臓や脳はある。神経もあるようだ。

 そういうものだと理解して戦えば問題無い。


(それにしても、この楯・・凄いな)


 綺麗に受け流した時はもちろんだが、いい位置取りが出来ずにまともに受け止める事もあったが、表面には傷一つ付いていなかった。


(これなら、もっとやれる)


 もっと接近して強引に受け流せる。避ける動作を減らし、刺突の回数を増やせる。

 一対一なら足を止めての戦いだって不可能じゃなくなる。


(もっと近づける)


 鱗に弾かれて折れ飛んだ細剣を捨て、新しい細剣を取り出しながら俺は滑るようにして甲板上を素早く移動した。

 半魚人の動き出しより、俺の方が一歩も二歩も速い。

 確かに凄い腕力をしているし、魚鱗は鉄板のように硬い。痛みを感じずに攻撃一辺倒で襲って来るのだから、並の兵隊や冒険者なら苦戦するだろうが・・。

 

 生憎、俺の方はその手の化け物には慣れっこだ。

 洞窟で魔虫を相手にしていると思えば良い。違うのは、武器を使ってくることぐらいだ。


 一番懸念していた船の方は、なんとか大破せずに持ち堪えていた。思いの外頑丈な造りだったらしい。引き波、寄せる波で座礁した岩で擦られているのに、衝突した時に船底が割れただけで、それ以上は損壊が拡がらなかった。


 手を伸ばせば触れられるほどの距離で、半魚人達の攻撃を弾き落とし、足の関節を中心に狙って攻撃を繰り返し、下甲板の上を自在に奔り抜けて負傷して立ち上がれない半魚人を増やしていった。


 折り重なるようにして甲板上で暴れる半魚人めがけて、細剣技:7.62*51mm を叩き込む。鋼毛熊のときは攻撃が弾かれて頼りなく感じた武技だったが、半魚人達相手には抜群の威力を発揮して死骸を量産していった。


(・・よしっ)


 俺は、細剣を手に、まだ無事な半魚人めがけて襲いかかった。

 膝下を狙って動けなくしてから武技で仕留める。これで安定して斃せることが分かった。鱗は硬いし体に力はあるが、海中ならともかく、こうして甲板上で戦うなら、膝下がこいつらの弱点だ。このまま半魚人が何かの工夫をしてこないなら、ここからは流れ作業のように簡単になる。


 前へ踏み込むと見せて、真横へ向きを変え、位置をわずかにずらし・・強引に打ち倒そうとする半魚人の腕をくぐりながら、潮の匂いがする半魚人の巨体めがけて刺突で穿ち、貫き、隙があれば連撃で打ち倒す。

 

 懸念したような戦い方の工夫などせず、半魚人達は強引な力任せの突進を延々と続けてきた。


(変化といえば、こいつくらいか・・)


 海中から時折襲って来る海蛇だけは、毒矢の返礼に懲りたのか、船の周辺を高速で泳ぎ回りながら、俺が武技などで足を止める瞬間を見計らって仕掛けてくるようになった。

 

 喰いついてくるだけでなく、体に電気を纏ってぶつかってきたり、すり抜けながら左右の棘ヒレを拡げて引っ掛けようとしたり・・甲板上の半魚人よりよっぽど頭を使った仕掛けをしてくる。


(おっ・・)


 細剣技:5.56*45mm で半魚人を仕留めている最中に、




 *** 武技解放 **********


 細剣技:12.7*99mm(1,100/1,100 *2/h)


 *******************



 いきなり新しい武技が顕現した。

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