第18話 ドージェスの遺した物
ドージェス一家というのは、近隣では名の知られた大地主だ。まあ、杭を打って縄を張れば自分の土地だと言い張れるような辺境地だから微妙なのだが・・。
食い詰めた冒険者に仕事を出したり、ちょっとした町の揉め事に顔を出して仲裁をやったりと、表向きは顔役のような立場で裕福な豪族を気取っている。だが、ちゃんと裏があって、希少種の獣や亜人種の子などを密漁して好事家の貴族に売ったりして稼いでいた。
その辺の苦労のほどは知らないが、三年ほど前にドージェスという町ができたのだった。
俺は、その町にお邪魔していた。
「ドージェス・ゴードンはどこだ?」
俺は問いかける。
男達が驚愕に顔を引き攣らせて答えを渋った。
直後、その場に居た二十人ほどを細剣技:5.56*45mm で薙ぎ払った。何人か見知った冒険者が混じっていたようだったが・・。
「運が無かったな」
俺は、奥の部屋へと向かった。
戸口の左右へ身を寄せたらしい気配を刺突で壁越しに貫き徹してから扉を蹴破る。
「ドージェス・ゴードンはどこだ?」
短く声をかけてから、一秒後に武技で一掃する。
昼過ぎから始めて、夜も更けようかという頃合いになるまで、この調子で歩き回っている。すべて、ドージェス一家に縁の場所だ。倉庫、屋敷、別宅、娼館、酒場・・。
通りをぶらぶら歩きながら、ドージェス・ゴードンはどこかと静まりかえった路地、路地を覗き込むようにして、誰かが向かってきたら穴だらけにする。逃げたら矢を射かける。
「ドージェス・ゴードンはどこだ?」
すでに町を三周し、念入りに声をかけて回ったが、自分がドージェス・ゴードンだと言う奴は現れなかった。
(まあ、稼げたからいいか)
倉庫にあった金品、武器防具はすべて押収した。
籠や檻に囚われていた生き物はすべてその場で解放した。その後は、死のうが生きようが個々の才覚と運だ。
神眼・双と探知魔法の組み合わせで、地下に潜んでいても捜し出せる。
俺は、地上を綺麗に掃討してから地下の捜索を始めた。
逃げたら逃げたで良い。
裏社会で、たった1人を相手に逃げ出したという風聞がたてばお終いだ。
(地下の方が実入りが良いな)
金箱は分散して、あちらこちらの地下蔵へ隠してあった。
その一つ一つを丁寧に探し出し中身を収納して回る。
下水道を兼ねた地下通路を辿っていると、
いきなり、
「死ねっ!」
吠えるような声が反響して、前方から無数の矢が射かけられた。
実に、ぬるい・・。
ほんの一呼吸で、距離を詰めると、下水道の壁を駆け上がって天井へと周りながら射手の頭上を抜けた。
背後へ着地すると同時に、細剣技:5.56*45mm で射手全員を薙ぎ払って仕留める。
号令役は、四十がらみの筋骨逞しい男だった。いかにも腕自慢といった雰囲気だが・・。
「ドージェス・ゴードンはどこだ?」
「うらみ筋か?」
脂汗が浮いた顔で逆に訊いてきた。
その顔の中央を細剣で穿って仕留める。
(・・おっ?)
下水道の奥から紅蓮の炎が視界いっぱいに迫ってきた。
(風刃っ!)
炎に包まれて前へと走りながら、前方に向けて風刃の魔法を放つ。
なかなかの炎だった。
ただ、昔、リアンナ女史から浴びせられた火炎に比べると・・。
着衣を燃やしながら、俺はぐんぐん速度をあげて前方へ走る。俺が放った風刃は魔法障壁か何かで防御されていた。それなりの術者が居るらしい。
続いて、前方から放たれたのは雷撃魔法だった。
(悪いけど、さっき熊が使ってたよ・・何百倍も凄いのを)
俺はうるさげに手をあげて雷撃を受けとめながら、腕が焦げるのも構わず距離を詰めた。
大楯を並べた巨漢が四人、その後ろで魔術師が二人、次の魔法を準備している。
細剣の一撃で、楯ごと巨漢を貫き、身軽く上を飛んで空中からの刺突で、術者二人の頭頂を刺し貫く。
「ドージェス・ゴードンはどこだ?」
俺は、行く手の闇に向かって声をかけた。
そこに気配が一つある。
地下道が行き止まりになっていて、地上への縦穴があるらしい。
「・・さあな」
答えた声は、どこか中性的な若い男のものだった。
俺は委細構わず、一瞬で距離を縮めて細剣を繰り出した。
対して、男がわずかに反りのある弧剣を軽く触れさせるようにして刺突の軌道を逸らし、逆に斬りつけてくる。その剣を俺も短剣で受け流して、次の刺突を繰り出す。
男も手練れらしい。弧剣の柄元で細剣の刺突を受けながら、上から下へ、下から上へと流れるように斬りつけてきた。
(ふうん・・?)
どうも異質だ。反応も良いし、力も強い。大きく動き過ぎず、俺の細剣をいなす技術はなかなかのものだ。
(だけど・・)
こいつは、どうやら人間じゃあ無い。
人間の真似事をやっている何か・・だった。剣技もそれらしく模しているだけで、腰の入れ方や足の踏み出し方など、どこかズレている。肉体の動きは素人なのに、剣技だけは一流なのだ。
俺は、細剣技:5.56*45mm を発動して、男の全身を射貫いた。
(とりあえず、当たれば貫けるわけか)
崩れ落ちる男から距離を取りつつ、俺は改めて細剣を構え、左手には円楯を握った。
すぐに起き上がって攻撃をしてくるだろうと身構えていたのだが、
「あれ・・?」
汚れた下水道の床に倒れたまま、男が苦しげにもがいている。
(苦しむふりで、俺の油断を誘ってる?・・なんの魔物だ?)
人間に化ける魔物がいるという話は聴いたことがある。実際に見たことは無かったが、こいつがその魔物だろうか?
しかし、なかなか襲って来ない。
(とりあえず・・)
細剣技:9*19mm で、1メートルぎりぎりから狙い撃つ。
(犬っぽい?・・中途半端だな)
苦しみ悶えている男が、頭部だけ犬のように成り、低くうなり声をあげている。ただ、身体は人間の男の姿そのままだ。いや、よく見ると両手が毛むくじゃらに変じて鉤爪を生やしている。
随分と時間のかかる変身だった。
いつまで待てば魔物が完成するのか・・。
俺は、構わずに武技の連撃を加え続けた。
途中で、どうやら俺が持っている"再生阻害"が効いているようだと気が付いた。
(そういう魔物か・・なんだか禍々しい感じだ)
付与・聖や光も効果があるのだろうか。
俺は、武技の連撃に、聖と光を付与してみた。特別な動作はいらない。ただ、付与しようと意識するだけで良い。魔力を大きく消耗するので、常に発動するわけにはいかないが・・。
効果は凄まじかった。
それまで、なんとか苦しみつつも起き上がろうとしていた魔物が、必死の叫びをあげながら逃れようとし、みるみる灰状に崩れて死んでいった。
すぐに、魔熊の時ほどでは無かったが、大きな熱が俺の身体に流れ込んできた。
さして強くは感じなかったけど・・。
付与した聖、光属性が特別な効果を発揮したということだろうか。
ヨシマサ、マサミの二人を斃して習得して以来、魔法の種類は増えていない。ただ、それぞれの熟練度は上げ続けている。
付与・聖がⅧ、付与・光はⅨだ。
こつこつと繰り返す作業が得意な性分で、こうした練度上げはまったく苦にならない。ちなみに、風刃はⅩになっている。
(・・血塊石)
アマンダ神官長に読ませて貰った書物に載っていた。魔人の心臓核が遺されていた。これを放って置けば、いずれ肉体を得て復活するのだという。
(徹るかな?)
俺は、細剣を構えて集中すると、小さく踏み込みながら刺突を繰り出した。
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