第12話 アマンダ様
「あら、来たのですか?」
思いっきり冷え切った声だった。
「忘れられているのだと思っていましたが・・」
追い打ちをかけるように冷え冷えとした声で語りかけてくる。
場所は、大聖堂の隣室。
神代の魔導具、鑑定の魔導具が置かれている部屋の中である。
ちなみに、俺に向かって話し掛けてくるのは、やたらと背の低い、幼児かと言いたくなるくらいに小さな女性である。そう、女性である。
名前は、アマンダ・ドーラン。神殿の神官長であり、大陸有数の聖魔法の使い手であり、なによりもあのリアンナ女史の友人であった。
「大変、失礼致しました」
俺は深々と頭を下げて謝罪をした。
ちなみに、もう5度目である。
「そう・・やっと来たのですね?」
5歳児くらいの女性が、特別にしつらえたであろう豪華な刺繍の入った法衣の裾を翻して、俺の前へと歩いてくる。
髪の色は、この辺りに多い亜麻色で、背で束ねていたが先が床に届きそうなくらいに伸びていた。瞳の色は緑色で、肌は陽に当たったことが無いのかと思うくらいに青白い。
顔も、5歳くらいの可愛らしい幼児だったが、目付きが非常によろしくない。
その幼児が、先ほどから執拗に責めてくるのだった。
「やっと来ましたね?」
じろり・・と音が聞こえそうなくらいに尖った眼を向けてくる。
「はい、遅くなって申し訳ありません」
俺はひたすら謝っている。一目見たときから、危険人物だと認識していた。逆らったら駄目な人なのだ。
「レーちゃんを助けてくれたそうですね?」
「は?・・レー・・さんとは?」
「レイン司祭ですよ」
5歳児が、胸元から片眼鏡を取り出して鼻に載せた。
「レーちゃんには何度も会いに行っていたのに、同じ神殿にいる私には会いに来る時間が無かったのですか?」
距離にして2メートルの位置で立ち止まって瞬き一つしない眼で見つめてくる。
「あぁ・・その、こういう場所は慣れなくて・・」
そろそろ謝る言葉も無くなってきた。
「ここの鑑定具を使って鑑定をしたのに、隣の部屋の私には会いに来る時間が無かったのですね?」
「申し訳ありません」
もう、ひたすら謝るしかない。
「貴方、転生者?」
いきなり質問がきた。
「・・そうだろうと、協会の支部長には言われたのですが、前後の記憶が無く困っております」
「転生者です」
断定された。
「やっぱり、そうなのですか」
「リアが私に会うように言いましたね?」
このリアというのは、リアンナ女史のことだろう。
あの女帝を気安げに呼ぶとか、何という恐ろしい5歳児なのか・・。
「どうして、来ませんでしたか?」
「・・申し訳ありません」
「レーちゃんを襲った召喚者を仕留めたそうですね?」
また話題が変わった。
「はい」
「よくやってくれました」
そう言うと、5歳児が法衣のポケットから何かを取り出した。
「これは御礼です」
「・・ありがとうございます」
床に片膝を着くようにして、小さな手から六角形をした金属製の御守りのような物を受け取った。
「それは結界の魔導具です」
「結界・・」
ひんやりとした金属の表面に小さな凹凸が刻まれている。
「狭い範囲ですが、魔物が入れない壁を作る魔導具です」
「魔物を防げるんですか」
そもそも、俺は魔法を使えない。というか、使おうと思った事すら無い。
「魔力を使用して結界魔法を使います。大鬼くらいなら弾けます」
5歳児が説明してくれた。
「・・凄いですね」
俺は金属の魔導具へ眼を向けた。
「武技にも魔力を使うものがあります。自分の魔力をもっと活用するべきです」
「そうなのですね」
「使った魔力は体を休ませることで回復します」
「他に回復の方法はありますか?」
「回復薬、食事、魔晶石、他人からの魔力の譲渡・・方法は色々です」
「勉強になります」
「教えることは沢山あります。どうして、来ませんでしたか?」
5歳児がズレた眼鏡を鼻の上に戻した。
「申し訳ありませんでした」
俺は、最後までひたすら謝り続けることになった。
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