第9話 実地訓練、その前に・・。

「ええと・・?」


 俺は困惑していた。


「マサミ・ウエダです」


「ヨシマサ・ハヤシです」


 朝の開門前に、二人が待っていた。

 マサミ・ウエダとヨシマサ・ハヤシは互いの腰を抱くように腕を回し合ってひっついている。


「・・装備は?」


 俺は訊いてみた。


 二人共、例の白シャツに、縞模様の短いスカート、少年は黒いズボンで、白いソックスに黒い革靴。他に荷物らしい物を持っている様子は無い。


「インベントリに入れてあるんで」


 ヨシマサと名乗った少年がにこやかに答えた。


「いんべんとり?」


「無限収納って言うのかな?とにかく、こういう感じで・・」


 少年が空の右手をすっ・・と何処かへ伸ばした。


 思わず、ぎょっとして身構えた。少年の手が肘の辺りまで消えたのだ。


「ちゃんと剣も持ってます」


 そう言った少年の手には、いつの間にか一振りの長剣が握られていた。造りの良い見るからに高価そうな長剣だ。


「なんか、レベルとか無いんで心配したんですけど、ちゃんと力が上がってるようなんで、剣も重く感じないです」


 意味不明のことを言いながら少年が長剣を軽々と振って見せる。


 確かに、体格とは裏腹な、腕力が感じられる素振りだった。力任せなので速度は無いが、当たれば小鬼くらい一撃で倒せるだろう。


「魔法・・なのか?」


「ああ、お兄さん、これ知らない?僕たち、召喚勇者は物を亜空間に収納する固有技能を持ってるんだ。便利でしょ? あと、戦闘をすることで経験値を稼ぐことで、こうして体全体の力が増すんだよ?」


「色々なスキルも覚えるわ」


 マサミという少女が自身の持っているスキルについて何やら説明を始めた。

 話の途中から、それが技能と表示されている項目についてなのだと気が付いた。

 驚いたことに、全員が何種類もの魔法や武技を覚えていた。おまけに、全員が複数種類の加護持ちだった。


「実地訓練に引率するよう言われた、シンだ」


「凄い耐性スキルですね!」


 ヨシマサという少年が軽い驚きを口にした。


「加護が耐久だもん」


 マサミという少女がじっと俺を見つめたまま言った。


「・・鑑定というやつ?」


 俺は苦い顔で呟いた。


 召喚者にはそうした技能持ちが居るのだと聞かされていたので、それほど動揺はしなかったが、気分が良いものでは無い。


「あっ、ごめんなさい。マナー違反でしたね」


 ヨシマサが少し慌てた様子で謝罪を口にした。


「ごめんなさい」


 隣でマサミが、ぺろっと舌を出して謝った。


「でも、武技が二つもある。私達の他で、複数の武技がある人なんて初めて・・ああ、女の司祭さんが四つ持ってたかな?とにかく、びっくりです」


「おまえ達は、全員が他人を鑑定できるのか?」


 俺は顔をしかめたまま訊いた。実に不愉快だった。


「う~ん、下位の鑑定は持ってる人がいたけど・・僕たち二人の鑑定は固有技能の最上位のもので、神眼って言うんだ。僕たち以上に見える人はいませんよ?」


「おまえ達以上に見通せる奴はいない?」


「はい」


「ふうん・・最上位だと、どうして分かる?」


「レア度が表示されるんですよ」


「れあど?」


 また知らない単語だ。


「希少価値って感じの・・アルファベット表記ですけど。こっちの人にはどう見えてるのかな?」


「技能の項目に、その・・あるふぁべとが記されていて、判別できるんだな?」


「はい」


「俺のは、どうなってる?」


 技能に優劣があるなら聴いておきたいのだが・・。


「ずらーーと耐性技能が並んでいて、武技が二つ、後は加護が耐久力・・アルファベット表記は無いですよ?」


「・・そうなのか?」


「ああ、鑑定・・神眼では他人の身体情報・・生命力とか魔法力とか、技能と武技、魔技、加護が見えるんです。あと、名前と種族ですね。年齢が表示なしとか、珍しいんじゃないですか?」


 そういえば、鑑定具で見た時にも、年齢は表示されなかった。


「あるふぁべとは?」


「見えません」


「こうした能力について詳しいけど、誰かに習ったの?」


「いいえ、そうなんだろうなって・・二人で色々と試したり確かめたりしたんです。ねぇ~?」


「ねぇ~」


 そう言って、ヨシマサとマサミが互いの腰を抱いて体を寄せ合った。顔も寄せ合った。



 死ねば良いのに・・。



「そう言えば・・四人だって聴いてたんだけど?」


 俺は今さらながら二人しか来ていないことに疑問をもった。


「昨日の夜に、どこかの偉い人が来て連れて行ったみたいですよ?」


 ヨシマサが言うには、深夜に神殿の人とは違う人達がやって来て大声で何やら怒鳴った後、他の二人を連れて行ったらしい。


 なにかあったのだろうか?


「シンさんは、冒険者なんですよね?」


「うん」


「ギルドって何処にあるんです?この町、探して回ったんですけど、どこにも無くって・・」


「隣町のロンダスにある」


 俺はおおよその位置関係を説明した。


「歩いて行けます?」


「馬車で十日くらいかな」


 魔物などの邪魔があれば、十五日以上かかる時もある。


「げぇ・・馬車はもう嫌だなぁ」


「マサミも嫌ぁ・・」


「どうして?」


「だって、座っていてもお尻とか腰が痛くなるし、埃が吹き込んで顔中が砂だらけになるし・・」


「そうしたものだろ?」


 乗っているだけで目的地まで連れて行ってくれるのだ。乗り心地も、そこまで悪くない。


「・・歩いて行ったら、どのくらいです?」


 ヨシマサが訊いてきた。


「道に迷わなければ、一ヶ月もあれば着くだろう」


 安全をみれば、一ヶ月半くらいか。


「・・遠いですね」


「さあ、他の二人が来ないんなら、さっさと行こうか。ああ・・マサミ、だったか。異世界から来たんだから、こっちの常識に合わせろとは言わない。ただ、ここでは、十二歳を過ぎた女子が膝より上を見せる服装をしていたら淫売・・娼婦だと思われることだけは覚えておいた方が良い」


 わざわざ俺が言わなくても良いような事だが・・。


「ええっ!?・・そ、そうなんですか?」


「そんなぁ・・だって、これしか向こうの服が無いんですよぉ?」


 マサミが唇を尖らせるようにして言う。


「鎧か何か着るのに・・まさか、それの上に着るつもりだったのか?」


「ええぇ?だって、他に服が無いんだもん」


「・・・そこからか」


 俺は非常な疲労感を覚えた。

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