40話 脅威
「――私はアナタと……〝今は〟ついて行けません……」
アテナ下向きに眼をそらしながら右手で左腕をぎゅっと握り締め、丁寧な口調で申し訳なさそうに言う。
リンとロドニはアテナの態度を見ると、戦闘態勢が崩れ棒立ち状態になっていた。
そもそも二人は先ほどのレイダとアテナのやり取りを見てないため、そうなるの無理もない。それ以前にレイダとアテナが大昔にどんな関係を築いていたのかはうっすらとしか聞いていない。そのため、少ない情報で判断してしまい、今の現状に至っているのだ。
「そうか……理由を聞いてもよいかのう?」
「私が居ても手助け出来ることがないからですの。現状素性の割れていないアナタと違って私は『大神』様の管理下にいますの。下手に私がコンタクトを取ればアナタの計画に何らかの支障を来すとは思いません?」
「一理あるのう」
「それに私には家族がいます。もしこのことを知られてしまったら確実に人質にされてしまう。そうなったら私はアナタとの死闘は厭わないでしょう。そんなルートになりたくはないのです。そこで私は中立の立ち位置になろうと思ったのですの」
「中立、か……」
レイダは威圧をかけてくると思ったが残念そうに少し顔を歪める。
元々出来ればといった感じで無理引き込もうとは思てはいなかったのだろう。それは普段の感情豊かなレイダを見れば一目瞭然だ。
それでも戦力増大が叶わないのは少しばかり落ち込むのかもしれない。
今のリン達では一人を相手をするので精一杯で未熟なのだから。そんな状況下で戦闘が起こってはレイダ望みは薄くなってしまう可能性が高い。
(というか神様って家族とか居るんだな)
ふと場違いなことを思うリンであった。
「はい、あとアナタ暴挙を密告するつもりもありませんわ」
「ん?それはどういうことじゃ?それではお主に何のメリットもなかろう?それにお主はワシのやろうとしていることを『暴挙』と言ったな?お主はワシがやろうとしていることによって家族に危険が及ばないと思わんのか?」
「そうですわね、それも考えましたわ。でも、それでも私は密告するつもりはありませんの。
だって私はアナタ見極めたいのです。過去にどんな苦痛を強いられてたかは分かりません。アナタが真に正しいことをしているなら、場合によっては陰ながら手助けをすることに関しては吝かではないと思っておりますの。ですが、手助けといっても家族の方を優先させて頂きますので、出来ることは少ないと思われますが……」
アテナは控えめに言うと視線を斜め下に反らす。
それを見たレイダは「フッ」と微笑する。
「なっ!?何故わらっ……」
アテナは頬を赤らめながら抗議しようとしたが、理解できずに口ごもってしまった。
「いやー!すまぬすまぬ、まさかお主がここまで言うとは思わんかったのじゃ。昔のお主だったら『えっと……』のオンパレードじゃったからな!」
「む、昔のことは忘れてくださいまし!」
そう言ってアテナは恥ずかしそうにレイダを胸をポカポカする。
はっきり言って此方からしたらシュールであるが、二人にとってはこれが昔の普通だったのだろう。
喧嘩するほど仲がいいとはこの事をいうのではないだろうか?
まあ、喧嘩のレベルが可笑しいのはご愛敬ということで。
そう思いながら二人を見つめるリンとロドニであった。
「まあ、じゃが、お主が少なからずでも協力してくれる可能性があると聞けただけでもワシは十分じゃ。もしその気があれば話してやるのじゃ」
「約束ですよ?今度破ったら殺しますから?」
そう言って二人は微笑むと拳をコツンっと合わせた。
なんか最後が黒い感じではあったが少なからず友情は戻ったらしい。(よくわからんが)
なんというか微笑ましく思えてくる。
『微笑ましことこの上無いな』
(うんうん、ほんとそれな……って誰!?)
その瞬間世界が変わったかのように体が凍り付くような感覚に見舞われた。
気づけば鳥肌が立ち後ろからは禍々しい魔力を感じた。
(なんだ……この感覚は……)
リンはこの感覚に近いものを知っている。それはアルシャがキレた時の感覚だ。
つまりこれは――恐怖である。
恐らく後ろにいる存在が辺り一面に威圧を放っているのだろう。
しかもレイダの威圧と比べられないほどであった。
目の前にはロドニ達が居る。ロドニは今までに見たこともないくらいに怯えており、後二人の神は苦悩の表情を浮かべている。
いったいに何が後ろにいるのだろうか……。
そう思って振り向こうとしたが体がいうことを聞かない。だが、直ぐ様その正体を知ることになった。
「まさかこんなにも早く気づくとは思ってはいなかったのじゃ……」
「どうしてここに仰せられて居るのですか……〝大神様〟……?」
リンとロドニは納得と同時に膝をガクッと地面に落とすと終わりを悟った。
――こんな強大な相手に勝てるわけがない……と。
「久しいな、レイダ。負けて尚足掻くとは滑稽だな」
「開いて煽りかのう?全く腹正しいやつじゃ!」
大神の子供を諭す親のよう話すのに対してレイダは焦りを隠しきれない状態で返す。
リン達には相当の見せなかった相当の憎悪を込めて。
正直息が出来ないほどの圧だ。
恐らくそれだけの恨みを大神は買ったのだろう。
すると大神は急に腕を上げて指をパチンッと鳴らした。
そしてリン達個人を囲むように赤い楔の様なものが宙を舞いそのまま体内に入り込んで強烈な痛みが身体中を駆け巡る。
「うがあああああああ!!」
リンとロドニはその場をじたばたと暴れまわった。
レイダとアテナの方に目を向けるとどうやら効いていないようだった。
大神はリン達に効き目を確認するとゆっくりと口を開く。
「
するとリンとロドニ、未だに目を覚まさないダブルフィルの体が中に浮く。
リンは必至に抗おうとしたが自身の体に異変を感じた。
(魔力が……感じない……?)
魔法に必要な魔力を行使しようと脳内でキャンセルが起こったのだ。
これでは感知すら出来ない。
そして現状が理解できずに転移が始まってしまった。
「うぐっ!頭が……!」
転移の影響で脳に深刻なダメージが来てしまったようだ。
リンは痛みに耐えきれずそのまま意識を手放した。
(ごめんみんな……俺がもっと力を付けてれば……)
非公式の異世界転生 ほろう @horou_poke
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