35話 奇襲
「むぅ……もう……食べられない……」
「リン……次はどこにいこっか……」
「次触ったら……ぶっ殺してやるんだから……」
「……この酒はよいのう……」
誕生日会を終えて、女性陣は気持ち良さそうに眠っていた。さらっと物騒なことが聞こえたのはスルーするとして。
女性陣はなんだかんだ主役よりはしゃいで、途中から主役が隅に追いやられるという前代未聞のことになったが、悪くはなかった。
リンは宿の窓枠に肘をつき、黄昏ながら夜空を見ていた。
「今日はいい日だったなぁ。前世は父さんによく祝って貰ってたっけなぁ……母さんは行方不明で居なかったけど、あのときも楽しかったなぁ……今、父さんには何してるんだろう……僕が居なくなって、悪い方向にいってなければいいと思うけど……ッ!?」
そんな事を思っていると、空に一瞬、影が通ったことに気づいた。
「何だ!?」
リンは窓から身を乗り出して、辺りを見回したが、なにも見つからなかった。
「気のせいか……」
リンはそっと安堵をする。――が、
「ようやく見つけましたわ、レイダ」
「なっ!?」
リンは声のした方向に向くと、大鎌を持った銀髪の少女が立っていた。
しかし、ただの少女ではないのはすぐにわかった。
底知れぬ威圧感。圧倒的な存在感。あのときに味わった感覚と同じであった。
「神……」
リンはなんとか声を絞り出して呟く感じに言った。
「あらあら、〝アナタ〟も神でしょ、レイダ?」
目の前の少女は何をおかしなことを言っているといった感じで返した。
「俺が……レイダ? それってどういう……」
リンは戸惑いを覚えた。
「そこまでにしてもらえんかのう……〝アテナ〟」
いつの間にか起きたレイダが険の篭った声で言う。
気づけば女性陣は戦闘体勢に入っていた。
「あらあら、こちらからもレイダの反応――そういうことですか……フフッ……面白いことになってるじゃありませんの……フフッ……フフフフフッ!」
何を察したのかは分からないが、アテナは口許を手で覆いながら狂い気味に笑った。
「お主は変わらんのう、まだワシに執着心を燃やしておるとはのう……」
レイダは呆れながらやれやれといった感じをだしていた。
「レイダさん、あの狂神(アテナ)とはどのような関係なんですか?」
ロドニはアテナに目を向けながらレイダに聞いた。
「敢えて言うなら、上司と部下といった感じじゃな」
「部下って、レイダさんが上司!? 見た目と風格、発言がスリーアウトなのに!?」
「それはどういう意味じゃ!」
リンはレイダが意外と地位が高いことに驚くと、レイダが批難の声を上げた。
「敵を目の前にしてコントしてる場合か!」
「「してないわ!」」
敵に余裕を見せてるように見えたのか、黒フィルは少しばかり怒りを覚えて、二人に突っ込むと、それを否定した二人は見事にハモった。
「あらあら、今のアナタは本当に楽しそうですわね、昔のアナタは冷酷で誰も寄せ付けない――そんな圧倒的な存在だった筈ですのに……どうしてかわってしまったのかしら……」
アテナ狂気染みた笑顔をしながら語りかけてきた。
「狂ってる」
先程からの奇妙な笑い声に対して白フィルはボソッと呟く。
すると、アテナから笑顔が消えた。
「フフッ、羽虫が口を挟まないでくださいまし!“
そして先程より低い声で言うと、一瞬で姿が消え、白フィルの背後に回り、白フィルを上から弧を描くかのように切り裂く形で大鎌を振り下ろした。
すると、大鎌の斬撃によって宿が真っ二つに切り裂かれ、崩れ始めた。
リン達は蜘蛛の子が散るように、その場から避難すると、驚愕する光景が広がっていた。
(おいおい、マジかよ……)
大鎌の斬撃が目の届く範囲外まで広がっていたのだ。
そして、住民から驚きの声や泣き叫ぶ声がちらほら聞こえてきた。
少なくとも怪我人――最悪の場合は死人が出てるに違いない。
(くそ! まさかここまで被害を被るなんて……そういえば白フィルはどうなったんだ!?)
リンは焦りながら辺りを見回すと、すぐ近くで鎖鎌を構えていた。
どうやらギリギリのところで“
「羽虫の分際で“
すると、アテナの後ろに“
そして中から縛られて意識を失っている金髪の女性らしき人物が出てきた。
「なっ!? バカなッ!」
それを見たレイダは目を見開き、驚愕を露にした。
「お主……やりおったなあああああ!」
レイダは血相を変え、禍々しいオーラを放ちながら、アテナを睨み付けた。
「あらあら、怖い怖い。かつての友人とのご対面ですのに」
アテナはレイダを煽るように語り掛けると、レイダから何か切れたような気がした。
「黙れ」
「はい?」
「黙れと言ったのじゃ」
レイダのオーラはさらに禍々しくなり、リン達は押し潰される感覚に見舞われた。
「あらら、もしかて怒ってしまわれたのですか? それはそれは……なっ!?」
アテナがレイダを挑発したかと思えば、アテナがいた位置にいつの間にかレイダがいた。そして、遅れて衝撃波が襲ってきた。
改めてレイダを見ると、レイダの正面を沿って、一直線上に削られた痕が残っていた。
恐らく、目にも止まらぬ速さで移動し、魔法か物理的にアテナを吹き飛ばしたのたのだろう。少なくとも転移(テレポート)ならここまでの衝撃波は来ないため、考えられるのはそれしかなかった。
そしてこれを食らったら、自分達は間違いなく死に至るだろうと思うと、恐怖でしかなかった。
「あらあら、痛いじゃありませんの……」
リン達は声の方向に顔を向けると、そこには肌が傷だらけのアテナがいた。しかも上空で停止した状態で。
「まさか、ワシの不意打ちを耐えられるとはのう……あれで終わらせるつもりじゃったんじゃが……」
レイダは不満げに言うと、アテナはクスクスと笑いながら、
「余り過小評価しないでくださいまし、これでも名のある神ですのよ、私は? それに、あんな雑魚と同列は嫌ですわよ?」
(名のある神? あんな雑魚? ……まさか、雑魚って導きの神のことか……? 確かに導きの神って名前と言うよりは固有名見たいに聞こえるし……あれが低レベルなのかよ……なら今の俺達じゃ……)
リンは今の自分では全く歯が立たないかもしれないと実感すると、拳を強く握りしめた。
「フフッ、そろそろ飽きてきた頃合いでしょうから、実験をするとしましょうかしら?」
「――実験……じゃと?」
アテナは狂気染みた笑顔をすると、先程の気を失ってる女性に手を掛け、縛りを解除した。
すると――
「うあああああああああ!!!」
と狂人のような声を上げた。
見た感じ、完全に理性が飛んでいた。
「さあ、殺しなさい。〝ヴァルキュリー〟」
「うあああああああああ!!!」
ヴァルキュリーはアテナの命令で叫ぶと、剣を構えた。
そしてリンに目掛けて突っ込んできた。
(ちぃ!【七豹変化】――“カラクリ”!)
リンは今の咄嗟にオリジナルを展開して、ヴァルキュリーの一撃を防ぐ。
そして、ヴァルキュリーが一瞬止まった隙を狙って、ロドニが日本刀で斬り込んだ。
それを察してリンから飛び退くと、それを狙って黒フィルは矢を放つ。ヴァルキュリーは空中で上手く避けられず、腕に矢が突き刺さった。
「ぐわああああああああ!!!」
ヴァルキュリーは矢が突き刺さると悲痛の叫びを上げた。
そして、様子を窺うかのように距離を取った。
こうして、リン達転生者による初の神との正面対決が幕を上げた。
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