34話 サプライズ
ハルターと別れカイナ港を出航したリン達一行は、次なる目的地である、《コワタ港》を目指していた。
港の名前がオワタという、終わりを感じさせるイントネーションなのは突っ込んだら負けな気がした。
突っ込んだらフラグを立てそうな気がするからだ……って内心で思ってる時点で自らフラグを立ててる気がした。
「おお……」
「きれーい」
「潮風も中々悪くないわね」
白フィルが感嘆な声も漏らすと、続くようにロドニと黒フィルが呟いた。
「辺りを水に囲まれると体が疼くのう」
そう言いながら、レイダは懐からステッキ型の魔道具を取り出した。
リンは気になって聞いてみることにした。
「レイダさん、今から何をするつもりですか?」
すると、レイダは得意気な表情をして、ただ一言、「待っとれ」と言うと、ステッキに魔法を付与した。
「では、始めるぞ」
レイダは勢いよくステッキを振ると、水面から水の玉を作り出した。
リン達は興味深く見ていると、レイダは水の玉を使った、水のイリュージョンを始めた。
それは少女の形やらウサギの形に変貌した。
そして仲良くティータイムしていた。
こうして見ていると、まるで『不思議の国のアリス』み見ているようだった。
「おお……」
「和むなぁ……」
「見てて新鮮ね」
女性陣にはかなり好評かである。
精神年齢的にはそういうのは卒業をしてそうだが、子供らしさは未だに健全らしい。
そう思っていると三人が此方を睨んできた。
(え……? まさか悟ってないよね……?)
どうやら勘の鋭さも健全らしい。
(というか、
リンは自分の肩身が狭くなりつつあることを実感すると、泣きたい気分になった。
レイダのイリュージョンは暫く続き、実に素晴らしい時間だった。
そして気づけば日が落ちかけていた。
女性陣ははしゃぎすぎたせいか、体を寄せあって眠っていた。
(暫くこんな日常が続けばいいのにな……神様に振り回されないそんな日常を……いつまで続けられるのだろうか……正直、もう会いたくないんだけどなぁ……)
そんな事を思いつつ、リンは黄昏ながら海を眺めた。
それから二日が経ち、コワタ港にたどり着いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
リンは船を降りて、辺りを見回した。
コワタ港はカイナ港と差ほど変わり映えのない町だった。少し違う点と言えば、まず服装だ。
この港町ではフードを被ってる人がちらほらいた。恐らく町を出て暫くのところに砂漠があり、その場所を経由して通る行商人や冒険者だろう。
そしてもうひとつは売っている食べ物だ。
魚が殆んどなのは余り変わらないのだが、続いて多いのが、日持ちの長い保存食だった。
これもまた、砂漠が近くにあることによって、そこを経由する行商人と冒険者によく売れるのを想定してるのだろうと、リンは思った。
「んー、二日間船旅立ったけど、案外短いものね」
「楽しかった」
体をグッと伸ばしながら黒フィルが船から降りると、その後ろから続くよに、未だに興奮が収まらない白フィルが出てきた。
「それで、コワタ港に着いたはいいけど、これからどうするんですか、レイダさん?」
「ん? あー、取り敢えずここから南東にあるサバナ地帯の民族を目指そうと思っておるのじゃ。そこが今回の目的地じゃからのう」
「つまり、そこに転生者がいる可能性があると?」
「恐らくのう」
続いて今後について話ながら、ロドニとレイダが船から降りてきた。
珍しく真面目な二人を見てリンは少し感心をしてしまった。
そして船を出してもらったお礼に船長の方に顔を向けた。
「船長さん、船を出して頂いてありがとうございました。それと、父さんにも改めてお礼を言っておいて貰えると助かります」
「いえいえ、あのお方は私にとって命の恩人。これしきのことは当然の勤めですから」
「そうでしたか、では僕らはこの辺で。改めてありがとうございました」
「気を付けるんだよ。“子供達だけ”で「ぐはっ!?」何処へ行くのかは知らないけど、頑張って下さい」
「はい!」
(今、誰かの心に何かが突き刺さったような気がするぞ……声がもろに聞こえたし……って言わずとも分かるけど)
リンは船長と話を終えて、振り向くと、怨念を呟くように「子供……だけって……子供……」と死んだ魚の目をしながら肩を落としてるレイダがいた。
こうしてみると、時々レイダが神様だということを忘れそうになる。見た目がロリで行動が子供っぽいせいか威厳がない。
神様として実感するのは、たまに見せる狂気染みたオーラを出すときくらいだろう。
そんな事を思っていると、ロドニが尋ねてきた。
「一応、行き先は決まってるけど、今日はどうする?」
「うーん、今日は泊まって明日出ようと思う。今日の残りは買い出しをしといた方がいいかな? サバナ地帯ってことは近くに砂漠もあるだろうし、水を大量に買っておいた方がいいかもしれない。あとは個人で自由ってことで。せっかく来たんだし、見て回りたいだろ?」
リンがそういうと、ロドニはワンテンポ遅れて、「よっしゃ!」と嬉しそうにガッツポーズをした。
「そこまで喜ぶことか?」
「まあね、それと、一応ここで少し用事があったし」
「用事って?」
「それは言えないなあ? 言ったら面白くないじゃないか~」
ロドニはリンの聞き返しに白々しく返した。
「なんか嫌な予感がするのは気のせい?」
「うんうん、気のせい気のせい」
リンはジと目で睨むとロドニはそれを笑顔で受け流した。
リンは逃れられないと悟ると「はぁ……」とため息をついた。
「もう勝手にしてくれ……」
「そうするよ」
そしてリンとロドニは別れて、各々の目的のために動いた。
時間は流れ、気づけば日が落ちていた。
「はあ、戻りたくない……」
リンはロドニのあの表情を思い出す度に、嫌な予感でいっぱいであった。
それでも戻らないは戻らないで心配されてしまうため、仕方なくといった感じで予め取っておいた宿に向かっていった。
そして取っておいた個室に手を掛ける。リンはごくりと喉を鳴らしながらゆっくりとドアを開けると――、
パァーンッ!
「「誕生日おめでとう(じゃ)! リン(よ)!」」
リンは急な出来事に目を点にして、クラッカーの塵を被った。
「えっと……これはどういう……」
リンは未だに状況が読めず、困惑していた。
「先生から聞いたよ。今日がリンの八歳の誕生日だって」
「たんじようび……? あーそういえばそうだった……」
リンはここでやっと状況を理解した。
(そうか……今日が自分の誕生日なのすっかり忘れてたよ……神様騒動で忙しかったし……)
「ごめんね、リン。私達からはこれくらいしかできなくて……本当はプレゼントとか用意したかったんだけど……」
ロドニが少々申し訳無さそうに言うと、リンは慌ててフォローした。
「いや、いいよ! これだけでも十分に嬉しいよ! ただでさえ、神様騒動で心に余裕がないのに、俺なんか祝ってくれるなんて……嬉しい限りだよ!」
すると、ロドニはすぐさま明るくなり、リンに飛び付いた。
「よかったー! これからも一緒に頑張ろうね!」
「ああ」
リンは飛び付いてきたロドニを抱き寄せて、微笑みながら返した。
(まさか、サプライズされるなんて読めなかったけど、あんな態度取っ手しまった自分に罪悪感がね……)
リンは心の中でひっそりと思った。
すると後ろから「出来たわよ」と、声が聞こえた。
リンは後ろを向くと、そこには四角い箱を持った黒フィルと今にもよだれを垂らしそうな白フィルがいた。
リンは、黒フィルが「見せつけんじゃないわよ」と言いたげそうな目で此方を睨んでるのをスルーして、箱の方に目線向けた。といっても、白フィルの反応を見て中身は察しが付いているが。
黒フィルは箱を開け、中身を出すと、八本の蝋燭の刺さったケーキが出てきた。
「うわぁ……! みんな……ありがとう……」
ついに感極まりなくなったリンは、今にも嬉し泣きしそうになっていた。
そしてリンは感動的な誕生日を迎えた――が、リン達はまだ知らない。これから起こる最悪に……。
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