33話 出航
「人がいっぱい……」
「なんか懐かしいわね」
あれから三日かけてリン達一行は、
そんなことより、
普通の人が聞いたら完全に度肝を抜くかジョークとして受け取られる。――というか絶対ジョークだと思われるが当たり前だろう。何せ見た目はこんなに小さな子供なのだから。
白フィルの武器はというと、あまりにも個性的だった。
何せ常人には扱いの厳しい、“鎖鎌”を使った戦法を得意としていたのだ。これを個性的と言わないで何というのやらと思えてくる武器である。
それと、
こちらとしては喜んでもらえるなら作った甲斐があるし、これから共にする仲間なら当然のことだと思う。
「じゃあ、俺はちょっくら知り合いのところに行って船を出してもらえるか確認してくるわ」
そう言ってハルターはリン達と一旦別れた。
すると白フィルは「船?」と子首をかしげながら、こちらに聞いてきた。いつもの無表情で。
「そうだよ……ってもしかして船酔いするタイプ?」
「わからない。私、船に乗るの初めて」
そう言いながら、好奇心旺盛の子供のように、目を輝かせていた。といっても見た目も年も子供なのだが。
「そうか、早く乗れるといいな」
「うん」
白フィルは顔は無表情だが、嬉しそうな雰囲気を出しながら頷いた。
「ところでお昼はどうする?」
「えさっ!」
(切り替えはやっ)
ロドニが今いる、ハルターを除いたメンバーに聞くと、白フィルは真っ先に反応した。
どうやら船よりもご飯の方が好感度が上らしい。
「ギルドで食べるのはどうだ? 依頼の報告のついでにさ」
「それはありかもしれないけど、私達は子供よ? 絶対に悪目立ちすると思うんだけど……」
「そのときはそのときだよ、少なくとも変に絡んでくる輩は居ないと思うよ? ロドニのあの功績があるからね」
「まあ、確かにそうかもしれないけど……」
ロドニはリンの提案を曖昧に返した。
余りあのときのことを引き合いに出されなくないらしい。
「あの功績ってなに?」
白フィルはリンの最後の言葉が気になって、聞いてきた。
因みにあの功績というのはクラーケン討伐のことである。リンはそのときの出来事を白フィルに聞かせた。
「おお……さすが、ロドニ」
リンの話を聞いた白フィルはロドニに感心の声を上げた。
「いや、この面子なら誰が行ったって結果は同じだと思うけど……」
ロドニは苦笑いしながら頬をポリポリ掻いて、白フィルに返した。
「で、行かんのか? ワシは腹が減って仕方がないのじゃが……」
空腹で痺れを切らしたレイダは、リン達を急かすように言った。
「じゃあ、行くか」
「あいさー!」
リン達はこのままギルドへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「へぇ、ここがギルド……想像以上に賑やかなのね」
黒フィルは興味深そうに辺りを見回した。
「だろ? まあ、ロドニのクラーケン討伐の影響も軽く残ってるかもしれないけどな。あの討伐のお陰で塞がった航路が通れるようになって、町人――特に商人の間ではかなりの大盛り上がりだったよ」
「ふーん、そうなのね。あたしもギルドに入ろうかしら」
「私も入りたい」
リンの話を適当に流すと、黒フィルはギルド加入を希望した。それに便乗するかのように白フィルも希望を表明した。
「いいんじゃないか? 魔物退治しながら魔道具の試運転も出来る――といっても高ランクの依頼に限るけどな。一番はやり過ぎても魔物退治を言い訳に使えることだよな。うっかり力の加減を間違えると辺り一面さら地にしちゃうしな」
「ほーう、それを俺がいない時にやろうって話か?」
「……へ?」
急に後ろから聞きなれた声が聞こえて、リンは間抜けな声を上げた。そして冷や汗を滴ながらゆっくりと後ろを向くと、こめかみに青筋を浮かべたハルターがいた。
「なんだ? 話の続きはないのか?」
「いやぁ……そのぉ……」
リンの顔は徐々に真っ青になっていった。
「この、バカ息子がああああ!」
「イヤああああああ!」
そしてギルド中にハルターの怒鳴り声が響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「耳が……」
「自業自得だ、バカ息子が」
リンはハルターの怒鳴り声を間近で聞いたせいで目が虚ろ状態になっていた。
そして今は依頼報告及び二人(ダブルフィル)の冒険者登録を終えて、食事を堪能していた。
因みにみんなが食べているのは、港町ならではの海鮮サンドイッチだ。
取れ立て新鮮の魚介類と野菜にオイスターソースに似た味がするソースを掛けたサンドイッチは絶品である。
「暫く肉しか食べてなかったけど」
「魚、上手い」
「やはり海の幸もたまらんのう」
「そうだね~」
どうやら女性陣にも好評のようだ。
「しょれぇで、ふぅにぇにょほうあどふなっだおじゃ?」
「おいおい、ちゃんと飲み込んでからいってくれよ。女子力下がるぞ……ってそれ以前にロリBA……ぐふっ!?」
リンは何かを言いかけたところでレイダから強烈なラリアットを受け、椅子から床に倒れた。
そしてリンは白目を向いて意識を手放した。
レイダは食べ物を飲み込むと、威圧の篭った笑顔を作った。額に青筋を浮かべて。
「すまないのう、手が滑ってしまった。先程の言葉じゃが、もう一度言ってはくれぬかのう? よく聞こえなかったのじゃが?」
レイダはゴミを見る目をしながらリンの頭をグリグリと踏みつけた。
他の客はドン引きをするかと思えば、二人の姿が子供なため、子供の喧嘩として見られていた。
他のみんなはというと、同情の余地がないことと、巻き沿いを食らった場合を考慮すると止めない方がいいと思い、見なかったことにしていた。
「それで先生、船の方はどうだったんですか?」
先程レイダが聞いた質問をロドニがした。
「いつでも出せるだとよ」
「本当ですか!」
「ああ、間違いなくな」
ようやく次のステップに進めることを知ると、ロドニは喜びの声を上げた。
「ほう、ようやくかのう」
リンを締め上げたレイダも便乗するかのように反応した。
それよりもリンの惨状が他人には『見せられないよ』状態になっていることは突っ込んだ方がいいのだろうかとリンとレイダを除いた四人は思った。
「まあな、明日にでも出せるって言ってるし、準備はしとけよ?」
「分かりました。そうなると食料も作り置きしないと行けませんね」
「そうね、私達は紙とか途中必要になりそうなものを買ってくるわ」
「ワシは取り敢えずそこの屍を宿に運んで行くとするかのう」
みんなは食べ終わると、ギルドを出て、それぞれの目的のために動き始めた。
そして全員が揃う頃には夜になり、明日の準備を終えて、そのまま眠りに落ちた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝――船着き場。
「コイツらを任せたぞ」
「はい、責任をもってお送り致します」
ハルターは知り合いであろう船長と話を終えると、こちらに向かってきた。
「とうとうこの日が来ちまったな」
「そうだね、父さん」
気づけばしんみりとした空気になっていた。
「お前は昔からやんちゃしてたからな、こちとら心配でならねぇよ。魔法で家の壁貫いたり、暗殺者相手に圧勝したりしてよ、こっちは聞いたときは度肝を抜かれたぜ」
「それ、やんちゃの度過ぎてない?」
「それでもよ、俺はお前の成長が嬉しかったんだ。あのときまではな」
「導きの神……」
「ああ、あの時、お前と殿下が傷だらけという知らせを聞いて頭が真っ白になったな。聞けば相手は神様。驚きで言葉もでなかったぜ。もしあのタイミングでレイダが現れなかったら、俺はお前を失ってしまうかも知れねぇと思うと、あの時側に居てやれなかった自分を悔やんだぜ」
「父さん……」
「だが、今はそうは思わねぇ、俺はこの運命を奇跡だと思ってる」
「どうしてそう思うんだ?」
リンはハルターの言ってる意味がよくわからず、聞いた。
「お前、気づいてないのか? 旅してる時のお前……今までで一番生き生きしてたじゃねぇか」
「余り実感がないな」
「少なくとも俺はそう見えるぜ。なあ、殿下?」
「私もそうだと思うよ」
ロドニは突然話を振られたにも関わらず、即答した。
「ただ、死ぬんじゃねぇぞ。必ず勝って来いとは言わねぇ。だから危ないと思ったら引き返して来るんだぞ?」
「はい」
「あと、人の道は踏み外すなよ?」
「はい」
「また、辺り一面をさら地にするんじゃねぇぞ?」
「……はい」
「今一瞬、間がなかったか?」
「気にしないでください」
「それとな……」
「分かったよ父さん、約束は必ず守るから、だから……だから家で待ってて欲しいんだ。全部終わって、家に誰もいないなんて、俺……嫌だからさ……」
「……お前も言うようになったじゃねぇか。分かったよ。待ってやる。だから頑張れよ」
「はい!」
そして二人は男の友情を確かめるかのように互いの拳を合わせた。
そしてリン達一行はハルターと別れを告げ、出航した。
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