30話 新しい魔法
えっと……ここが研究所なの……?」
ダブルフィルとレイダを除いた他三人は目の前の光景に困惑していた。
しかし無理もない。何せ、研究所と思って入ってみれば中は辺り一面が“草原地帯”だったのだから。
「レイダさん……本当にここが研究所なんですか……?」
ロドニが恐る恐る聞くと、
「そうじゃが?」
何を当たり前のことを聞いているんだという顔をしてロドニの疑問をあっさり肯定した。
「でも……これって――」
「“
ロドニがなにかを言い出そうとした瞬間に、白フィルが魔法を行使した。
すると、辺り一面の草原地帯から本棚や無数の装備品と魔法陣の書かれた紙のある“研究所らしき場所”へと変貌した。
「今、何をしたんだ……?」
リンは少々驚いたものの、平然を装いながら白フィルに聞いた――が……
「…………」
しかし完全にしかとされてしまった。
そして何事も無かったかのように目の前を通りすぎ、魔法陣の紙を手に取りながら近くに合ったコップを手に取り、飲み物を啜り出した。
「ちょっ!無視しないで!? 今のは何だったんだよ!?」
「…………」
リンは気になって追及を続けたものの、白フィルは聞く耳を持たずに魔法陣を見つめていた。
そしてリンは無理だと悟ると肩を落として、今度は黒フィルに聞いた。
「あたしに聞いたって解らないわよ。あの子のいつもあんな感じだし。何を考えてるかなんてさっぱりよ」
やれやれといった感じで天井を仰ぎながらリンに返した。
「そんなぁ……」
そしてリンはまた肩を落とした。
「あの子の口を開かせる方法ならあるけど?」
「……マジか!」
リンは黒フィルの一言を聞くと、餌付けされた犬の勢いで黒フィルのところに寄って、両手でガシッと肩を掴んだ。
「あ、うん。てか、顔が近いわ!」
ドスッ!
「ぐうぇ!」
そしてあまりにも近すぎたせいで溝に拳がクリティカルヒットした。
「気になるのはわかるけど! あんたデリカシーがないわけ!?」
「本当ですよね、口実が出来るからってどさくさに紛れて人の胸を触るような人ですから」
黒フィルはリンの行きなりの行動で顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
そしてロドニが追い討ち掛けるように付け足して行き、黒フィルは更に顔を真っ赤にして、
「ちょっ! ロドニの時は不幸中の幸いというかなんと言うか――」
「言い訳無用! 死ねぇ! この変態!」
「グハッ!」
弁解をしようとしたが、下から見事なアッパーをくらって宙を舞い、「ぐうぇ」という下品な声を上げて仰向けになって倒れた。
「それでどうしたら話を聞いてもらえるか聞かせてくれる?」
ロドニは何事も無かったかのように黒フィル聞いた。
(ちょっ! 二人揃ってひどくない!? しかもロドニの白々しい一言で初対面の人に完全に変態認定貰うし、これは流石に萎えるぞ!)
リンは体をピクピクさせながら心の中で叫んだ。
「ちょっと、待ってなさい」
そう言いながら黒フィルは近くの箱から小さな袋を取り出した。
そして袋に手を突っ込むと、中から大量の“お菓子”が出てきた。
「しろ~おやつの時間よ~」
「えさっ!」
黒フィルが声を掛けると、白フィルは一瞬で黒フィルのところまで“
そしてお菓子を手に取ると、蕩けるような笑顔でお菓子を頬張った。
「リン、今のって……」
「ああ、間違いない。“
“
「お主ら、どうやってその魔法知ったのじゃ?」
二人の疑問をレイダが代わりに聞いた。しかも睨みながら言葉で重圧して、だ。
そして一人を除いて緊張が走った。
「クスッ、随分と可笑しなこと聞く。思わず笑いそうになった」
「なんじゃと?」
白フィルは軽く挑発するかのように嘲笑った。
そしてレイダは更に鋭く白フィルを睨んだ。
「これ、何だかわかる、よね?」
そう言って白フィルは懐から紙の切れ端を取り出した。そしてその紙には魔方陣の一部が書かれていた。
「わかるもなにも、それはワシが書いたのじゃからな」
「うん、知ってる。でも、これをどこでどうやって手にいれたと思う?」
「…………」
「ここで黙秘権は、これから先、私の言おうとしてることが概ね当たってるとして受けとる」
「…………勝手にせい」
レイダはこれ以上は無意味だと悟ると、捨て台詞を吐いて椅子に乱暴に座った。
「それで、どうやってさっきの魔法を使えるようになったか聞いていい?」
レイダの重圧から解放されたロドニが聞いた。
「使えるかの前に、どこでどうやって手に入れたかから話す。これはこの研究所の今レイダが座ってる椅子の下にある隠し扉から見つけた。ただ、隠し扉には何重のも特殊な防御壁があった。でも、その壁には暗号らしき文字があった。しかも“日本語”で。これってどういう意味だと思う?」
白フィルは無表情でこちらに聞いてきた。
「なあ、日本語ってなんだ?」
「父さんには縁の無い話だから気にしないで」
「ひでぇ……」
転生者ではないハルターは日本語知るはずもなく、聞いたもののリンによって乱暴に遮られた。
「それは
「うん。そして私はこれを復元して転移を覚えた。他の魔道具の作り方やさっきの“
白フィルは表情を一切変えずにロドニに淡々と答えた。
「でも、その切れ端だけで簡単に使えるものなの?」
「私にとって一部さえあれば解析は可能。思い付いた方法を何通りか試すとだいたい当てはまる」
「随分と大雑把なのね……」
と、ロドニは苦笑いしながら言った。
「それ、俺らに教えてはくれないか? もし対価が必要って言う――」
「構わない」
「……マジ?」
リンは流石にかなり手間と苦労を掛けて解析しただろう魔法陣(もの)をそう易々と教えてもらえないと思った。だが、「対価は何か?」と聞こうとしたら、あっさり了承され、驚きのあまり少し間が抜けてしまった。
「うん。別に隠す理由がない」
「だって……いや、ありがとう」
リンは他人の努力を無償で貰うのは気が引けたが、教えて貰うことにした。
「うーんどれだっけ……――あった」
白フィルは異空間を展開し、一枚の紙を取り出した。
「はい、これ」
そしてリンに渡した。
リンは渡された紙には四種類の魔法陣が書かれていた。
・
物体浮遊を可能とする魔法。
魔力量によって個人差あり。
・
指定した場所へ瞬間移動する。ただし、知ってる場所に限る。
・
相手の魔法を一度だけコピーする。
・
物体変化。主に色彩と変形。
(おいおいまじかよ……)
内容は完全にチートだった。
リンは驚きを通り越し、呆れて頭を抱えた。
そして内容が余りにも鬼畜過ぎてこのまま貰うのに軽く罪悪感を覚えて白フィルに聞いた。
「えーと、やっぱり対価必要なんじゃ――」
「のーせんきゅー」
「でも――」
「のう、せん、きゅー」
「……はい」
結局リンは無表情の白フィルに丸め込まれて、力なく受け取った。
(どうして女の子にはこうも弱いんだろうか……)
リンは死んだ魚の目をしながら思った。
そのままリンはロドニを連れて腕輪や指輪に魔法を転写し始めた。
そして終わる頃には研究所が冷えてきた。どうやら日が暮れたらしい。
「そろそろ飯にするか」
「えさっ!」
ハルターが言うと、白フィルが勢いよく反応した。まるで餌付けされた犬のように。
「今日はなに作るの?」
「カレーにしようかと思う」
「「カレー!?」」
ロドニがハルターに今晩のメニューを聞いて、ハルターが答えると
どうやら、転生してからカレーを食べたことがなかったらしい。
正直、リンも最初はこの世界に米とカレーがあるとは思わなかったが、熱帯雨林気候の場所ではかなり盛んらしい。
クラントブールは地中海性気候で、乾燥して米は出来ない。そう思って聞くと、ロドニが旅支度の前にいくらか輸入していたらしい。
そして出来上がると、全員が一斉にカレーを食べ始め、久しぶりのカレーに二人(ダブルフィル)は蕩けるような笑顔をしていた。
食べたあとは研究所にある個室に全員別々に眠った。
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