28話 ハルマント遺跡《後編》
ハルマント遺跡:三層
「ど、どうなってるんだ……?」
リンたちは目の前の光景に驚いていた。正確には光景というより、この階層の風景そのものに驚いていた。
それに遺跡の中だというのに、〝明るい〟のだ。まるで雪山に輝くダイヤモンドダストのように。
しかも、驚いたのはそれだけではない。木々も生い茂っているのだ。
そして見渡せば、ちらほら野うさぎやらキツネも見える。全くといっていいほど、外と変わらなかった。
「ねえ、リン! 上を見て」
リンはロドニに言われて上を向くと、天井には大量の水晶が剥き出しになって、太陽のような輝きを放っていた。
「凄い……」
リンたちは水晶の輝きを見て、言葉を失っていた。
「ふむ、恐らく外からの光が屈折してここに集まってるんじゃろうな」
と、レイダは自分で自己解釈しながら言った。
「理屈だけだったら俺も同意見だよ。でもどこから光が入って来てるんだ? ここ三層だろ? 入るにしても場所が悪すぎる気がしてならないんだけど……」
リンは顎に指を添えて「うーむ」と唸りながら考えていた。
「来たよ」
ロドニは軽くひとこと言うと、目の前から体長二メートルくらいある牛の頭を持った巨体が出てきた。
グオオオオオオオッッッ!!!
「うっひょー! あの頭って、もしかしてミノタウロスか! 実物は初めてだけどでかいな。それにこうして間近で見るとかっけー!」
リンは初めてミノタウロスを見て興奮を隠しきれなかった。
「ちょ、関心に浸ってないで戦闘に集中してよ! このRPGオタク!」
「いてぇ!」
ロドニはミノタウロスに見とれてる無防備なリンを蹴り飛ばした。
そしてリンは「はいはい」と言いながら異空間から愛用の銃を取り出した。
「行くよ! リンはその場でミノタウロスの動きをできるだけ制限させるように射撃して! 私はその隙に懐に潜り込んで一気に叩くから!」
「はいはい、せっかくミノタウロス見られたのに殺る羽目になるのは少々名残惜しいけど、了解したよ」
リンはこっちに来ようとしているミノタウロスに向かって打ち出した。すると、ミノタウロスは近くにあった木をへし折り、銃弾を防いだ。
(おいおい、マジかよ……馬鹿力にも程があるぞ。だがこれなら――)
リンはミノタウロスの馬鹿力に冷や汗を垂らしつつも、異空間から別の銃弾を取り出し、装填した。
「これならどうだ!」
そう言いながら、リンはまた打ち出した。そしてミノタウロスはそれを防ぐ。
しかし、銃弾は木に着弾と同時に爆発した。
この銃弾は物体に接触による振動によって爆発を起こす銃弾だった。
グオオオオオオオオッッッッ!!!
ミノタウロスは爆発によって後方によろめいた。
「今だ! ロドニ!」
「だから! わかってるって!」
ロドニはミノタウロスが爆発で怯んでる隙に懐へ潜り、そのまま首をはね飛ばした。
「相変わらずエグいなぁ……」
リンはミノタウロスから吹き出す血渋きを呆然と見ながらボソッと呟いた。
「先に進むよ」
ロドニは平然を装いつつ奧に進もうとしたが、
「お、おう。だけどその前に、その帰り血拭いとけよ? まるで殺人鬼のようにしか見えないから」
とリンに言われ、自分が血塗れなことに気づいて慌てて拭いた。
「そ、そういえばリンのその銃の名前ってなんなの?」
ロドニは先程の失態を誤魔化すかのようにリンに聞いた。
「あーこれ? 特に決めてないんだよなあ。銃弾は流石に種類があるからそれぞれに番号をつけて見分けてるけど、例えばさっき最初に打った弾は特に効果がなく、銃弾の原型である“通常弾”、この前の模擬戦のときは“麻痺毒弾”で、最後に打ち出した弾が“起爆弾”で他には……どうした?」
リンが答えると、ロドニはつまらなそうな顔をしていた。
「いや、単純にネーミングセンスがないなぁって思っただけよ。ほら、男の子ってもう少し厨二臭い名前をつけるイメージない?なのに余りにも普通すぎてつまらない。私の期待を返して、出来れば現金で」
「聞かれて答えたのに、それは理不尽すぎるんだが!? てか、現金要求するのかよ! さては人の心を折りに来てるな!?」
リンはロドニに突っ込まずにはいられなかった。
「はいはい、冗談を真に受けないの、禿げるよ?」
「誰のせいですかねぇ!? 誰の!?」
リンは完全にロドニの掌で弄ばれていた。
「おい、お前ら、いつまでじゃれあっている? そろそろ行くぞ?」
ハルターは二人の茶番を見て呆れながら言った。
二人は違ったテンションで「「はーい」」と言って就いていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それにしてもこの階層は魔物が少ないね」
ロドニはつまらなそうにポツリと呟いた。
ミノタウロスの戦闘後から魔物を一体も見ていないのだ。といっても、一体だけでかなりの戦闘力があるため、並の冒険者なら嬉しいことであるが、ここにいる戦闘狂の三人(内一人神様)にとっては退屈なことだった。
「そういえば、お前らは何で魔法をあまり使わないんだ?」
ふとハルターは疑問に思った。
「あー、それは魔道具を装備してると普段より魔法の威力が強くてうっかり遺跡を破壊しかねないからですよ。使えても加減はまだ出来ないんですよね……あははは……」
と、ロドニはハルターの疑問をどんよりして返した。
それを見たハルターは少し慌てて、
「ま、まあ、そのうち出来るだろ? 殿下は呑み込みが早いし、コツを掴めばすぐ安定するだろ?」
と、何気ないフォローをした。
「そのうちねぇ……、またいつ神が襲ってくるかわからないこのご時世でそんな悠長なことは出来ないよ……」
ロドニは遠くを見るような目で返した。
ハルターのフォローは完全に無効となり、これ以上の慰めは返って傷つけると思ったため、何も言わなかった。
「あ、次の階層の階段だ」
リンたちは一回の戦闘で次の階層を見つけた。
「どうする二人とも? まだここではミノタウロスくらいしか相手してないけど、次行くか?」
リンは退屈であろうロドニとレイダに聞いた。
「私は次行こうかな、そっちの方が手応えありそうだし」
「ワシも同意見じゃな」
そして四人は次の階層に行くことになった。
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ハルマント遺跡:四層
「……」
「…………」
「…………あっつッッッ!!」
「ふむ、恐らくさっきの水晶の熱がそのままこの階層全体に広がっておるんじゃろうな」
リンはあまりの暑さに叫んで、レイダは冷静に自己解釈をしていた。
四層は完全に日本でいう猛暑日と変わらない環境で、辺りからは陽炎が出ている。
「暑い~。怠い~。溶ける~」
「これは流石に参るな……」
ロドニとハルターもこの暑さはお手上げらしい。
それを見ていたレイダは呆れて、
「だらしないのう、ちょいと待っとれ」
そう言いつつ、レイダは懐から三つほど腕輪を取りだし、なにかを付与して三人に渡した。
「これで楽にはなるじゃろ」
三人はレイダから渡された腕輪を身に付けると、さっきまでの暑さが無くなった。かといって、涼しいわけでもない。
レイダ曰く、熱を遮断する薄い膜を体全体を覆ってるらしい。
「ありがとうございます、レイダさん」
ロドニはペコリとレイダにお礼をした。
「気にするでない、ワシらは仲間なのじゃからな」
レイダは照れながら返した。
「そういえばここって、何が出るんだっけ?」
リンはハルターに聞いた。
「確か、ラミア、ゴーレム、デーモン、ケルベロスだな。どれも俺一人じゃ厳しい魔物ばっかりだよ、全く」
どうやら剣神でも、一体相手するのにかなり手こずるらしい。
「なら、手応えはありそうですね」
と、横から聞いていたロドニが嬉しそうに言った。
それを聞いたハルターはため息をついた。
十歳の子供がベテラン冒険者でも逃げ出しそうな相手に目をキラキラさせていれば、誰だって呆れる。
そして、一体子供らしさはどこに置いてきたのやらとハルターはさらに呆れながら思った。
「む? どうやらお出ましのようじゃな」
レイダが言うと、目の前にはデーモンとケルベロスが現れた。
グガアアアアアアッッッ!!!
グワアアアアアアッッッ!!!
「リンよ、ここはワシが片方を殺る」
「じゃあ、俺はケルベロスを殺るよ」
そう言いながら二人は目の前の魔物に突っ込んでいった。
「えー! 私の分は!?」
ロドニは楽しみを奪われた子供のように二人に叫んだ。
二人はロドニの悲痛の叫び無視をしてそのまま戦闘を開始した。
「気を付けろ!
ハルターが後ろから忠告してきた。
すると、ケルベロスはグガアアアアアアッッッ!!! と遠吠えしながら『火魔法』の“
(なっ!? おいおい、マジかよ!?)
リンは急なことに驚きつつ、地面から厚い壁を作り出し、それを防いだ。
「ちっ、お返しだ!」
そしてリンは、作り出した壁を無数の刃に変え、ケルベロスに打ち出した。
グガアアアアアアッッッ!!!
無数の刃を受けたケルベロスは痛みで暴れ、近くにあった岩をこっち飛ばしてきた。
リンは異空間から銃を取りだし、起爆弾を装填して、打ち出した。
飛んできた岩は無惨に砕け、リンは岩によって出来た視角を利用してケルベロスの懐に潜り込み、
(いっけぇ! “
ケルベロスの腹部を真っ二つに斬り裂いた。
グガアアアアアアッッッ!!!
ケルベロスは最後の叫びと共に倒れて絶命した。
「魔法使うのは驚きだったけど、呆気ないな。レイダはどうなったんだろう……」
そう言いながらレイダを探すと、
「ふぁ~、つまらんのう」
物凄く退屈そうに欠伸をしていた。
その横には氷付けになったデーモンの姿があった。
(おいおい、ここって猛暑日並の暑さなのにデーモン凍ってるとか、どんだけ威力あるんだよ……)
リンは内心引いていた。
そして四人は次々出てくる魔物を交互に倒しながら五層の階段にたどり着いた。
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