25話 夜の散歩

「―――どうしよう……外が騒がしくて寝付けない……」


 クラーケン討伐成功の祭りの騒ぎでリンは眠れなかった。


 起き上がって、となりのベッドを見ると、ロドニが眠っていたる。恐らく今日は力を使ったため、こんなにうるさくてもよく寝ていられるのだろう。


 正面のベッドにはレイダが腹を出しながら寝ている。床には布団が落ちていて、仕方ないと思い、レイダに布団をかけ直すと、口からは酒の臭いがした。見た目がロリなのに酒を飲むとか、ゲシュタルト崩壊するのではないか? とリンは思った。


 ロドニと逆方向のベッドはハルターが使っているが、姿はない。まだ、祭りを楽しんでいるのだろう。

 リンはハルターが知り合いがいるって言ってた事を思い出し、恐らくその人と酒を飲んでいるかもしれない。


 リンは寝れないため、少し外を出歩くことにした。ドアノブに手を掛けると、後ろから声が聞こえた。


「あれ……リン? どこにいくの……?」


 リンは声の聞こえた方に顔を向けると、そこには眠そうに目を擦っていたロドニがいた。どうやら起こしてしまったらしい。


「ちょっと寝れなくて、夜風に当たって来ようと思ってね」


 リンがそう言うと、ロドニは欠伸をしながら「私もついていくよ」と言って、二人で外に行くことになった。


 二人は宿を出て、人通りが少ない街道を歩いていた。

 人が少ないとはいえ、横に曲がれば、賑わいのある声がはっきり聞こえてくる。時間は日本で言うと二時くらいだろう。良い子は寝ている時間だ。

 普通なら迷惑で暴言の一つくらいは聞こえてきても可笑しくないのだが、祭りなら仕方がないのだろう。


 そんな中、二人は黙って歩いていた。

 少しして、ロドニが急に止まって口を開いた。


「ねえ、リン? お願いがあるんだけど、いい?」

「何?」

「手、繋がない?」


 ロドニは少し頬を赤くしながらリンに言った。


「え?」


 リンは急な発言に驚いて、みるみるうちに頬が赤くなっていった。


「ダメ、かな?」


 ロドニは前髪を人差し指でくるくると弄って、モジモジしながら言う。それを見たリンは心がきゅっと鷲掴みされるような感覚に襲われた。


「別に……構わないけど……」

 

 リンは照れ臭く返した。

 前世では、彼女歴ゼロ年のチェリーボーイのリンにとって、手を繋ぐという行為だけでも緊張してしまうのだ。

 リンの了承を得ると、ロドニはそっと横から手を握って来た。

 そして、こちらを微笑みながら見てきた。リンは少し緊張していたが、時間が経つに連れて馴れて行った。


 二人はまた歩き出した。少し歩くと、街道から広間に出た。

 そして広間でベンチを見つけて座った。


 すると、ロドニは夜空を見上げながら体をグッと伸ばした。


「なんか色々あって疲れたね」


 ロドニは急に爺臭いことを言い出した。それに便乗するかのように「そうだなぁ」と言いながら、リンも夜空を見上げていた。


 今は雲一つも見当たらないくらい澄んでおり、星々が輝いていた。ただ、ここは異世界なだけあって、肉眼で見ると、地球と違って星の位置が違っていた。


 リンは星を夜空を眺めながら、転生してからの出来事を思い返していた。

 今は神様に追われて、またいつ死にかけるのか、という恐怖に怯えながら生きている。つらいこともたくさんあった。

 でも、楽しいことや嬉しいだってあった。魔法を覚えたこと、学校に行って友達ができたこと、ロドニという婚約者が出来たこと。思い返せばいくらでも思い付く。それが今のリンにとっては、かけがえのない思い出なのだから。


 そして、リンは心に誓った、残り五人の転生者を探し出して、生き延びる。平和な人生を過ごすという未来のために。


 そんなことを思っていると、横から頬にツンっとされた。


「わあッ!?」


 リンは回想に浸りすぎていたせいで、かなり驚いた。

 そしてそのままバランスを崩して、ベンチから地べたに尻餅をついた。


 視線を上げると、実行犯が腹を抱えて笑っていた。


「あはははッ、アヒッ、相変わらずリンはオーバーリアクション過ぎるよ、あはははッ!」


 どうやらビックリしたときの反応が余程ツボに入ったらしい。


 リンは多少イラッと来たものの、久々の下りに笑みを溢した。神様騒動になってからは心にゆとりが持てず、こんな風に笑うことは無かった。だが、こうしてロドニが笑っていると、神様に会う前に戻った気分になる。

 そして気付けばリンも、便乗するかのようにクスクスと笑い出した。


 二人は暫く広間でじゃれあった。


 気がつけば、日の出が上がっていた。


 二人はスッキリした顔付きになり、広間を後にして、宿に戻ることにした。――が、


 もうじき宿ってところで、その前を陣取ってる者がいた。

 その者はこちらに多大なる威圧を放っていた。

 そして二人はその人物を見て冷や汗を掻いた。


「よお、おまえら? こんな時間までどこ行ってたんだ?」


 その者の正体はハルターだった。


「い、いやぁ……ちょっと眠れなくて、お外で散歩してまして……」


 リンは挙動不審になりながら言った。


「それで?」

「それだけです……」

「他に言うことは無いのか?」

「勝手に出歩いてすいません……」


 リンは勝手な行動をしたことについて謝罪した。ロドニも一拍遅れて頭を下げた。


「確かにおまえらは、強いかもしれない。だが、それ以前にまだ子供だ。夜中に子供が出歩いて心配しない親がいると思うか? 少しは親の気持ちを考えてくれ」


 ハルターは両手を組んで、二人を説教した。

 二人はシュンとして「すいませんでした」と、また謝った。


 ハルターは説教を終えると、それからはなにも言わずに宿に入っていった。

 そして二人も少ししてから宿に入っていった。

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