24話 クラーケン討伐

 クラーケン討伐当日。


 港には民衆が密集していた。なにせ、ギルドの討伐隊を全滅させたクラーケンの群れを十歳の子供が討伐するという噂を聞けば、誰だって気になる。その結果、この人集りである。

 いくら、剣神と呼ばれたハルターのお墨付きとはいえ、まだ子供。殆んどの者が疑念を持っていた。


 そんな中、ロドニは気にもせず、堂々と民衆の前を歩いた。ロドニ気づいた者達は直ぐ様道を開けていき、港の船の前に着くと、民衆の方に向いて、演説を始めた。


「私の名前はロドニ・レオンハート! クラーケンの群れと対峙する者だ! 私は確かにまだ子供だ! だがしかし! 私はここにいる剣神より遥かに強い! そして見ているがよい! この私が見事クラーケンを討伐するところを!」


 ロドニは王家パワーを久々に発揮していた。王家となると演説をよくやるのかは知らないが手慣れた感じだった。


(相変わらず、すげぇなぁ……)


 リンは感慨深く思った。


 すると、民衆からは少なからず光が見えた。恐らくハルターより強いに引かれたのだろう。

 剣神より強いとなれば、民衆の不安を少しは和らげられる。ロドニは恐らくそこを狙ったのだろう。

 相変わらず、悪知恵は今も健全らしい。


 少しして、準備完了の合図が聞こえた。

 そして、ロドニは民衆に見送られながら船に船上した。その後ろにはリンとレイダがいた。といっても、あくまで予備戦力として乗車しするわけだが。


 そして、船が出航するのと同時に今回の作戦の概要を聞かされた。

 それは、クラーケンの発生源付近まで船で行き、無人のカヌーを大量に放流させて、クラーケンを誘き寄せ、出てきた瞬間にロドニが“鎌鼬(ソニックブーム)”でクラーケンを斬殺するという作戦だった。


 暫くして、クラーケンの発生源付近にたどり着いた。

 乗員は直ぐ様カヌーを放流し始めた。


 少し経つと、海中から触手が飛び出してカヌーを叩き割った。見た感じ、かなりの威力であった。普通の人間ならば一撃を貰っただけで即死は間違いないだろう。

 その光景を見ていた乗員は体をビクビクさせていた。その反応から見て、かなり強力な化け物なのは明白だろう。

 しかしリン達から見れば、その動きは遅く、神と比べれば弱く感じた。


 ロドニは異空間から日本刀を二本取りだして、準備完了していた。そしてそのまま、ロドニは船から飛び降りた。乗員は驚きを露にして、ロドニの姿を追った。すると、乗員は目を見開いた。何故なら、ロドニが水上歩行をしていたからだ。


 ロドニはそれを気にも止めず、魔道具を使って音速を越えるスピードでクラーケンの群れに突撃して、“鎌鼬(ソニックブーム)”を放った。すると、クラーケンの触手は見事にバラバラになり、一拍置いて、クラーケンは暴れだした。ロドニはそのまま、無造作に来る触手を避けながら、一匹のクラーケンを真っ二つにした。

 すると今度は、下からクラーケンが浮上してきた。ロドニは出てきたクラーケンを踏み台にして宙返りしながら水上に着地した。ロドニは水上に薄いゴムのような膜を作り、それを利用して高く飛び上がった。そして、そのまま体の回転力を生かして、クラーケンを上から切り裂いた。

 ロドニは昨日、予め作って置いた魔道具で超音波を放ち、残りのクラーケンを確認した。大きな反応は残り三匹だ。しかし水上には確認できなかった。恐らく海中で様子を伺っているのだろう。どうやらクラーケンは、思ったよりもバカでは無いらしい。


「さて、どうしたものかね」


 ロドニは楽しそうに刀をカチャカチャしていた。

 それを見たリンは、


(いつから俺の婚約者は戦闘狂になったのだろうか……)


 と頭を抱えながら思った。

 船の乗員はというと、ロドニが冒険者が束になって勝てなかったクラーケンを瞬殺していたところを見たせいか、驚きの余り、完全に動きが制止していた。


 すると、ロドニが刀を納めて、こちらを向いてジェスチャーをしてきた。


(えーと、なになに? 手をジグザグに指下ろし? 何がしたいんだ?)


 リンがそう思っていると、急に空が暗くなった。そして、リンは今のジェスチャーの意味を悟った。リンは直ぐ様、船全体を『防御魔法』で覆った。


 空は次第にゴロゴロと音が鳴り始めた。

そしてロドニが手を上げながら、飛び上がった。

すると、空から巨大な雷が海に落ちた。

 これは、雷の高等魔法の“雷撃”であった。


 するとすぐに、クラーケンが海中からプカっと浮上してきた。“雷撃”を受けたせいか、見事にこんがり焼けていた。


 気づけば、ロドニは船に戻って来ていた。ロドニは戻って早々、体をグッと伸ばし、大きな欠伸をしていた。

どうやら全く手応えがなくて無くて退屈だったのだろう。

ロドニ曰く、最後はめんどくさくなって、“雷撃”を使ったらしい。


(こっちが一歩遅かったときの考慮をしてくれ!)


 リンは内心で叫びながら思った。


 こうして、クラーケン討伐は終わった。

 そして取り敢えず証拠として、一匹を持ち帰えることになった。


 港に帰るとロドニは盛大に祝われた。

 航路を妨害していたクラーケンを討伐したのだから、当たり前のことだ。

 ロドニは真面目を装いながら「私は当然の事をしたまでだ」と言っていたが、口元が軽くにやけていて、内心照れていた。


 そのまま今夜は祭りが行われた。近くからは貿易の話しやらが聞こえてきた。

クラーケンが居なくなったことによってできなかった事が再開できることになって、うれしそうだった。


 ロドニはというと、色々な人に囲まれてお祝辞を頂いていた。


 リンは祭りを楽しみながら食べ歩きをしていると、あることが聞こえた。内容はどうやら、ロドニの戦闘の話のことらしい。


「おいおい、それは、本当か? 海の上を歩いてクラーケンを簡単に切り裂いたってのは? とても信じられねぇよ……」

「いや、コレがマジなんだよ……俺も夢かと思っちまったよ。だが、現実だった。まるで鬼のように容赦なくクラーケンを切り裂いてたんだ……」

「鬼のようにって……。まるで『剣鬼』じゃないか……」

「確かに……」

「今度からはあの嬢ちゃん見たら『剣鬼』って呼ぶわ……」


(おいおい、それ本人の前で言ったらただでは済まないと思うぞ……)


 男達の話を聞いて、リンは心の中で思った。


 そして、ロドニは次第に『剣鬼』と呼ばれるようになった。

 ちなみに、本人が知るのは大分先のことである。


 

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