21話 模擬戦

「覚悟はいい、リン?」

「おう、いつでも来い!」


 殺気を撒き散らしながら睨み合う二人。


「では、始めじゃ!」


 レイダは開始の宣言した。


 それと同時に二人は一気に距離を詰めて魔法をぶつけ合った。


「「はああああああああ!!!」」


 ドカァーンッ!


 この後、周囲の木々が凪ぎ払われ、辺り一面がさら地となり、ロダン村の住人に見つかる前に、こっそり出る羽目となった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ことの始まりは前日の二人が個人で練習していたときに遡る。


 リンとロドニはこの一週間で自分のオリジナルの魔道具を作り、戦闘訓練をしていた。そんなある日、旅の再開をする前にレイダは「お主ら二人で模擬戦はどうじゃ?」と言ったことだった。


 二人は少し考えて、レイダの口車に乗った。


 二人は万全な状態にすると、少し離れて、向き合うように立った。


「いままでの私はずっと足手まといだった、でもそんな私は今日でおさらばよ! 模擬戦だからって手加減するつもりは無い! 本気でかかってきなさい!」


 ロドニはもう弱くはないと主張をするかのように声張り上げて言った。


「俺だってあのときよりももっと強くなった。どこからでもかかってこい!」


 リンはそう言いながら戦闘体勢に入った。


「覚悟はいい、リン?」

「おう、いつでも来い!」


 殺気を撒き散らしながら睨み合う二人


「では、始めじゃ!」


 二人は一気に距離を詰めて魔法をぶつけ合った。


「「はああああああああ!!!」」


 ドカァーンッ!


 二人は爆風を利用してその隙に異空間を展開し、手を突っ込んだ。


 リンはナイフのようなものが付いた“拳銃”を、ロドニは二本の“日本刀”を取り出した。


「へぇ、ロドニは随分と古風がある魔道具じゃないか」

「リンは随分と近代的なことで、見てるとまるで厨二病に目覚めたのかと思っちゃいそうだよ」

「なっ!?」


 ロドニの一言でリンは呆気にとられてしまった。どうやら厨二病は想定外だったらしい。


(だってカッコいいじゃん、銃って)


 そう思っていると一気にロドニが詰め寄って来た。そして逃げ場がなくなるように斬り込んだ。リンは一歩遅れつつ、片方をナイフの部分で受け流し、もう片方は体を反らしてギリギリのところで避けた。


「っと、危ない危ない」


 と、平然を装うかのように言った。


 内心はというと――、


(あっぶねぇ……あとほんの少し反応に遅れてたら婚約者に殺されてバッドエンドになるところだった……)


 リンは心臓をバクバクさせながら思った。それと同時にロドニはかなり強くなってると実感していた。


「へぇ、良く避けたね。でもあれくらい避けれないと、今度はほんとうに神様に殺されちゃうもんね」


 ロドニはとても余裕そうに言った。


(これ完全におちょくられちゃってるな……こちらもそろそろ反撃しますかね)


 そう言ってリンは素早く銃を抜き、ロドニの方へ向けて撃ち込んだ。銃弾は電気を帯びており、音速を越えてロドニの付近まで飛んでいった。しかしロドニはその銃弾を意図も容易く切り落とした。切り落とされた銃弾は一キロくらい先で爆発した。リンはその隙に銃弾を切り替えてまた撃ち出した。そしてロドニはそれを切り落とすと、今度は粉が出てきた。すると、ロドニは体が思うように動けなくなった。


「麻痺毒は効くんだな」


 リンはニヤリとしながら言った。


「随分と小癪なことをするね、リン」


 少し苦しそうにロドニは言った。


 しかし、リンの攻撃はこれだけでは済まなかった。リンはロドニへ火を発射させた。すると、勢い良く爆発を起こした。

 リンはロドニの回りに散った粉を利用して“粉塵爆発”を起こしたのだ。


 爆発してすぐに煙の中から何かが落ちてきた。それはロドニではなく〝人形〟だった。


 リンはやり損ねたと思いながら周囲を見渡した。


 すると、上から――、


「これで終わりだ!」


 そう言いながらロドニが刀から鎌鼬を放っていた。リンはそれをもろに喰らってしまった。


「油断大敵だよ、リン」


 ロドニは肩に刀を乗せて平然としていた。


(くそっ、まさかここまでやるようになっているなんて……)


 リンは苦痛で顔を歪めながら思った。


「こうなったら本気を出すしかないな」


 リンは自分を治癒で回復させながら言った。固有能力により、耐久性は優れているため、これくらいは大したことではなかった。

 そして懐から腕輪を取りだし、魔力を流し込んだ。


(余り使ってないけど、いけるかな? ……発動!【七豹変化】――“カラクリ”)


 リンが内心で呟くと、周囲から黒い靄が出始めた。

 それは次第に人の形を成したかと思えば、手が何本も生えてきて、まるで阿修羅を想像させるような形となった。


「リン? それなに?」


 ロドニは不思議そう聞いた。


「これは俺がイメージした最強の化身を具現化させたものだよ。まあ、これはそのひとつに過ぎないんだけどね。といっても元は俺のやっていたRPGに出て来たラスボスをモチーフにしてるけどな」


 それから化身の無数の手からいろんな形を成した武器が現れたり、中には魔法を打ち出そうとしている腕もあった。これはリンが新たに産み出した固有魔法(オリジナル)のひとつで、近づく者を許さない鉄壁の防御であり、無数の攻撃を打ち出せる矛を象ったものである。


「ある意味チートなことをするのね、リン」


 ロドニはめんどくさそうに言った。

 そして一目見て、相手するのが面倒なのはすぐにわかった。

 なぜならリンは「これはそのひとつ」と言った。つまり、これと似たようなものがまだ控えていることを意味する。

 更に、いちいち相手にしたらこちらのスタミナが切れて負けてしまうだろうと、ロドニは悟った。

 しかし、ここで戦わなければ、神との実戦で勝てる筈がないと思い、ロドニが突入しようとした。――が、


「お前ら! 何してやがる!」


 そう言いながら森からハルターが出てきた。


「何って、模擬戦ですよ?」


 ロドニーはあっさりと返した。


 すると、ハルターはこめかみに青筋を浮かべて、


「これのどこが模擬戦だ! バカ野郎! 辺りを見てみろ! 完全にさら地じゃねぇか!」


 と、怒り混じりで言った。


 二人は辺りを見渡すと、


「「あ、やべ……」」


 息ぴったりと呟いた。


「そういえば、レイダさんは?」


 ロドニは言い出しっぺをキョロキョロと探しながら言った。


(あれ? あの神様はどこへ言ったんだ?)


 そう思いながら、周辺を探すと、どこからか鼾声が聞こえてきた。

 まさかと思いつつ、聞こえた方角へ向かうと、木の上でだらしなく眠っていた。


 とりあえず起こそうとと思い、木を思いっきり蹴飛ばした。

 すると上から神様が落ちてきて、

「ぐうぇ」と、下品な声を上げて地面に落ちた。


「何するんじゃ!」


 レイダは怒りを露にして怒鳴ってきた。


「審判を起こしに来ただけですよ」


 と、リンは無表情で言った。


「やり方があるじゃろ! やり方が!」


 レイダは遂には涙目になって言った。

 するとハルターが、割り込んで来た。


「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ! 村の奴等がさっきの爆発音やらで騒ぎになってるんだよ! ここで見つかったら村から出にくくなるどころか指名手配されるかもしれないぞ!」


 ハルターは急かすように言った。


「それは不味いですね、さっさと逃げましょう!」


 ロドニは焦りながら言った。


 そして四人は一旦ロダン村に戻り、どさくさに紛れるかのように村を出た。


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