22話 父親
「あー疲れた……模擬戦とはいえ熱くなりすぎた……」
「あそこまで動くなんて久々だよ……」
二人はロダン村付近の森での模擬戦の反動で馬車の上で大の字になってぐったりしていた。
「全くだ。あと、なぜお前らは自重というものを知らんのだ。お陰で、急に出立するはめになったではないか」
ハルターはため息混じりで言った。
「まあ、と言ってもこやつらはまだ子供じゃ、ちょっとした悪戯じゃと思ってそこら辺で許してやらんかのう? それが大人の甲斐性ってもんじゃろ?」
レイダは馬車から風景を黄昏ながら言った。
「レベルが違うんだよ! レベルが! 広範囲をさら地にして悪戯程度で済むか! 一歩間違えたら国際問題に発展するぞ! 第一、あのとき監督役が何で呑気に寝てるんですかねぇ!?」
ハルターはレイダの適当さに突っ込まずには入られなかった。
「ワシは過去を振り返らない主義じゃ」
「いや、振り返ろや!」
自信満々にダメ人間ならぬ、ダメ神様発言のレイダに対してまた突っ込みを入れたハルター。それと同時に
(この駄神になにを言っても無駄だ……)
と思いながら、深いため息を付き、馬車の手綱を握った。
すると突然、ハルターはひとつ疑問に思ったことがあった。
「そう言えば、殿下は酔いは大丈夫なんですか?」
そう、ロドニの乗り物酔いだ。ロダン村から急いで出て来て暫く経っており、吐き気を催していなかったのだ。
ロドニは大の字のまま、
「あー、常時発動する癒し魔法の魔道具作ったから平気だよ。また乗り物酔いで旅が遅れることになるのはゴメンだからねぇ……」
と、萎びれた声で言った。
「へぇーそいつは良かったじゃないか、殿下」
ハルターは、なら心配することはないかと、思いつつ、
(コイツら何でもありかよ……)
と、同時に内心で思った。
そして、途中ぐだりながらも、二日掛けてリン達一行はカイナ港へたどり着いた。
日は軽く落ちかけていた。
カイナ港は此処らで最も漁業が盛んであり、他国への船もここで出ている。
「へぇ、ここがカイナ港か、海とかいつ以来だろう……」
「本当に久しぶりって感じ、前世はここまで苦労しなかったのにね」
二人は前世以来、海を見ていなかったため、懐かしみながら、辺りをキョロキョロしていた。
その光景を見ていたハルターは、
「お前らにも子供らしさは残ってたんだな」
顎に指を添えながら、にやけて言った。
「俺はまだ七歳の子供なんだけど……」
リンはジと目でみながらハルターに言い返した。
「昔からなんか大人びてるってほどでもないが、子供らしさってのが感じられなくてな、たまに俺が父親として見られてるのかも怪しく感じちまうときがあるくらいだ。たまには息子に甘えられて見たいもんだよ」
と苦笑いで頭をポリポリ掻きながら言った。
それと同時にリンは思った。
(そんなこと、息子の前で普通言うだろうか……でも、俺はハルターを父親として見ていただろうか?)
リンにとってのハルターは父親ではなくどちらかと言えば近所に良くいそうな叔父さん的な存在だったのかもしれない。
前世には叱りながらも時には優しい本当の父親がいた。そのせいか、ハルターを本当の父親として認識出来なかったかもしれない。リンは少しの間、黙り混んでしまった。
それに気づいたハルターは顔を覗き込みながら「大丈夫か?」と声を掛けて来たが、リンは作り笑いして「平気だよ」と答えた。
それをロドニがもどかしそうに見ていた。
「悪い、変な空気にさせちまったな。あ、夜遅いし、俺、宿取ってくるわ!」
そう言いながらハルターはその場を誤魔化すかのように宿を取りに行った。
(ごめん、父さん)
リンは肩を落として、気づいて上げられなかった罪悪感に打ちのめされていた。
少ししてハルターが宿を取り、戻って来た。
そして四人はそのまま宿に向かった。
リンが後ろでゆっくり歩いていると、ロドニが歩くスピードを遅くして、隣に並んで歩く形になった。
すると、ロドニはすっと笑顔を作り、顔を覗き込む形で話しかけてきた。
「やっぱり気にしてるの? 先生のことを?」
一瞬、先生って誰だ? と思ったが、実家に来たときにハルターの事をそう呼んでいたことを思い出した。
(今はそんなことを考えてる場合じゃない。大抵こういう時の笑顔は他人をからかうときだ。騙されないぞ)
そう思って見てみたが、そんな雰囲気は一切感じなかった。寧ろリンを安心させようとしていた。
(すまん、いつもの癖で疑ってしまった……)
リンは更に罪悪感に包まれた。
「そうだよ、精神年齢と前世の父さんの思い出のせいであまり父親として見れなくて……」
リンは視線を落としながら言った。
「それでリン、今はどう思っているの?」
「わからない」
「でも、血の繋がった実の父親なんでしょ?」
「
リンは俯いたまま曖昧に返した。そんなリンをロドニはそっと抱き寄せた。
「私も同じこと思ってたからあまり言えることじゃないけど、あんな風に見えても私達のために一生懸命になってくれてる。親としての責務を果たそうとしてる。なのに私達がそれに答えてあげないでどうするって感じだよ。いいじゃん、父親が二人いたって、どっちとも本当の父親なんだからさ、私は吹っ切れてるけど、リンはどうなの? まだ、父親として見れない?」
ロドニはリンを抱き寄せたまま安心させるかのように話した。
リンは俯きながら、
(俺はバカだな、俺にとっては、どっちとも俺に一生懸命に見てくれる大事な親なのに……。どうしてそんなこともわからないなんて……)
と思いながら拳を強く握りしめた。
「俺、変に深く考えすぎてたよ。前世も今の親は俺にとって大切な存在。なのに俺はそれを否定しようとしていた。何てバカなんだ……俺は……」
リンは申し訳なさそうな顔をしながら言って、気づけば瞳には涙が溜まり、声はかすれ掛けていた。
そんなリンを見たロドニは「そろそろ宿に行こ?」と優しく笑いながら言ってきた。
リンは涙を拭い、不器用な笑顔を作って「うん」と言いながら、ロドニについていった。
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