20話 策略
「ただいま……」
リンは部屋に戻ってフラフラしながらベッドに突っ伏した。
「お帰り、リン。随分とお疲れの様子だね」
そう言いながらロドニはリンの寝ているベッドの横に来てちょこんと座った。
「まあね、体力よりも精神が疲れたよ。そりより酔い大の方は丈夫か?」
リンは疲れながらもロドニを気にするかのように言った。
ロドニはそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「だいぶ良くはなったよ。明日からは特訓に出れるかな? ところで今日はどんな特訓したの?」
ロドニは明日から訓練に参加する身として、事前に知るために聞いた。
「今日は一日魔道具作りだよ」
リンは力なく答えた。
ロドニは予想外な回答にきょとんとしていた。
「魔道具、作り?」
リンは「これだよ」といいながらポケットからたくさんの指輪を出した。見た感じ、色とりどりの魔石付きの指輪だった。
「へぇー、随分と綺麗だね。でも指輪は婚約指輪として貰いたかったなぁ……」
そしてリンはしまったという顔になり、申し訳なさそうにしていた。持ち運びが便利なものとしてしか考えていなかったのである。
気づけばリンは盲点だったと言わんばかりの勢いで堕天使のようなポーズになっていた。
「婚約指輪は来るときに必ず渡します」
リンは土下座しながら言った。
ロドニはため息をついて、「わかったから顔を上げて」と言って許してくれた。
(ああ、なんて寛大な人なんだろう、俺の婚約者は……)
リンは今日の出来事をロドニに説明した。
魔道具作りもそうだが、魔法の認識を改めたりといった話だ。
知らなかったが、ロドニも全属性持ちだった。ただ、理屈が完全にわかるまで使わないようにしていたらしい。
そして、リンのから聞いた話でようやく辻褄が当てはまったようだった。
最後に明日からは魔道具の戦闘訓練があることを伝えた。もういい時間だったので、二人は寝ることにした。
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翌朝
「起きるのじゃ! バカ共!」
朝からテンションの高いレイダは、二人と毛布を剥ぎ取りながら、モーニングコール。
「うっ、寒っ!」
「夜中の六時、まだ寝る時間……」
寒さでくるまって起きないリンと初っぱなからボケを噛ますロドニを見たレイダは、額に青筋を浮かべて、せっかく気分良く起こしてやろうとしていたのにと言いたげな顔をしていた。
「いいから、起きろと、言っておるのじゃああああ!!!」
レイダはキレた。
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「いててっ」
「痛い……」
そう言いながら朝食を食べる二人。レイダの怒りを買い、頭に一撃を貰い、たん瘤が出来ていた。
「自業自得じゃ、全く」
そう言って勢いに任せて食べ物を口に放り込むレイダ。
こういった一面を見ると、なぜ協会の人達はこんな輩を崇拝しているのだろうか? という疑問が頭を過った。
朝食を食べ終わると、三人は外に出た。
「では、魔道具の使い方をじゃが、殆どは昨日言った通りじゃ。道具に自分の使う魔法を転写し、使用時に相手に魔法名という初期情報を与えないで攻撃することが出来る代物じゃ。それと、昨日言い忘れとったのじゃが、魔道具の最大のメリットは、転写していれば、他人の魔法も使用できるということじゃ。そうすることによって自分の弱点をカバーすることが出来るのじゃ」
「随分と応用が利くんですね」
ロドニは感慨深く言った。
「そうしたら、沢山魔法を所持してる方が有利じゃないのか? 向こうは長年生きているんだから、俺らが知らない魔法それなりに所持してると思うんだが?」
リンは難しい顔をしながら聞いた。
「確かに、神々(わしら)はお前たちの知らない魔法をたくさん所持しておる」
レイダは頷くようにいった。
「だったら――」とリンが言いかけたところで、レイダは続けた。
「しかし、お前たちならそれを打破することは可能性はゼロじゃないんじゃよ」
それを聞いてリンはキョトンとしていた。
「前にも言ったかも知れんが、ワシらはお主たちの世界には手が出せないのじゃ。何が言いたいかわかるかのう?」
二人は少し考えてハッ! と思い付いたかのように顔を上げた。
「つまり、前世の世界に手は出せないからその知識を生かせば勝機はあると言いたいんですね?」
レイダの問いにロドニが答えた。
「そういうことじゃ、お前たちの異世界(こちら)側に存在しない知識を生かせば、勝機は見えてくるというわけじゃ」
(なるほど、だから俺たちを転生させたって訳か)
リンたちはようやく、なぜ自分達なのかという疑問に終止符を打てた。
確かにいくら能力があっても、神の干渉が出来る世界から連れてきても意味がなくなるということか。
「話しは終わったことじゃし、そろそろ魔道具を使った実装訓練をやるぞ?」
「「はい!」」
二人はレイダに魔道具を使った訓練を一週間朝から夜まで続けたのであった。
そしてカイナ港までの付き添いで来ていたハルターは完全なる空気と化していた。
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