19話 認識の訂正

 リン達は王都で馬車を借り、カイナ港へ向かった――が、途中にある《ロダン村》の宿屋に足を運んでいた。急いでいるのに村に立ち寄ったのには理由があった。それは……


「うげぇ……気持ち悪い……」

「大丈夫か、ロドニ? 」

「大丈夫なら今寝込んでない……まさか馬車で乗り物酔いをするなんて……」


 そう、ロドニが乗り物酔いを起こしたのだ。


 乗り物酔いは病気というより体質的な物なので治癒魔法が発動しないのだ。変わりに癒し魔法でリラックスさせて楽にさせたが、すぐにまた酔いが来てダウンの繰り返しだった。

 繰り返すうちに効果が薄れて行くのを防ぐために、今こうして宿を取って休んでいるのである。


「レイダさん、ごめんなさい。私ばっかり足を引っ張って……」


 目が虚ろな状態で申し訳なさそうに言った。


「気にすることではない、人は弱き生き物じゃからのう、それくらいは想定済みじゃ」


 と、適当にレイダは返した。


 等の本人はフォローしてるつもりらしいが正直、二人の心にグサッ来た。それと同時に脳裏に過った。

 導きの神に為す術が無かったときの記憶が。二人はこれから先、また他の神に襲われることになる。

 レイダは強い。しかしずっと居てくれる訳じゃない。いつかは自立していかなくてはならないのだ。

 そのためにはレイダを通して強くならないといけないのだ。二人は旅立つときにそう決めた。


 そんなことを考えていると、レイダがじじ臭いポーズでこっちに喋りかけてきた。


「せっかく宿に泊まったんじゃし、リンよ、明日から特訓をやるぞ? ロド二もは酔いが治ってから特訓するからよろしくのう。因みに二人とも拒否権はないぞ?」


 レイダは最後に念を押すかのように言った。


「いえ、構いません。むしろろお願いします。今の俺達のままだと、ただの邪魔者にしかなりませんから。それだけは嫌なんです。ただの足手まといには成りたくはないんです。だから、レイダさん、俺達を鍛えてください!」


 余りにも必死なリンを見て、レイダはため息をついて


「言われなくともわかっておるのじゃ、最低でも、ワシと同等に戦えるくらいにはなって貰うつもりじゃ」


 ちょっと最低基準おかしくね? と思いつつもリンは頭を下げて礼を言った。


「今後ともよろしくお願いします」


「うむ、よろしくじゃ!」


 レイダは機嫌よく返事をした。


 今日はもう遅いので、特訓は明日からとなった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すぐ特訓と言いたいところじゃが、先ずは知識を優先する」


 朝早く起きた二人は宿屋から少し離れた森の広く空いてる場所にいた。流石に神様との特訓となると、表じゃ見せられるものではないからだ。


「はい、レイダさん」


 近くにあった木を斬り倒して、丸太の上に座ったリンは返事をした。


「とはいっても、最初はお前達の誤った知識を正すところから始めねばならない」

「どういう事ですか?」


 リンは小首をかしげながら聞いた。


「正すというのは、お主達が使う魔法そのものじゃよ。あれは属性魔法は個人の適正によって誤差はあるが、決して使えない訳ではないのじゃ。ただ、原理を知らないだけで基本は皆つかえるんじゃよ。原理を理解して魔法を組めば誰でも使える代物なんじゃ。じゃが、魔法の便利さ故に、その過程を知らずに使う輩が増えてしまったのじゃよ。全く嘆かわしいことじゃ」


(確かに魔法は便利だし、そこまで深く考えなくても詠唱すれば使えるしな……って、あれ? じゃあなんで理屈を理解してないのに魔法が使えるんだ?)


 リンは疑問に思ったことをレイダに聞いてみた。


「詠唱というのは、魔法の威力を上げるためにするものなんじゃよ、それとさっき魔法の適正によって誤差はあると言ったじゃろ? 元々は不発だった魔法が詠唱により強化され、尚且つ、適正があれば、例え元が不発でもその適正により発動するのじゃよ。それを出来たと勘違いして、今の魔法があるのじゃ」


(理屈を知らないと基本的には出来ないが、適正があれば例え不発するはずの魔法も発動するということか)


「それともう一つ伝えなければならんことがある。それは魔道具のことじゃ」


「魔道具、ですか?」


(何でここで魔道具の話が出てくんだ?)


 リンが疑問に思った。


「それは神々の戦いに置いて、魔法名を口で言うということは、相手からしたら対策してくれと言ってるのと同じでな、基本的には魔道具に自分の使う魔法を転写させておるんじゃよ。そして使うときは転写した魔法をイメージして、魔道具に魔力を注ぐのじゃ。こんな風にのう」


 レイダはそう言うと、指に嵌めていた指輪から大量の水の塊を出現させた。そしてそのまま森へと放った。水の塊は木々を凪ぎはらって、ある程度行ったところで大爆発した。爆発した箇所を見てみると半径二十メートルのクレーターが出来ていた。


「試し打ちしたがちょっと地形かわっちまったのう……」


(いや、ちょっとじゃないですよ!? かなりですよ!? かなり!)


「まあ、気を取り直して話の続きをするのじゃ」


(あれ? 今、都合の悪いこと流さなかったか? この神様は?)


「神の戦いに置いてほんの一瞬の出来事で勝負が決まることが殆どじゃ、魔法名を言うという致命的なことはせず魔道具を今のうちに使えるようにすることこそが、今のお前の特訓じゃよ。といっても先ずは魔道具を作るところからじゃがな」


 そう言って今日は特訓するつもりが魔道具作りで一日が潰れました。

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