18話 旅立ちの日

 導きの神襲撃事件から三日が過ぎた。


 神の襲撃があったにも関わらず、王都は何事もなかったかのように賑わっていた。理由は簡単だ。陛下が箝口令を引いたからである。

 もし、神が存在し、人を襲うと知れば、民衆に不安を与えてしまい、なにより神を信仰してる協会が大打撃になってしまうからだ。


そして、襲われたら本人達は今、王都の南門の前にいた。


「まさかこんな若いのに旅に出ちまうとはな、お前ってやつはよ」

「痛いです、父さん」


 ハルター自分の感情を誤魔化すためにリンの頭を乱暴に撫でた。

 やられてるリンはとても嫌そうな顔をしているが。

 ハルターはリンと一方的なじゃれ合いを止めると、レイダに視線を向けた。


「それでレイダだっけか? 最初はどこに向かうか決めてんのか?」


「勿論じゃ、ここを南に下って海を渡って少し歩いて2日のところにあるサバナ地帯にいる民族の若い長がこやつらと同じ境遇の可能性があるのじゃ、ワシらはそこへ向かおう思っておる」


 と、ハルターの質問にレイダは淡々と答えた。


「海を渡るということは、先ずは《カイナ港》を目指すとになるのか?」

「そういうことになるじゃろうな」


 すると、ハルターは少し考えて、


「よし、港まで俺も就いていこう!」


(……はい?)


「就いてくるんですか?」


 リンはちょっとめんどくさそうに言った。

 感動の別れかと思っていたのについてくるとか空気が……。


「就いて来ちゃ不味いのか?」

「不味くはないですけど……」

「ならいいじゃねぇか、それにあそこには俺の知り合いがいる。もしかしたら船を出してくれるかもしれないしな」


(あ、マジ? それなら来て欲しいわ、楽だし)


「なら、お願いします」


 リンはハルターの言葉を聞いて即答した。


「お前、変わり身早いな」

「気のせいです」


 ハルターは少し引き釣った顔をしながら言って、リンはそれを誤魔化した。


「そうときまればっと、アルシャ! 異空間から荷物を出してくれ」

「はいはい、アナタ」


 どこまでかは知らないが最初から就いていくつもりだったらしい。

 だったら最初から言えばいいのにと思ったが、ハルターはそういうことに関しては不器用なことを思い出すと、少々呆れて、深いため息をついた。


「じゃあ、そろそろ出発するか」


 と、ハルターは言った。


 何でコイツが仕切ってるんだって思いながら「そうですね」と軽く呟き、アルシャの方へ向いた。


「母さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい、お母さんはリンを信じてますから、必ず生きて……ここに戻ってくるって……ことを……あらあら、出迎えくらい泣かないって決めてましたのに……」


 アルシャはリンに別れを告げながら瞳からは涙がポロポロと流れ出していた。


「はい、必ず終わらせて生きて帰ってきます」


 リンは迷いなく答えた。それを見たアルシャは安心したかのように微笑んだ。


 そう言ってリン達一行はアルシャに見送られながら、王都を旅立った。

 最初の目的地の港町のカイナ港を目指して。

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