第16話 転生の理由
『死ネ』
リンは死を覚悟した。
カキンッ!
(あれ? 今の音は?)
殺されるはずの自分が生きてることに不思議を感じて顔を表にあげると、目の前に人影が見えた。
死を覚悟していたせいか、まだ今の状況が理解できなかった。
『キサマ、ナニモノダ?』
執行を邪魔されたせいか導きの神は怒りの声混じりで言った。
「ワシか? ワシはここにいる奴を転生させた者じゃが?」
喋り方は老人臭いが声的にどうやら女性らしい。見た目はスラッとしていて、年齢は恐らく一五歳くらいだろう。腰まで伸びる水色の髪、そして人とは思えない透き通る琥珀のような瞳、見た瞬間に惚れてしまいそうな可愛さだった。
そしてリンは彼女の思いもよらぬ発言でようやく思考が復帰した。
「あなたが……ですか?」
「そうじゃ、手紙読んだのじゃろ?」
「はい」
「話は後程するが、取り敢えずそこの小娘の治療が先じゃ。お主、あやつを二分くらい足止めは出来るか?」
リンはゆっくり頷いた。
「お主は強い子じゃ、そのうち我ら神をも越えるじゃろう、では、頼むぞ」
「はい!」
そしてリンは導きの神と対面した。守れなかった大切な人を助けるために。
『オマエノヨウナ脆弱ナ人間ゴトキガワレニ刃向カウトハ、ナカナカニ愉快ナ話ダ』
リンは導きの神の挑発をスルーして戦闘体制に入った。
「“瞬歩”!“鎌鼬(ソニックブーム)”!」
リンは一気に先制攻撃を仕掛けた。
『ホウ? ソノ年デソコマデ動ルトハ、ナカナカデハナイカ、ダガ足リヌ』
そう言うと、導きの神はリンよりもさらに速く動き、リンの後ろに周り槍を突いた。
リンはそれになんとか反応し、頬を掠りながらもなんとか避けた。
だが、導きの神は休む暇を与えないように連続で槍を突いた。リンは避けるのに必死で魔法を展開できず、掠り傷が増える一方であった。でも、リンはそれでよかった。
目的はただの足止め、なら戦いを装いつつ時間を稼げばいい。それだけなのだから。
そう思っていたが、急に体の動きが鈍くなった。それどころか視界が揺らいでいくのを感じた。
気がつけば自分の体が動かなくなっていた。
(あれ? どうなっているんだ……体が思うように……)
『ヨウヤク毒ガ回ってキタヨウダナ』
導きの神はニヤリとしながら言った。
(クソッ最初からこれが狙いか……まんまと嵌められたってのかよ! ちくしょうが!)
『ヨク粘ッタガ、終ワリダ、人ノ子ヨ』
導きの神は槍を構えた。しかし急に表情を変え、リンから遠ざかった。そして目の前には剣が地面に突き刺さっていた。
どうやら導きの神はこれに察知して避けたらしい。
「誰が終わりじゃと?」
麻痺した体をなんとか動かして後ろを向くと、ロドニの手当てを終えたリンを転生させた者がいた。
『マタオマエカ、ナゼ邪魔ヲスル』
導きの神は睨みながら言った。
「こやつはワシにとって貴重な存在じゃ、そう易々と殺されたらたまったもんじゃないわい」
そう言いながらリンの前に瞬間移動するかのように来た。
『オマエハナニモノダ?』
導きの神は警戒しながら聞いた。
「まさか、ワシを知らない奴がおるとわのう? ならきくがよい! ワシの名は水の神レイダじゃ!」
レイダは自信満々に自ら明かした。
(ヤバいこの人痛い人だ! てか、人じゃなくて神様か。それよりも場の空気読んでくれ)
『ソウカ、キサマガレイダカ、オマエハ三〇〇〇年前ニ死ンダハズダ。ナゼ生キテイル?』
「それに答える義務はないのう、どのみちお主はここで口封じで死ぬのじゃからな」
そういいながらニタリと不適切な笑みを浮かべた。
リンはそれを見てゾッとした。そして思った。レイダは導きの神のより強い、と。
『ヌカセ!』
レイダの挑発に怒りを丸出しにした導きの神は槍を前に突き出しながら突進してきた。
するとレイダは水を作り出し一瞬で短剣の形になった。そして、目の前に来た槍を意図も容易く受け流し、その力を利用して導きの神の背中を切り裂いた。
『グハッ!』
導きの神はまさかのカウンターに驚いてるうちにレイダに今度は両足の筋を切断された。
『グヌヌッ!何故ダ……全ク動キガ見エナイダト……』
リンのときはあれほど勝ち誇ったような顔をしていたのにも関わらず、今となっては恐怖に変わっていた。
正直リンもレイダの動きは見えていなかった。
「教える義務はないと言ったじゃろ? そろそろ終いにするとしようかのう」
『マ、待ッテクレ!』
「断る」
『クソオオオオ!!!』
ザシュ!
導きの神はレイダによって首を切り落とされ絶命した。
リンは目の前の光景を呆然として見ていた。
自分があんなにも苦労して、手も足も出なかった相手を瞬殺してしまったのだから。
「お主、平気か?」
唐突に声をかけられて現実に引き戻された。
「あ、はい……問題ありません」
リンはそう言いながら自分に掛けられた麻痺を回復させた。
「にしてもスゴいのう」
「え? 何がですか?」
リンはただ一方的にやられていたので何がスゴいのかわからなった。
「お主の体の事じゃよ、ただの人間ならあの槍を掠めただけで死に至る筈なんじゃよ、それに普通の神でさえ一発で動けなくなる代物の筈なんじゃが、お主は何発か食らってようやくという感じじゃった。まあ、お主の常識はずれを知ったからこそワシは転生させたんじゃがな」
どうやら転生する前から常識はずれだったらしい。だけど、もしそうだとしても、なぜ前世ではなにもなかったんだろうか。
リンは疑問に思ってレイダに聞いた。
「そもそもお主の前世の世界には魔力が存在しないのじゃよ。だからなにも起こらなかったんじゃ。しかも行ったら一方通行で帰れなくなるから、ワシらはあまり干渉はできんのじゃ」
(あれ? じゃあなんで俺は転生できたんだ?)
リンは思ったことをレイダに聞いた。
「確かにワシらがそのまま出入りするのであれば一方通行になる。しかし魔石に魔力を温存させ、お主の世界に送れば話は別じゃ。さっき入るのは一方通行といった理由じゃが、こちらの世界では魔力が存在しておるから魔法が使える。しかし向こうにいけば使えない。それはワシらが魔力を温存できないからなんじゃよ。そこで魔力を蓄積させた魔石と転生魔法陣を使い、お主を転生させたというわけじゃよ」
(えーとつまり、前いた世界は魔力が存在しないから帰るときに使う魔力が存在しないから帰れない。そこで魔力を温存させた魔石と転生の魔方陣を利用して俺を転生させたということになるのか)
「理屈はわかりました。ですが、なんで俺は狙われていたんですか?」
それはリンにとって一番大事な疑問であった。
そのせいでさっき死にかけたのだから当然である。
「それはお主がこの世を変える重要なファクターだからじゃ」
「それはどういうことですか?」
「今は言えないのじゃ、だが少なくともお主を狙った連中にとっては不都合な出来事なのじゃ。それにあの転生のやり方はワシしか知らんのじゃ。ちなみにお主を除いて“あと六人”の転生者がおるのじゃ。お主とそこの小娘がそうじゃ。元々この世界に転生など存在しない。それをワシの力でお主らを転生させたのじゃ。そして、やり方を独占して表に出回ってないが故に、神々はそれを《非公式の異世界転生》と呼ぶのじゃ。今はこれだけしか言えないことを申し訳ないと思う。許してほしい、不躾がましいのは承知の上でこのワシに協力してほしい……」
レイダは苦悩な表情をしていた。ただ、今の表情をみたら少なくとも悪用するつもりは無いように見えた。寧ろ何かを変えようと必死さまで伝わってきた。
「わかりました。では、その時が来たら教えて下さい。俺は転生に応じて、助けられた身です。出来る限り協力しましょう」
「すまぬ、そしてありがとう。ワシの身勝手な行動を許してくれて」
とても申し訳無さそうにレイダは言った。
こうしてリンはレイダと手を取り合うことになった。
暫くしてロドニが起きた。そして事の事情を説明したら「なんで私の相談無しに勝手に決めるの!?」と怒鳴られた。
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