魔女の約束

いおリンゴ

第1話 まえがきと少年と少女の出会い

「ようこそ、(ラッキーマジック 原宿店)へ

ここでは様々な魔道具、杖、乗り物や薬品、武器、弾薬まで取り揃えている。云わば"雑貨屋"かな、ん?原宿にそんなお店はないだって?当たり前だよ。今この物語を読んでいる君たちの世界とこっちの世界は、ちょいと違うのさ。なに大したことは無い、魔女が存在しているのと、こっちは今は19世紀ってところ以外はそっちと何も変わらない。もっとも今こうして僕が喋っているのはまえがきに過ぎないがね。そうだ、まだ自己紹介をしていなかった。僕の名前はミツル、この店のオーナーのリシェルさんの下で働いている。ひょんな事からメリルたちと出会うけどそれはまたの機会に、この物語を書いたきっかけについては作者曰くが元になっているらしい。さてそろそろ二人の少年少女の出会いから話を始めるとしよう。僕のまえがきはこの辺で、」


19世紀のとある帝国、この日は3日続いている大雨で道路が川のように氾濫していた、雨水と泥で溢れかえったなかを1人の少年が鳥のように7番街の坂を駆け抜ける。

6月の梅雨空がコンクリートのように冷たく街を覆い、植木鉢を家の中へ入れたり、馬や牛を動物小屋へ押し込んだりしている人々の姿があった。

また金持ちの紳士や婦人は車に乗ってお城へ向かっていた。そんな人々の行き交う商店街でお使いから帰路につくメリル・ワイバーは、八百屋で買った、かぼちゃ、にんじん、玉ねぎ、そして肉屋で購入した鶏肉の袋を両手いっぱいに抱えて、

紺色のレインコートを羽織って袋を覆うように雨水から守る。小さな体の素早い足取りで、1秒でも早く家に着きたくてたまらなかった。足元ばかりを見ていたメリルは、ふと我に返って目の前の左の機織り屋と仕立て屋の間の路地に、大きな帽子をかぶった赤毛の少女が雨に濡れたまま座り込んでいるのを見つける。そのまま通り過ぎようと思ったが、母親が寝る前に読んでくれた本の中で”困った人を助ける”ことを毎晩のように教えられていたので、買い物袋を自分の服の中に入れて着ていたレインコートを少女に差し出した。「おカゼ、ひいちゃうよ。」座ったままうつむいていた少女が顔を上げるとメリルは少々驚いた。その少女は髪だけでなく瞳も赤かったのである。種族によって多少の違いはあれど赤い瞳の種族など、メリルは聞いたことも見たこともなかった。少女は震えた唇で言った。

「ま、迷子になっちゃっておウチに帰れないの。」メリルは差し出したままのレインコートを少女の肩に掛け「僕、ちょっとだけ街の事詳しいよ。おウチまで連れてってあげる。」メリルがそっと手を差し出すと少女は、じっと目を見つめて白くて細い手を伸ばしてメリルの手を握る。体の熱がそのまま指先にまで行き渡っているかのようにメリルの手は暖かかった。メリルが住所を訪ねて家まで送ることにした。「私の名前、エリー」少女がそう名乗るとメリルも笑顔で自己紹介した。15分ほど曲がりくねった道を歩くと、エリーは「ここの先がウチだから」と城壁に囲まれた城門を指す。あまりの町の大きさに目が釘付けになっているメリルの不意を突き、頬にキスをして着ていたレインコートをメリルに手渡し「ありがとう。また明日ここの門で会いましょう」そう告げて笑顔で城門の中へと消えて行った。メリルはエリーの姿が見えなくなるまで手を振り空を見上げると、なんと3日続いた雨空に雲が引けて久々にお日様が顔をのぞかせた。陽の光が街全体を包み込み、家やお店から老若男女が窓や扉から空を見上げると、不思議と元気が街の人々に訪れてメリルも自然と笑顔になり小躍りしながら帰宅した。

翌日、朝食のパンとシチューを食べているとメリルの父親は、既に早朝から仕事に出かけていた。「お父さんはもう出かけたの?」奥で食器を洗う母親が遠くに叫ぶようにして「お父さんはお仕事で朝からいませんよ。」メリルの父親は魔女を専門とする騎馬隊の中佐で、常に街に出入りする魔女たちの取り締まりと、

不法移民の魔女や殺人などでの捜査を行っていた。近年では魔女による強盗、

殺人などの事件が多発しており、人間たちと魔女の間で緊張状態が続いていた。

早々に朝食を済ませ上着を取り、家を飛び出すと中から母が「夕方には帰ってくるんですよー」と叫ぶ声がして、メリルは元気よく「わかったー!」と叫びながら城門へひた走る。城門が見えてくると遠くから、昨日とはまるで違ってすっかり元気を取り戻したエリーが大きくてを振ってメリルを呼ぶ。メリルが今日はどこに行くのか尋ねると、「メアリーおばさんの庭の近くの花畑で花摘み」メリルは若干気恥しかったが、エリーに連れられて花摘みを手伝った。こうしてメリルはほぼ毎日のようにエリーと外で会って遊んでいた。

ある日の夕方、日の入り切るギリギリでメリルの父が、クタクタの体を引きずって帰ってきた。上着をコート掛けにかけてラッパ銃を机に置いて、メリルの向かい側のソファに座る。「最近よく出かけてるね。誰かと遊んでいるのかい?」メリルは父に尋ねられた時少し考えて「うん、最近仲良くなった女の子」

父はふーんっと言った態度で「普通の子なら良いのだがね、近頃かってに人間の町に魔女が入り込んでいるからちょっと心配でね。別にその子のことを疑っている訳じゃない」

メリルは胸を張って「大丈夫、エリーは魔女なんかじゃない」一瞬しまったと思ったが、名前を言ってしまった以上仕方がない。この時メリルはエリーが魔女だとは知らなかったのである。


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魔女の約束 いおリンゴ @iori0318

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