第4話 ジャネット&セイテンタイセイ

 三十年近く生きれば、ソウルと人間との生き方がわかってくるってもんだ。

 他と比べて、うちの主人とはとにかく相性がいい。過言じゃあないぜ。


 ま、ひとつ暗黙の了解があるんだけどよ……。



 聖グラッシミリ学園のすぐ近く、そこに「幸せ食堂」はある。

「いっただっきまぁーーす!」

 ジャネットはオススメ幸せチャーハンにがっつく。

 しっかり三十回噛んでいるな。

 ったく、ソウルの俺達には食欲はないが、見てるだけでも満足感が得られるぜ。


「そんなに美味しそうに食べてもらえると、こっちも調理したかいがあるよお」

 そう言うのはラッキーさん。この店の店主だ。


 ラッキーさんのソウルの名はオルトロス。ちまたで流行りのソウル同士が気軽に話せるツール「ソウルトーク」というアプリでも何度か話したが、俺に似て中々の好漢だったぜ。

 まぁ「漢」ってのは……問題なんだよな。


 本来、ソウルは宿主の性別に応じて、性格などが形成されていく。

 宿主にとって最高のアドバイザーとなれる存在に近づくらしいんだ。


 俺は熱血漢!ジャネットも熱血……漢ではない。

 冒頭で言った暗黙の了解というのは、そういうことだ。

 性別魂症と名付けられている。


 普段の行動からは気付かないかも知れないが

 、この二人は自分とソウルとの性別の違いという点で共感し、親友として認めあってる。

 そういうのって素敵だなと思うんだ。



 ジャネットが最後の一口を頬張る。

 後はごちそうさまをして、お代を払って、アパートに着いて早めの就寝。俺とジャネットとで決めたルーチンだ。

「そういえばジャネットぉ……一つ言い忘れてたんだけどねえ」



「わたし、結婚するんだあ」




 ヤケ酒。友の門出を祝っての熱燗。

「おい、ジャネット……良いことじゃねぇかよ。お相手、警察官だって?ラッキーもやる時はやるな」

「そうさ!めでたい!だから飲む!ハッハー最高の日じゃないか!」

 駄目だ変なテンションになってやがる。

 なんでコンビニで熱燗を取り扱ってんだよ。


 おそらく、相当ショックだったんだろうな。

 止めいる隙もなかったぜ……。


「見ろよゴクウ、月が綺麗だ。」

 ゴクウってのは俺の昔の愛称。

 小さい頃に決めたモノで、最近は使ってなかったんだがな。

「……そんな言葉を投げ掛けられる相手がいればな。」

 窓から覗く月は三日月。大きく削られた形が何故か胸に響く。


「いるさ、ジャネット。ソイツもこの月を見てお前に語りかけてんだよ。」

「おおぅロマンチック、国語の教師かお前は。」

 いや、特に決め台詞的に言ったつもりはなかったんだがな。


「なんかさ、実はな。満足してるんだ。今」

「そうなのか?てか、どういう意味だ?」

 勿体ぶるような言葉が、らしくなく気になってしまう。


「私はな、いいんだ。お前さえいれば」

 いけないぜジャネットそんなこと口にしちゃあ。

「昔からずっとずっと側にいてくれる、お前。ゴクウ、お前が好きさ。だから、やっぱり今はもう何もいらないや。」


 へへ、言っちまったか。じゃあ答えてやるよ。

「まぁな……俺もサ。だけどこれはいけないことなんだぜ、わかるだろ?」

 この手の話はうんと昔から禁止されている。

 性別魂症の患者は一万人に一人。

 大抵がお互いを補いあいすぎて、恋に落ちる。美しく、文芸作品のタネとして扱われてきたが、非道徳的として発禁になったものも多い。


「ゴメンゴメン!あー、酔ってたんだな、アタシ!悪い忘れてくれ!」


 照れ隠しをして、らしくないジャネットがいとおしく思える。

 双子のきょうだいとして育ってきた感覚とは違うんだろうな。

 いつも側にいてくれて、いつも必要としあってきた。


「ああ、忘れておくさ。明日も出勤あるぜ。すぐ寝れそうだろ?」

「……うん。」



 次の日、ジャネットはいつも通り出勤し、幸せ食堂へ行き、ルーチンを守った。

 明日も明後日も、同じように過ごしていくんだろうな。


 でも、一つ日課が増えた。

 月見酒。

 例え月が見えなくても、ジャネットは飲む。

 欠けた月を補うように……。




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