放課後 屋上にて
俺は、学園の屋上兼ヘリポートで独り煙草を吸っていた。本来は有事の際以外は教師も立ち入り禁止になっているが、学園長に頼んで鍵を借りた。
「ふぅ~…」
タバコの煙とともに口から魂が抜けるような感覚。不気味な表現だが、俺にとって一番リラックスができる状態だった。
「隊長殿…」
声をかけられた方を見ると、落ち込んだ様子の明美だった。
「…吸う?」
箱から一本出して差し出すと、少し躊躇いながらもいただきますと受け取り、火をつけた。
「…嫌われましたかねぇ、俺」
フェンスにもたれながらぼやくと、明美は驚いた表情をした。
「気にしてたんですね…、意外です」
少々聞き捨てならなかったが、聞かなかったふりをして「まぁ」と返す。
「言い過ぎたって自覚はありますよ」
あの時の俺は少々気が立っていた。正直、アリスのあの発言に少しイラっとしたのは認めるが、アレは完全に八つ当たりだった。
「…俺と同じなんだよな、あいつらも」
その言葉は、意図して出たものではなくてふとしたものだった。それを聞いた明美は、さらに悲しい顔をする。
「やっぱり、まだあのこと…」
そう言った明美がうつむくと、その瞳から雫が落ちる。戸惑った俺は、タバコを持とうとした手を明美の頭に乗せる。
「え、隊長…?」
「…もう二度と、あんなことさせねぇよ」
そのまま頭を撫でると、明美は嬉しそうに微笑んだ。そうだ、もうあんな思いを、ましてやアイツらにまでさせない。させたくない……
と、俺は気づいた。俺は今、元部下で10cm近く身長が高い女性の頭を堂々と撫でているのだ。かなりイタい行動な上、もう10秒以上はずっと頭に手を置いたままだった。恥ずかしいことこの上ない。
「…私は『一人になりたい』というから鍵を貸したんだ。イチャイチャさせるために貸したんじゃないんだ」
「が、学園長?!」
いつの間にか、学園長が俺たちの間でうずくまっていた。まるで恨み言の様にブツブツと呟くその姿は、まるで幽霊だった。
「それに明美クン、あれは何だったのだ?」
「…あれ、とは?」
「私が『一人にさせとけ』って言った時、『あの人の一人になりたいは、かまってくれの意味だから』とか…。やっぱりそうなのか?二人はデキてるのか?」
「わぁー!学園長!なんで言っちゃうんですか!ていうか、やっぱりってどういう意味ですか!」
「べっつに~?二人が付き合おうがどうなろうが勝手だけど~、頭の上でイチャつか
れるのはなぁ~?」
「うぅ…だからぁ…」
真っ赤になった顔を隠す明美と、わかりやすく不貞腐れている学園長のまるで子供の様な言い争いに、俺は思わず吹き出す。
「って、なんで隊長殿が笑ってるんですか~!」
さっきとは違う意味で泣きそうな明美。このとき俺は学園にきて、いや、ここ最近で一番心から笑っていた。
「隊長殿ぉ~」
明美の情けない声に、俺は声をあげて笑う。その時、肺に残っていた煙が口から洩れた。今ので、心に残っていた不安の最後だったようだ。
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