第2話 ファーストイメージは最悪
「…つー訳で、一か月間
自己紹介にもなっていない自己紹介を済ませ、教室を出ようとする。だが、一人の生徒が声を上げた事によりその足は止められた。
「ちょっと待ってください」
「…なんだ、質問なら手短にしてくれ」
俺は不機嫌な声と表情でその生徒を睨みつけた。こんなにも機嫌が悪いのは朝早くから校内のトイレ掃除をさせられたからだ。27階建ての校舎だけでなく、隣の訓練用のホールのトイレもやらされた。朝4時から延べ3時間半。あのガキ許さない、絶対にだ。
「これはどういうことですか?峰塚先生」
「…どう、とは?アリスさん」
アリス・フォールド・エルサレス、18歳
軍用兵器の開発を主とする大企業、エルサレス・フロント社のご令嬢。学園の古参で、入学当初から成績も戦闘能力もトップクラスの秀才。かつて試作兵器の試験運用のために戦線に参加した経験あり。
何故そんなこと知っているかって?学園長に渡された担当クラスの資料を徹夜で漁ったからだ。お陰でクラスに全員の顔と名前は結び付くが、寝不足が酷い。
「その人、軍人だという事は察しがつきますが、こんな適当な人から教えを受けたくはありません」
まったくもって正論だった。だが、今の俺にとってはイライラを増幅させるだけだった。
「…異論反論は認めないと言った筈だが?俺も命令じゃなきゃこんな事…」
「こんな事?ここは選ばれた者たちが集う学び舎であり、人類の希望そのものです。そんな神聖な場にあなたのような人が踏み入るなど、身の程をわきまえなさい!」
俺は驚いた。心の底から、眠気が吹っ飛ぶほど驚いた。迷いなく、真っ直ぐな眼で俺を見る少女は、確かにデータ通りの優等生。そんな彼女が、俺にとってそんな彼女の姿は――
「…フッ、ハハハッ…!」
酷く、滑稽に見えた。
「な、何がおかしいの」
「いや、まさかそんなこと
俺は
「選ばれし者?人類の希望?確かにお前たちは選ばれたんだろう。だがな、お前たちが希望だから選ばれたんじゃねぇ。むしろ災厄そのものだ。長年人類が戦い続けている龍と同じなんだよ」
軍人と思われる男の、軍人にあるまじき発言に教室中がざわつく。それでも俺は構わずに続けた。
「お前らに期待しているなんて言ったやつらも、心の底ではお前らを恐れている。なぜなら、お前らは人間にはない力を持っているからだ」
「隊長、そこまでに…」
「
俺は勢い任せに暴言の数々を口にした。
「お前らみたいな危険物に、この世界で居場所はないんだよ」
ただ機嫌が悪くて、テンションがおかしかったからだけではない。俺の中に芽生えた感情。
「結局、死ぬまで軍のいいように使われるだけだ…」
自分の言葉が、全て跳ね返ってくる。そう、俺も結局…
「お前らは…俺らは結局…!」
「隊長!」
ハッと、意識を引き戻された。見ると、明美は俺の裾を震える手で握りしめていた。
「…とにかく、さっきの考えは改めろ。分かったな」
俺は頭を掻きむしりながら言うと、アリスは黙って席に座った。俺は教室を見渡す。まるで葬式の様に静まり返っていたが、あれだけ言って泣き出した生徒はいなかった。
「以上だ、明朝から訓練を始める。…遅れるなよ」
俺はそう言い残し、今度こそ教室を後にした。
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