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美容整形院で見せて貰った写真は、夏子、いや百合子であった。とりあえず、仕事の段取りを済ませ、週末に沖永良部島に行くことに決めた。

 梨花は「お母さんのこと?」と訊いてきた。いつも作業服であまり出歩かない透がこのところ、ジャケットを着て出歩くのを不思議に思っていたのだろう。宿泊先のホテルのメモを渡して留守を頼んだ。梨花はメモの住所を見て不思議そうな顔をした。


「民宿とかしき」は前の所に、前のままにあった。家も周りには、前には見れなかったえらぶ百合が今を盛りと咲き、百合畑の向こうに百合子の姿が見えるようであった。陶芸をしていた物置小屋もそのままにあった。突然、透はあることを思い出した。

 夏子が愛用していたコーヒーカップは、ここで透が初めて作って、百合子にプレゼントしたものでなかったか。カップの絵柄が浮かんできた。それすら忘れ、気がついていなかったのだ。


中年夫婦が出てきたので、

「以前来た者ですが、おじいはお元気ですか」と言うと、

「親爺は今海に出ています。すぐに戻るでしょうから上がって待ってください」と中に案内してくれた。中のたたずまいも何も変わらず、昔のママであった。透の胸に懐かしさがいっぺんに蘇って来た。海から帰ってきたおじいは、少し老いてはいたが、昔のままに潮焼けした精悍な身体つきであった。


「10年になりますか、早いもんですなぁー。お陰さんでこうしてまだ海に出れとります。あんたが帰られたあと2ヶ月もしたころでしょうか、百合子は急に与論島に帰りたいと言いましてな。実の娘みたいに思っていましたから、『何があった』と聞いてもなんも言いません。あんたを好いとることは分かっていました。あの子のこっちゃけ、よくよくのことと思うしかありません。そうですか、あんたと百合子は一緒になったですか。与論島にはあの子の伯父が住んどります。ちょっと待ってください、住所は昔来たハガキがあるでしょう」と言って、奥の座敷に立ち、古ぼけたハガキを持ってきた。

襖を開けたあの座敷で百合子がおじいの島唄に合わせて踊っていた。島衣装のその姿が目に浮かんできた。


「百合子の写真を何かお持ちでないですか。長いこと見とらんのです」と、言われたので、梨花を入れて最近撮った3人の写真を見せて、百合子が整形をして現れたことを告げた。

「そうですか、綺麗になってあんたに逢いたかったのでしょう」と、おじいは写真の顔を指でなぞり、「ありがとうございます」と写真を返した。


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