11

11


あくる日、百合子が栽培している〈えらぶ百合〉の畑を見せてくれた。フリージャは白や黄色の花をつけていたが百合は蕾であった。3月半ばになると百合が色とりどりの花を咲かせ、グラジオラスも咲き、島は花で埋め尽くされるのだと語った。

 花は飛行機の便が出来てからは、京阪神や、京浜地区にも出荷できるようになり、切花は島の重要な産業になり、島は豊かになったと語り、だから、島はあまり観光には力を入れていない分、開発されない良さが残っているのだと、百合子は説明した。

おじいが海で漁をし、百合子が花を担当し生計を立てていて、民宿は半ばおじいの道楽みたいなものらしい。

「私とだけだったら、退屈でしょう。お客さんと黒糖酒を飲むのが楽しみなのよ」と百合子は笑った。


「百合子さんの楽しみは」と聞くと

「こっちへ来て」と、物置になっている小さな小屋に案内した。隅にロクロが置かれてあった。

「土いじり。陶芸の芸まではいかないわ」と、土を捏ねロクロを回した。器用に粘土は形を成し湯呑が出来上がった。

「やってみる?」

「面白そうだね」。見てると簡単に思えたが、やってみると途中で振れ、形にならなかった。

「中心がずれているからよ」と、お椀を逆さまにした形状の粘土をロクロに置いて、

「もう1回やってみて」と言われ、悪戦苦闘の末、透はコーヒーカップを仕上げた。

「難しいもんやね。俺はにはむかん。出来たカップはプレゼントするよ」

「乾燥させて、素焼きして、釉薬をつけて本焼きして出来上がり。出来上がったら見せるね」

「手間がかかるんやね」

「ものを作るってみんなそうでない。花の世話と土をいじっている時が何にも忘れて一番楽しい」と、百合子は片付けながら言った。

こんな明るい娘にも忘れたいことがあるのだろうかと透は思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る