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あくる日、百合子が栽培している〈えらぶ百合〉の畑を見せてくれた。フリージャは白や黄色の花をつけていたが百合は蕾であった。3月半ばになると百合が色とりどりの花を咲かせ、グラジオラスも咲き、島は花で埋め尽くされるのだと語った。
花は飛行機の便が出来てからは、京阪神や、京浜地区にも出荷できるようになり、切花は島の重要な産業になり、島は豊かになったと語り、だから、島はあまり観光には力を入れていない分、開発されない良さが残っているのだと、百合子は説明した。
おじいが海で漁をし、百合子が花を担当し生計を立てていて、民宿は半ばおじいの道楽みたいなものらしい。
「私とだけだったら、退屈でしょう。お客さんと黒糖酒を飲むのが楽しみなのよ」と百合子は笑った。
「百合子さんの楽しみは」と聞くと
「こっちへ来て」と、物置になっている小さな小屋に案内した。隅にロクロが置かれてあった。
「土いじり。陶芸の芸まではいかないわ」と、土を捏ねロクロを回した。器用に粘土は形を成し湯呑が出来上がった。
「やってみる?」
「面白そうだね」。見てると簡単に思えたが、やってみると途中で振れ、形にならなかった。
「中心がずれているからよ」と、お椀を逆さまにした形状の粘土をロクロに置いて、
「もう1回やってみて」と言われ、悪戦苦闘の末、透はコーヒーカップを仕上げた。
「難しいもんやね。俺はにはむかん。出来たカップはプレゼントするよ」
「乾燥させて、素焼きして、釉薬をつけて本焼きして出来上がり。出来上がったら見せるね」
「手間がかかるんやね」
「ものを作るってみんなそうでない。花の世話と土をいじっている時が何にも忘れて一番楽しい」と、百合子は片付けながら言った。
こんな明るい娘にも忘れたいことがあるのだろうかと透は思った。
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