第2話
吸血鬼が子供を拾って十数年が経過した。
今夜も、月は綺麗だ。
「ねぇ、なんでダメなの?」
そろそろ日課の散歩に行こうと思っていたのだが、目の前の少女に見つかってしまったのだ。
白の長い髪はサラサラで、肌は色白ながら張りがある。赤い瞳は大きく、赤い唇もぷっくりと可愛らしい。
その肢体も、まだ幼さが残るが成熟しつつある。あと数年もすればますます美しくなるだろう。
ただ、今は、その整った眉を寄せ、赤い瞳で睨むように僕を見ている。
「ねぇ、ケイ!聞いてるの?」
「聞いてるよ、サク」
「じゃあ、なんで?!」
「だって、夜は危ないからね。ほら、サクには道がよく見えないだろう?」
だからダメ。
そう続けようとしたのだが、思った以上に強く睨まれて、僕は思わず口を閉じる。
綺麗に育ってくれたのは嬉しいが、起こった時の迫力も増してしまったと思う。
「私も行きたい!」
「危ないからさ」
「ケイがいるなら大丈夫でしょ!」
「それに、まだ、外は寒いし、風邪ひいたら大変だよ」
「上着を着れば、大丈夫よ!」
「でも、また熱を出して寝込んだら」
「またって、いつの話よ!かれこれ10年は寝込んでないわ」
それはそうだ。
あれはまだ、少女が言葉をうまく話せないころだった。
僕にとってはほんの少し前でも、少女にとってはかなり昔なのだろう。
それが、ちょっとだけ寂しい。
「とにかく、サクはお留守番」
僕の気が変わらないと分かったのだろう。
少女は、赤い瞳に少し涙を浮かべていた。
「……ケイなんか大っ嫌い!勝手に、浮気してくればいいわ!」
へ?
浮気?
唖然とした僕の前を、少女は風のように去っていく。
奥の少女の部屋に入り、バタンと扉を閉める音がした。
僕は、想定をはるかに超える言葉に、未だに思考回路が追いつかない。
浮気。
意味 → 他の異性に心を移すこと。(広辞苑)
……誰だ。そんな言葉を教えたのは。
というより、夜の散歩は僕の日課なんだけど、別に、そういう意味ではないのだけれど。
取り敢えず、パニックになっている頭を落ち着けよう。
落ち着こう、僕。
どこで覚えたのか知らないが、人間の子供は成長し、知恵付くのが早い。
それも、余計なことばかり、覚えていく。
困ったなぁ、と思いながら、そっと家を出る。
たぶん、僕が散歩を終えて、家に帰る頃には、機嫌を直してくれるだろう。
ただ、直してくれなかったら、どうしよう。
美味しいケーキを焼いて、綺麗な石をプレゼントして、綺麗な洋服を買ってこよう。
しかし。
これが、反抗期というやつなのか?
僕は、少々困りながら、綺麗な月を見上げた。
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