第1.5話

人間の子供は、弱い。

すぐに体を壊すし、回復にとても時間がかかる。


初めて少女が体を壊したのは、まだ言葉がうまく話せないころ。

慣れない育児に右往左往しつつ。

なかなか寝付かないときには、魔力をちょっと使って。

それでも大丈夫そうだとわかったころ。


その晩は、満月がとても綺麗だったから、窓を開けて、ずっと眺めていた。


しかし、それがいけなかった。


吸血鬼たる僕には、涼しいなぁという気候。しかし、それは人間で言う寒いに当たるのだと、気付かなかったのだ。


案の定、夜風にさらされた少女は、明くる日高熱を出した。


それまでピンピンしていた、走り回っていた子供が、ぱたりと倒れて動かないのだ。

額に手を当てると、ものすごく熱い。


これが熱だということも、風邪をひいた人間がこうなることも、知識としては知っていた。

しかし、目の前で起こってみると、慌ててしまってどうすればいいかわからなかった。


取り乱した僕に、使い魔のコウモリたちが、あれこれと指示をしてくれて、なんとか、看病というものをした。


濡らしたタオルで額を冷やし、布団に寝かせて暖かくする。


高熱にうなされる少女を見ていると、気が気でなかった。

こうも容易く、人間は壊れるのかと、ぞっとした。


そして、もし、このままこの子が居なくなったらと考えて、恐怖した。

この温もりが永遠に失われてしまうのではないか、と一睡もすることができず。

ただ、少女の様子を見守った。

こまめに、タオルを変えて。


気付いた少女は、苦しそうにしながらも、僕ににっこりと笑った。


まるで、心配しないで、と言うように。


僕の心は締め付けられた。


やがて、一昼夜寝込んだ少女は、回復した。

そして、また、僕の周りを駆け回るようになったのだが、今度は転げて怪我でもするのではないかと、僕は戦々恐々となる。


初めは、好奇心で育て始めた子。

しかし、失いかけたその時から、確かに僕にとって失いたくない子になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る