第4話 半月

 夜の浜辺は寒く黒々としていて不気味である。ともするとその底へ引きずり込まれそうだ。一人では来ることはないだろうが今日は月が綺麗だから、とアヤを誘って連れ出した。しかし、今夜の月は満月にはまだ間のある上限の月でしかもうっすら雲がかかっているせいであまり綺麗とは言えない。それでも、アヤは着いてきてくれた。初めてあった時と同じ薄桃色の着物に洒落た赤い珠のついた帯飾りをつけ、髪は一つに編んでまとめられている。

「ここに来てから貴女には世話になり通しです。」

 心からの感謝の念をべればアヤは小首をかしげてその愛らしい顔に笑みを浮かべた。

「無事に回復されて良うございました。」

 心臓が張り裂けるのではないかと思った。吸うたびに肺に入る海風にすらこの熱を冷ますことはできない。

「貴女が好きです。」

 ろくな前置きも思い付かず、初めての告白はかなり簡素なものになった。横にならんで歩く彼女の顔を直視することすらできずに伝えたそれは後から考えればかなり情けないものであったがその時はそれが精一杯だった。二三歩進んで気付くと彼女の足が止まっていた。ぼんやりとした月を背に俯いている。

「アヤさん?」

 かけた声にアヤは口元を両の手で覆い隠して小刻みに震えながら頷いた。この入り江に今二人以外の人影はない。ただ海はひっそりと二人を見つめていた。

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