幾度死ぬ

 自分を見つめてみて。


 多分そこに、あなたはいない。そこにいるのは、そこに在るのは、あなたを見つめる、数十億の瞳。


 その中の数粒が、あなたのことを大切に思ってる家族で、その中の数十粒が、あなたのことを必要だと思ってる友人で、その中の一粒が、あなたのことを愛してる人。それ以外はきっと、今まで捨ててきた米粒のひとつひとつのように、どうでもいいんだね。


 あなたをつくっているのはあなたじゃなくて、あなたを見て、評価をしている自分じゃない人。あなたがあなたを見つめた時。それは、誰かがあなたを見つめた時。鏡に映った自分を見ても、録音した声を聞いても、そこにあなたはいないんだよ。だからあなたは、あなたを知る隣人の眼を、自分のものにしたがるんだね。それを知ったら、きっとあなたは傷付くと思うけれど、人の眼を気にしながら生きているあなたは、もう知っているかもしれないね。


 あなたがどれだけ、死んでいるのかを。


 あなたはみんなの記憶の中に、誰かが誰かを評価する時の、物差しに使われている。人と人の優劣をつける相対的な価値の中で、あなたはようやく生きることを許されている。あなたより素敵な人ができるまで、あなたより、酷い人と出会うまで。記憶の中に生きている。


 あなたが死んだ時。


 それは、誰かがあなたより素敵な人を見つけたのかもしれないね。あなたより、酷い人を見つけたのかもしれないね。


 もしかしたら物差しに使う価値もないと、思われたのかもしれないね。


 今日も何処かで、あなたが死んでいる。


 自分を見つめてみて。


 あなたは、どれだけの人の記憶の中にいる?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る