愛<>殺

 退屈があなたを殺しに来た時。


 あなたは退屈から解放される。


 羨ましい。


 退屈に殺されるあなたが、羨ましい。


 朝起きると、あなたの隣に退屈がいたね。顔を洗って、服を着替えて、ご飯を食べて。家を出るまでの間、ずっと一緒にいたね。仕事をしている間も、誰かと話をして笑っている間も、退屈はあなたを殺そうとしてくれていたね。


 家に帰ってくると「ただいま」って。そんなあなたを「おかえり」って。出迎えてくれたね。何もせず、死んだように眠るあなたをそれでも、息の根を止めようとしていたね。


 退屈は何時でも、あなたを見てくれていたね。


 愛してくれていたね。


 そんな退屈を、あなたも愛していたね。誰よりも強い感情を自分に向け続けてくれた退屈を、愛していたね。誰よりも、何よりも強く。


 殺したいほどに強く。


 殺されたいほどに、強く。


 だから、羨ましい。


 愛するものに殺されて死ねる、あなたが羨ましい。


 そんなあなたが、羨ましいのです。


 だから私は、何時かあなたを殺しに行きます。


 誰よりも強く、あなたを愛します。殺したいほどに愛します。そうやってあなたのもとへと、やってきます。


 その時初めて、自己紹介をしますね。


「こんにちは」


 私の名前は退屈です。


 あなたを殺しに来ました。

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