第7話
「あなたには、本来選択肢はない。だけど、選ばしてあげる。使い魔としてその力をつかい、私の復讐を手伝うか。今から、何もなかったこととして忘れて普通に生きるか。すぐに決める必要はないけど、私はせっかちよ。明日までに決めなさい。」
そういって、帰されたはいいものの、優希はどうしたらいいかわからなかった。決めるのには、圧倒的に情報が少なすぎるのだが、ある意味では、花凛については、知りすぎていたからだ。
暗闇の岐路は、15メートルおきに街灯が置かれていたが、既に時代モノなのかパチパチとついたり消えたりを繰り返し、前が見えない。トボトボ歩きながら、花凛の言葉を思い出していた。
『愚かなことよね。たかが地位の為に、同じ力を持った仲間同士で殺しあうんですもの。』
花凛の父、赤菱
「花凛は『愚か』なんて言ってたけど。俺には断言出来ない。だが、悪いことってことだけは分かる。」
優希は、ぶつぶつと呟いていた。それ故、自然と下がっていた視線は、自らの靴の周りしか見ていなかった。
だから、通行人が前から来たことも直前までわからなかった。
銀色の氷の結晶の装飾のついた薄い水色のヒールと、
「あなたなら、彼女を救えるかもね。」
静かなで、氷のように冷たい声音が、耳元で囁かれ、優希は、咄嗟に振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。
リンっという、鈴の音が聞こえた気がしたが。
「………俺、疲れてるのか?」
幻覚を見たと思い、優希は急いで家に向かった。
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「ただいま。」
優希は、家の扉をあけ挨拶をするも、暗闇から返事が返ってくる様子はない。それもそのはず。
「誰もいないしな。」
親父は単身赴任。妹は留学してから帰って来ず、母さんは妹が心配と連いて行った。
『Dear Son of a bit◯h (愛しのクソ野郎へ)』
だなんて、母さんからの謎テンションの手紙は送られてくるが、現在地については言及なし。
「てか、母親が、息子向かってそりゃない…。」
たまにくる写真にも、妹は写ってはいるのだが、どれも、髪の端だったり鼻の先だけだったり、掌だけだったり…ブレるというかわざとやってるんじゃないかというくらいの映りの悪さである。
いまみんなどうしてんだろ……。生きてるよね?
懐かしみに襲われて、なぜかわざわざ小さい頃のアルバムを取り出してきた。
「あははは!考えてみれば妹は、昔から写真写りが悪かったな!」
家族で行ったキャンプやハイキング、遊園地や水族館、動物園、運動会や合唱コン。
そこには、無数の思い出たちがあった。すると、不意に涙が溢れる。
これは、一体?
「いいや、違う。わかった。わかったぞ!」
優希は、うまく言葉に出来ない熱さが胸に宿っていた。答えは見つかった。
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その違和感は、突然襲って来た。午前4時くらいだろうか。
花凛は、すぐに瞼を開けた。ねっとりとした空気が目覚めたばかりの喉に張り付くようだ。生暖かい風が頬を撫でる。
それらを払うようにして布団を脱ぎすて、あかりをつける。
すると、明かりがついたのにもかかわらず、辺りには色がなく、白黒な空間が広がっていた。
「やっぱり、
花凛は、急いで制服に着替えながら思考を巡らせる。
「知らされてないのではなく、元々知らせず派遣されて来てるとしたら……。ッ!?」
「イィィィィィギィァァァァァァァ!」
女性のの絶叫とカラスの低い鳴き声を無理やり合成したような、鼓膜を掻き毟る嫌な声が聞こえ、花凛の思考はストップした。
急いで、窓際に行きカーテンを開き、目を凝らして声の聞こえた方を見る。
マンションの下を覗くようにして、身を乗り出す。
しかし、直後に花凛は何者かに捕まえられ、宙を待っていた。肩に鋭い何かが刺さり、その上、途轍もなく大量の熱を流し込まれる。
恐ろしいほどの加速に、意識を持ってかれそうになる。
「ッ!!……離しなさいっ!」
すぐに、ポッケから鋏を取り出し【展開】し、胡蝶丸を、自分を掴む何かに切りかかった。
だが、空を切る。それだけでなく、見えぬ力で花凛の身体は、地面に引き寄せられた。一気に加速した後の、自由落下。
予想だにしない空中浮遊に花凛は、焦ることはなかった。すぐに身体をひねり、前半身を上にやり、上空に目をやる。
交差する鋭い視線の元を辿る。
いた、あれは……タカ型!
赤い翼を強くはためかせ、黄色のギョロっとした二つの目がこちらを覗いていた。が、
すぐにタカ型のイドラムは、身を翻すと追い討ちをかけるように急降下して、凶悪な爪で突き刺そうとしてくる。
「赤菱流・
刀を前に構え、切っ先を足の方にやると、刀身が真っ赤な炎を生み出す。身体を全力でクルクルと捻り回ると、刀が通った軌跡が炎のマントのようなもので編み出され、クルクルと体に巻き付いていく。
「きぃっ!!!!」
タカ型イドラムは、危険を察知出来たが減速ができず、炎のマントに突っ込んでしまう。回転し、炎を纏う刃が、鷹の爪を灰燼へと変える。
タカ型イドラムは、己が足を失うも、花凛の回転のエネルギーを利用としてわざと弾かれるようにして更なる被害を避けた。
花凛は、そのまま地面へと落下していくが、直前で炎の渦を止め、刀を地面に突き刺す形で着地した。あたりのコンクリートは、刀の熱で泥のように溶けてクレーターを作る。
コンクリートは、花凛の足にも跳ねたが、透明の壁に阻まれるように、足にはつかなかった。
意識下であれば、ちゃんと見きれば防げるのだが…
肩の傷が、再生の炎で塞がれる。
花凛は、刀を抜き鞘に収め、空を見つめる。タカ型イドラムは、鳴き声を上げながら、天を滑るように円を描いて飛んでいた。
花凛は、鞘の尻を上げ、構えを取る。
タカ型イドラムも、敵意を察知にしたのか再び羽ばたきを強くして、上昇するとそのまま一回転して、突撃してきた。
居合の間合いは、刀の刀身プラス、鞘の一部と肘から手の先まで。
沈まる息。重力によりさらなる加速をするタカ型イドラム。目線が交差し、極限まで緊張が、高まる。
「赤菱流・
真剣の武器としての恐ろしいのは、他の武器とは比べ物にならないほどの切れ味だけでない。その非常に薄く、一切の曇りのない鏡ような刀身こそが、特徴。
超一流の剣士は、刀身を景色の中に溶け込ませ且つ高速で放たれる刀筋を全く見えないものにする。先程、構えて居た刀が、まさに陽炎のように、近づいた時点で消えてしまい、気がついた時には、既に振り終わっている。
デコピンの原理で、鞘から放たれる神速の居合斬りは、イドラムさえ両断する。
視線の交錯。より速いものが場を制す。いざ、参らん。
花凛が鞘側の手に少し力を入れた直後であった。
「マジック。疾れ!ピアーズ・サンダー!」
槍の形をした雷が、突如として現れ、花凛の脇腹に飛来する。
「ぐはぁっ!?」
対した攻撃ではなかったが、花凛の脇腹を傷つけ、居合斬りの態勢を崩し、意識を逸らすには十分であった。
「しまっ」
「きぃいいいいいい!!!!」
タカ型イドラムの鋭い嘴が、花凛の右肩を深く抉る。肉を抉られ鮮血が飛び散り、露出した骨まで傷をつけられる。
「うぁぁぁぁぁあ!! く、マジック!燕火!」
もう一つの肩を抱き、腕を払うように魔法を発動させる。しかし、燕の形をした炎たちはタカ型イドラムに当たる直前で。
「キュイ…。」
笑った?そんな風に花凛には見えた。
身を震わせるようにして、鳴き声をあげると炎は、形を変えタカ型イドラムの身体の周りに巻きつく。嘴が開かれると、炎は吸い込まれてしまった。
「炎を食べてるっていうの!?」
「ご明察。正解だよ。頭も切れるじゃないか。」
「…………誰?」
底冷えするような軽蔑の声を上げた花凛は、声の方を見つめる。
「あ、あなたは……そうかそうだったのね。確かに見落としていた。」
「なに、明かしてみれば面白くもない話さ。」
「谷口君。貴方は何が目的なの?」
「目的?ふっ。あははははは!わかっているだろ?君の存在自体がその理由になり得ることなんて。」
谷口良平は、舞い降りてきたタカ型イドラムを左の
「……………。」
何も言わぬ花凛の顔を見て、谷口は笑った。
「あぁ、君はそんな表情もするんね。美しい。僕のものにしたい。」
そう言って、手に握る白い半透明な鞭を取り出した。
「目的は、わかったわ。だとしても、これは少しやりすぎじゃない?殺してしまったら、貴方の
「あぁ……、そうなんだよ。」
谷口は、心から残念そうな声を出して肩を落とす。そして、ブツブツと話し出した。
「…………………でも。でもでも。でもでもでもでもでもでもでもでも。でもでもでもでもでもでもでもでも!でも!でも!でも!でも!でも!」
谷口は、奇声を上げ始め身体を仰け反らしながら、頭を掻き毟る。強すぎる搔きむしりで、爪で頭皮を削り、髪を振るたびに血が飛ぶ。
「でも……生きているなら、どんなことしてもいいんだよねぇ?」
今度は、花凛の方に顔を向けた。
「ひっ。」
彼女の声が喉から出てしまった。それもそのはず、理由は谷口の顔にあった。
「……あハ?あァコれ?僕は、電気使いだカらねェ?こンなこともデきるんだァ。」
グツグツに膨れ上がった顔、あのイケメンの表層は面影すらなく、谷口は、まるでパンをこねるように顔にひねりを加えていく。顔に電気が走り顔の形が変わっていく。
ぶくぶくと膨れていた肉が形を整えられていく。皺の寄った額。隈というには黒すぎる目の周り。不気味に出来たえくぼ。鼻はトンガリ、唇は、左右に破れている。
醜悪という言葉以外に思いつかない顔へと変わる。
谷口(?)は、喉あたりをさするようにして再び発声する。
すると、先ほどの少し幼さのあるが張りのある良い声から、
「……ぁ”ぁ”ア”」
獣の呻きのような、濁声でとてつもなく低く、寒気がするような声へと変化した。
「ンだ?そんな顔しやがァってよォ?」
花凛は、唖然として声が出ない。
「てめェの、その顔もいいなァ。まさに俺の奴隷にちょうイイ顔してやがらァ。」
「俺の名前は、エレキ・カジョータ。テイマーの俺がァ、お前を調教シてヤるよ。」
高圧電流が流れた鞭が地面を叩くと、火花と小さな爆発が起きて小さなクレーターが出来た。
「よろシくなァ?未来の奴隷さんよォ。」
けたけたけたけたと、気味の悪い笑いが白黒空間に響き渡った。
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