第14話 突然の申し出
土曜日を迎え、検一と約二か月ぶりに会うことになった。
・・・久しぶりだなあ、検一くんと会うの・・・。
紫は色んな事が重なり、自分に余裕がなかったので最後に会ってからはラインの連絡だけだった。それも二、三日放置してしまうこともあった。検一の方はすぐに返信してくれることが多かったがそれでも相手も海外へ行くことが増えたので毎回即レスというわけでもなかった。
検一とは夕方の待ち合わせだった。「凄くいいお店がある」と自信ありげなラインが来ていた。
検一と久しぶりに落ち合い、ディナーに案内されたのは五つ星まで行かないが四つ星ほどのカジュアル目なホテルのホテルディナーだった。
「え、私今日そんなお洒落してないよ!」
「大丈夫だって、ジーンズとかではないし。」
いつもの花柄のワンピースを身に纏った紫は緊張した。
・・・今日辺り多分告られるのかな?
なんて少し予想していた。
「久しぶりだね、紫ちゃん。元気にしてた?」
「検一くんこそ。海外行くことが多くなったんだって?」
「ああ。こないだはマレーシアに行ってたよ。四月から部署異動してさ、海外物流部ってとこ行って主に発展途上国のあんまり通関がしっかりしてない輸出地に対してルートを整える仕事することになったんだけどさ。」
「へえー・・・、凄いね。相変わらず。」
「今んとこも人いなくて・・・、結構俺がひとり何役もしてるって感じ。」
「そうなんだ。」
二人はオードブルを食べながら話す。
・・・なるほどね、さすが若年係長ってやつだな。彼は本当にしっかりしてる。
紫は感心していた。そしてメインも終わった頃だった。
「お客様へこちらどうぞ。」
その時蝋燭にパチパチと花火が散ったホールケーキがスタッフによって運ばれてきた。
「えっ、何これ!?」
これには紫は想定外だった。
ケーキにはチョコレートで「Dear Yukari」と描かれてある。
「あの・・・今日の記念に。」
検一は照れながらそう言う。
「お客様こちらもどうぞ。」
スタッフがそう言って、紫に手のひらサイズのプレゼント仕様に包装された箱とミニバラの花束を渡した。
「あとこれ・・・。良かったら。」
検一は続けて言う。
「ええ!」
紫は唖然としていた。
「ごめん、付き合ってもないのに。重かったら捨ててくれていいから。」
そういう検一に紫は何も言えずにいた。
「いやいや・・・そんなことは・・・。」
紫はこんなプレゼントされるなんて想像していない展開だったのでそちらに驚いて返事ができずにいた。
「ありがとう、凄く嬉しい。」
やっと返事が出来た。
「やった!!マジ嬉しいよ!あー、ほんと気合入れすぎて引かれちゃったらどうしようかとずっと考えててさ。そのプレゼントも開けてみて。」
検一は心底喜んでいた。
紫は箱を開けるとティファニーのハート型のネックレスだった。
「あっ、あたしこの形大好きなの!」
紫は自身もいくつか持っているシリーズのネックレスだった。
「本当!?いや紫ちゃんに似合うかなって思ってさあ・・・、こういうの選ぶの苦手なんだけど。喜んで貰えて嬉しいよ。」
「あ、あたしこそ・・・。何も用意してないのに・・・。」
「そんなのいいんだよ!つけてつけて。」
検一に急かされて、ネックレスを手に取りチェーンをフックに通した。
「あーよく似合ってるよ。さすが美人にはよく似合うよ。」
「またまた、そんなことはないから。ほんとに。」
紫はサプライズに態度がついていけていなかったが、内心かなり嬉しかった。
「・・・でさ・・・、ちょっといきなりなんだけど。」
検一は改まった口調で言う。
「何?」
「・・・実は俺、八月にイギリスのロンドン支店に転勤することになったんだ。」
「え!?」
「それで・・・、その紫ちゃんさえ良ければ・・・、ついてきて欲しい。」
「・・・。」
さすがに即答というわけにはいかなかった。
「何年いるの?」
「少なくとも三年。先月部署異動したとともにロンドン行くまでの下準備ってことで今のとこに異動させられたんだ。」
「そうなんだ・・・。」
「あの、ゆっくり考えてくれていいから。あとそれは俺の気持ちだから、好きにしてくれていいよ。」
検一は謙遜気味に言う。
「俺は・・・、有楽町で初めて会った時から凄い惹かれてて。だから本当はもっと早く告白とかしたかったんだけど、仕事で余裕もなくて。やっと今日気持ち言えたけど、その時はロンドン行きが決まってたからさ。いきなり海外転勤の話までされて正直驚いていると思うけど。」
検一が徐に告白してきた。
「うん・・・、びっくりしてる。」
「本当にゆっくり考えてくれていいから。俺はでも久々にこんなにいいなって思えたコに出会えたからさ。」
「そんな・・・、私なんかで・・・。」
紫はかなり動揺していた。
ホテルのレストランから出て、帰り道。東京湾沿いのベンチに座った。その時にすっと手を繋がれて、キスもされた。
「ごめん、私・・・。すぐに返事できなくて。」
紫はキスされた後にそうやっと答えた。
「・・・ああ・・・いいよ。こんなことされて嫌じゃなかった?」
「ううん、私も検一くんいいなって思ってたから。」
「ありがとう。本当はもっと早く出会いたかったよ。」
そう言って抱き締められた。
・・・。
紫は心底嬉しかったが、急な展開すぎてすぐに決断ができなかった。
「・・・ごめん。先に断っとくけど、今日はここまでがいい。」
紫はつい予防線を張ってしまった。
「ああ勿論・・・。ごめん下心見え見えみたいで。無理に誘ったりしないよ。」
検一はしつこくなくあっさり引いた。
・・・やっぱりいい人だな。
紫はこれまで強引に誘う男を何度も経験したが大概相手の気持ちなんてわかってないモテない男どもだった。
家に帰ってからも紫はボーっと考えていた。胸にはプレゼントされたティファニーのネックレスが光っている。
・・・イギリス?ロンドン?いくら何でも遠すぎる。それについて行ったら婚約したも同然だよ。知らない土地に殆ど知らない男の人といきなり同棲だなんてできないよ。
それが本心だった。
検一は確かにいい男だと思っているのは本当だ。
将来の展望もしっかりしていて、ルックスも雰囲気も悪くない上に性格も気を遣えてしつこくない。
・・・うーん・・・。
その後ラインでも、今晩は一緒に過ごせて楽しかった、イギリス行きの件は本当にゆっくり考えてほしい。いきなりこんなことお願いしてごめん。という文面のものが来た。
紫はますます迷った。
もう検一のような人がすぐ現れないことはわかっているのだ。
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