第12話 故郷と涙

「でっさー、まじその先輩オバサンがうざいわけ!クマモンみてーな顔してさ、陰で中山っつーんだけど、中モンってゆわれててさあ。」

「きゃはは、超ウケるね!あたしも今のファミレス変なババアいるよ~。」

夏美と比奈がビール片手にケタケタと談笑している。

五月に入り、ゴールデンウィークを利用して紫は帰省した。

同窓会で少し接点ができたので、三人はまた会うことになり、チェーン店の居酒屋でテーブルを囲んで話していた。

夏美は百均ショップ、比奈はチェーンのファミレスでアルバイトとして働いている。

「あー、金ねえなあ。」

夏美が呟くと、

「だねだね~。つかあたし今いい感じの男いるってゆったっけ!?」

と比奈が身を乗り出して言う。

「えっ、誰々!?」

夏美が興味津々なのに対し、紫はボンヤリしていた。

「ちょっ、紫!キョーミ持ちなよ!比奈が新しい男できたかもだってさ!」

「えっ、見せてよ。」

紫はチューハイを飲みながらやっと反応を見せた。

紫は内心二人の環境を羨ましくもあり、だがどこかで蔑む自分もいた。

アルバイト、更に子持ち。独身であり総合職で東京のメーカーで働く紫とは住む世界も取り巻く環境も何もかも違う。そして一番大きいのは仕事の責任だ。

「これなんだけどさあ・・・、バイト先のコで・・・。」

比奈が見せた男は、二十代前半の若そうな髪の色が明るく少し遊んでいそうな青年だった。

「えっ、二人もう付き合ってんの?」

「まーだ!!でもエッチとかしちゃったなあ、早すぎた?大学生の子なんだけどさ・・・。」

「えー、何それ!比奈それ許したわけ!?」

夏美と比奈が盛り上がっている。

紫は一言、

「イケメンじゃん!」

と称賛した。

・・・この二人は私が三年も不倫しているだなんてここで告白したらどんな反応するかな?

紫は想像した。

「けどさっ、今店長ともいいカンジなんだよね~!三十二歳!けどなあ、五歳の子持ちだしなあ。」

比奈が嬉し気に言う。

「えっ、既婚者?!マズくない?それ。」

「べっつに店長とは何もないしい。つか不倫とかしたくないもん。付き合うなら奥さんと別れてからがいいなあ。」

比奈までまともっぽいことを言うので紫は内心驚いていた。

「えーっ、じゃあいいカンジとは言わないじゃあん?」

「何かでもご飯行こう行こうってしつこいんだよね。顔は悪くないんだけどなあ。けど既婚者はな~。」

夏美の言い分に対し、比奈がブツブツ不満を言う。

「ね、ねえっ!やっぱり寂しい恋愛だよね、不倫だなんて!」

紫は思い立ったように二人に聞く。

「そりゃそうでしょ~。」

「時間と労力のムダだよね~、あたしの高校の時のツレでもどっぷり浸っちゃって結局興信所使って奥さんにバレて慰謝料ふんだくられた子いるよ。」

「あははっ、馬鹿だよね~!男ってさあ。まあ女も大概~。」

二人はあたかも経験したかのような口調で笑いながら言う。

「だよねえ。」

と紫は相槌を打つ。

「何まさか紫不倫愛でもしてるわけ?」

夏美が楽し気に聞いてくる。

「まさか!あたしの同期のコだよ!超浸かってる子がいてさ・・・、三年も!でも上司でかっこよく見えちゃうんだってさ!」

紫は自分自身の事を代弁した。

「あー、あるあるだねえ!」

「そんなことゆったって男なんて所詮カラダでしょ。いくら仕事中カッコよくても考えてること一個だしさあ。」

「何かさー仕事デキる奴に限って結構器用にやってたりするよ!あたしも昔時々本社の社員の既婚者の三十代の男が出入りしてたんだけどさ、バイトの女子大生と関係持ってた~。あたしはすぐわかったけどね、二人ん時の雰囲気違うかったし。」

比奈と夏美は得意げに話す。

・・・さすが男性経験が違うな。

と紫は二人の異性への見る目に感心した。

正直紫はこの二人は浮気や不倫のひとつやふたつ、当たり前の価値観かと思っていた。

「だよねえ・・・、男って嫌な生き物だね!」

紫は苦笑い気味に言う。

「つか紫、彼氏まだいねーの?」

「早く作んないとさ!こいつができてんのに!」

と夏美が比奈を小突いた。

「あっ、実は言うとさ有通のコと今いいカンジでまだ告られたりとかしてないけど!」

紫は久しぶりに検一の名前を出した。

浩輔のことがあり、時々連絡のやり取りはしているものの気分的に検一と会う気になれなかった。

そして更に向こうは部署移動して海外出張が多くなっていた。

「えっ、アリツー??って何?」

疑問に思う比奈に対し、

「ばっか。CMでよく宣伝してんじゃあん。」

と夏美。

「またまたでかい会社の男なんでしょ?いいなあ、紫は!そんな男と知り合えて!」

夏美は心底羨ましがる。夏美の夫は地元のカーディーラーの整備士でお給料は一般的には高給な方ではない。

「いや・・・、でも二人のタイプとは違うじゃん。」

紫は何とも言えずに遠慮がちに返答する。

「確かになー!リーマンってちょっとしんどいもん。お堅いっつうか。」

と、比奈。

「あー、わかる!あたし独身時一回リーマンと遊んだけど、超おもんなかったもん。」

夏美も同意する。

「けどさあ、紫って勝ち組じゃん!こないだはテレビ局でしょ?今度は物流商社の男ってやばいね。」

夏美はビールをぐっと飲んで言う。

「そんな・・・。」

そんなことない。

紫は子供を産んで家庭を築いている二人の方が幸せに感じた。

「まあさ、とりあえず大学生と付き合ってみるわ。そいつも地元の山手大ってとこの男だし、上手く行けばいい収入のとこに行ってくれるかなあって。」

比奈が口にした「山手大」という大学は茨城の地元の私立大学で俗にいうFランク大だ。

・・・そんなの大手なんてまずムリに決まってる。

紫は即座に判断した。

「けど気は合うし、子供も好きだしさあ。」

「あんた真面目に付き合いなよ~、もし二回目ってなったらさ。」

「そりゃあねー。」

夏美の忠告に対し比奈が同意する。

「じゃ紫も早くその男と付き合いなよ!」

と比奈。

「カラダが先じゃだめだよ!」

「あんたじゃないっつの。紫は三度目のデートまでエッチしない主義なんだからさ。」

比奈のアドバイスに対し、夏美が突っ込みを入れる。

「何の主義よ。」

紫は苦笑する。

・・・三回目どころか・・・。

紫は内心思い返していた。

・・・浩くんなんてただの会社の上司の存在だったのに。

その日のうちだった。

紫は浩輔のことを思い出してしまった。

あれから

『この間は少し言い過ぎた、ごめん。また近いうちに時間作るから、連絡待ってて。』

そんなメールが来た。すぐにスクリーンショットして保存した。六時間後にはごみ箱行きの消えてしまうメッセージなのだ。

紫はそれに対し、『わかってる』とだけ返信した。

「まあさあ~、紫とウチらは住んでる世界が違うもん。」

「だよね~、セレブ妻にきっとなるんだろうなあ。今度東京子供連れて行った時案内してよ!」

「勿論いいよ。」

二人の誘いに対して紫は笑顔で答えた。

こんなにお気楽で羨ましい。

紫は心底思った。

東京で生きていくのがどれだけ大変なのか比奈や夏美にはきっとわからない。

そう感じてしまうのだ。

・・・いいよね、毎日決まったルーティーンワークのアルバイトだけ。空いた時間は子供の面倒見れて・・・。

アルバイトなら紫も高校二年までファミレスでしていて、大学に入ってからも接客業には何度か携わったので大体の感覚はわかる。

「比奈の恋の行方もよろしくね!」

紫は笑顔で言う。


「東京はどう?もう桜が満開の時は見に行った?ほら何だっけ、あそこ。上野公園??お花見スポットなんじゃない?」

紫の祖母である小百合が聞いてくる。

「うーん、そうだね。そこそこ。もう殆ど散っちゃったけど今年はお花見何て行ってないな。」紫は、冬は炬燵として使用しているテーブルの上にお皿の上に置かれた煎餅に手を出し、頬張る。

ゴールデンウィークも終盤に差し掛かり、昼下がり居間にて皆でテレビを見ながら団らんをしていた。

「お姉ちゃんはいいなあ~、どこでもアクセスよくってさ。羨ましいわ。」

緑が猫の琥太郎とじゃれ合いながら寝転がっている。

「うっ、気持ちわりい。」

緑が急にその時立ち上がって、洗面台に駆け込む。

「ほらほら、妊婦はお腹冷やさないようにしないと。」

小百合が腹巻を持ってくる。

「おばあちゃんの頃なんてね、今みたいに色々便利な道具がなかったから自分で色々工夫しなきゃいけなかったんだからね。」

「ありがと、おばあちゃん。」

緑は気分悪そうに腹巻を受け取って早速春物のセーターを脱いで付け出す。

緑は妊娠初期で現在五週目だ。

「あと緑ちゃん、リンゴジュースがねいいのよ。」

小百合は冷蔵庫からリンゴジュースのパックを取り出しコップに注ぐ。

先日緑の妊娠が発覚し、この夏に入籍することになった。

「式はマタニティウェディングになっちゃうけどさあ。急だったから友達の都合つけよーと思ったら夏になっちゃうんだよね。」と話していた。

「緑、大丈夫?悪阻ってにおいに敏感になるんでしょ?」

紫は不安げに緑を見る。

「あー、まじ臭覚変わるねえ。何かちょっとしたにおいでも気分悪いんだよね~。」

緑はリンゴジュースを飲んで答える。

所謂できちゃった婚だが、母の茜も賛成しており、彼氏である雄輝の両親も大賛成している。

もうすぐ賃貸の紫たちの実家からほど近いマンションに引っ越し予定だ。緑は義理両親とも上手くやっていた。

「ねえ性別どっちがいい?」

紫が質問する。

「元気ならどっちでもいいよ!けどあたしは一緒にキャッチボールとかしたいから男かなあ!」

「あんたは男みたいなこと言うね・・・。」

「まあでも、最近なでしこジャパンがあるくらいだし、女子サッカーもさせてみたい!女だったとしても!」

いかにも緑らしいことを言う。

「けどさー、美容師には産休育休制度あるとここの辺じゃないしなあ。東京のおっきなサロンならあるけど。だから一回辞めなきゃいけねーし。」

緑は不満げに言う。

「したら出産の六週前の間際まで働けんだけどさあ、お金も一応入ってくるし。」

「緑ちゃんそんな贅沢言わないの。おばあちゃんたちの年金もちょっと賄ってあげれるんだから。」

小百合に緑は諭される。

「けっどさー、ガキがデカくなるまで働けねえじゃん。んで保育園も待機児童ばっかでさあ、見つかんないに等しいし。ま、その分雄輝がトップスタイリストにでもなってくれて、その後店まで出してくれたら万々歳だけど。」

緑は理想を語る。

「そーんな雄輝くんばっかに期待させちゃ荷が重いでしょ。」

紫は煎茶を啜りつつ言う。

「お姉ちゃんはいいよねえ~。大手メーカーでさあ。福利厚生ばっちしじゃあん。」

緑は羨まし気に紫を見る。

「ねえ実際取ってる人多いんでしょ?」

「まあね・・・。」

その前に総合職で入ってきた女性社員は平均的に婚期が遅い。準じて出産年齢も遅いのだ。まず二十代前半の緑世代は新入社員にあたるのでその世代ではあり得ない。

「はーあ、お姉ちゃんはいいなあ~!羨ましい!オフィスワークで座りっぱだし、お洒落なお店も沢山あるし、ネイルもできるしさあ。最近はできるサロンもちらほらあるみたいだけど、やっぱお客さんの頭引っ掻くじゃん。夏にフットできるくらいだなあ。」

「・・・。」

紫は何も答えられずにいた。

・・・私の何処が羨ましいの?

「まっ、でも男はいないけどさー。独身貴族でマンションローン組んで買ったりしないでよ。お姉ちゃんならしそうだわ。」

緑が悪い冗談を言う。

「冗談やめてよ。・・・彼氏できそうだもん。」

紫はまた検一の存在を出す。

「えっ、誰々!?ひっさびさじゃん、お姉ちゃんの恋バナなんて!」

「もーいいでしょ。あたしのことは。ちゃんと上手く行ったら報告するから。」

紫は煎餅をまた頬張る。

「そうよ、緑ちゃん。紫ちゃんだって東京でお勤め大変なんだから。まずあなたは元気な赤ちゃんが生まれるために体調管理第一なんだから。」

小百合は尚も諭した。

「はあ~い。はーあ、ガキなんて早く生まれてくれりゃいーのに。これだから女は面倒。」

「こら緑ちゃん。口が悪いよ。」

小百合は呆れてまた注意し、そして

「紫ちゃんちょっと夕飯の手伝いしてくれない?」

紫に頼んだ。

「うん・・・。」

紫は立ち上がる。

「今日はすき焼きにしようかと思って、紫ちゃん帰ってきてるし。緑ちゃんは白米食べたくないだろうし、少ししかお肉も食べれないかも知れないけど。お漬物とかがいいのよね。」

「わあやった。」

すき焼きは紫の大好物だ。

「あっ、そうそう。これねまた田中さんちからお裾分けしてもらった大根と春キャベツがあるんだけど。」

小百合は床付近に置いてある段ボールの中に詰まっている見て言った。

田中さんというのは、紫たちの実家のご近所さんで小百合たちと同年代の老夫婦だ。息子さん家族と同居していて、畑を持っているので時々自分たちの所で育てた農作物を小百合たちにくれる。

「紫ちゃん少し重たいかしら?宅急便で送ろうか?」

「ううん、私そんなに使いきれないから。少しだけ持って帰るよ。」

「そお?」

「ありがとう、おばあちゃん。」

その晩ずっと一階の別室にてずっとテレビを見てくつろいでいた祖父の耕三も呼び、休日出勤だった茜も六時には帰ってきて久しぶりに家族五人水入らずで食卓を囲んだ。

「紫、仕事はどう?」

母の茜は手際よくすき焼きを取りながら聞いてくる。

「相変わらず希望の部署じゃないけどね・・・。」

紫はそれだけ答えて、牛肉を口にする。

「でも頑張ってるじゃない。女は一人でも生きていけるように一に仕事二に家族よ。」

茜はそう言う。

「まったアンタはそんな厳しい事言っちゃって。」

小百合は顔をしかめて言う。

「そんなこと言ったってお母さん。今はほんと女も自立していないとダメな時代なのよ。」

茜は自ら夫亡き後も調剤薬剤師として働いているので、その経験論を語る。

「まあさ、何にせよバランスだよね~。まああたしはママやお姉ちゃんみたいに両立できないしな~。」

緑は気分が良くなったのか率先してすき焼きを食べていた。

「メシはどーしてるんだ?」

そこで祖父である耕三が聞いてくる。

「・・・平日はほぼお惣菜か外食。遅くなることの方が多いし・・・。」

「大丈夫なのか?そんなんで。」

耕三が心配する。

「あったしなんてママがお弁当作ってくれるし、晩御飯も勝手に出てくるからなあ。」

実家暮らしの緑がお気楽に言う。

「あんたは少し料理覚えなさい。もうすぐママになるのに。」

茜が咎める。

「そうだよ。私だって休日は頑張って自炊してるもの。それで作り置きしてお昼のお弁当に詰めて行ってるよ。」

紫が緑に言う。

「お姉ちゃんみたいに器用じゃないもん。あーあ、いいよねえ。何でもデキてさあ。」

緑が不満げに言う。

「あんたも簡単なやつくらい自分で作る練習しときなさい。」

茜は尚も緑を咎めた。

・・・楽しい。ホッとする。

紫は心底思った。

・・・私も地元で就職したらこんなカンジだったかな?おじいちゃん、おばあちゃん、ママや緑とずっと一緒にいて。でも地元はほんと就職先ないもんな・・・。

ここ茨城の片田舎では会社自体が希薄なのは事実だ。

食事も終え後片付けも終わり、紫は自ら過ごした二階の自室にいた。今はほぼベッドしかなく、周囲は家の不要になったものの捨てていないガラクタや家具などで物置化している。だが小学生から高校生までに貰った賞状や絵画は壁にかけたままだった。

部屋でぼんやりしていると着信が鳴った。

『P』と画面に出てきた。

・・・浩くん!?

突然のことで驚く。

「どうしたの!?」

『いや・・・、急に声が聴きたくなって。今実はひとりで近所のコンビニまでドライブがてら来ているんだ。今はコンビニの駐車場。』

「そうなんだ・・・。」

浩輔から休日に電話なんて珍しくて思わず紫は喜んでしまった。

『この間はメールでも言ったけど、本当にごめん。ちょっと言いすぎたのは本当なんだ。それにもし料理作るのが面倒だったら買ってくるし、デリバリーでもいいじゃん。』

・・・そういうこと言いたいんじゃないのに。

紫はハッキリとそう思った。

「そういうことじゃなくて・・・。」

『わかってるよ。本当は離婚してほしいんだろ?ただ今までそんな事言わなかったから驚いただけだよ。』

「・・・私こそ、我儘言っちゃって本当にごめん。」

紫は自分でも驚くほど譲歩していた。

部屋に飾ってある賞状にふと目をやる。

“書道コンクール 入賞 五年三組 篠宮紫”・・・これは確か冬休みの宿題で提出したやつだ。

“実用英語検定 合格証明書 二級 篠宮紫”

・・・これは高一の時に取ったんだよね、クラスではまだ私だけだったんだよね。

進学クラスで英語が得意だった。大学に入っても勉強して何とかTOEICも九五〇点のスコアまであげた。

『俺は本当に紫とは離れたくないんだ。これだけは本当だからわかってくれ。』

「・・・。」

電話の向こうの声に紫は前ほど信じられなくなっていた。

『本当なんだ。お前みたいな女は他にいない。』

「・・・そう・・・。」

紫は力なさげに返事した。

親はどれだけ悲しむだろう?

今までこれだけ頑張ってきた。片親なのに東京の大学まで進学させてくれ、更に東京の大企業にまで就職したのに、そこで妻子持ちの男と不倫関係を持っているなんて。

・・・男なんて考えてること所詮一個でしょ、そう言う夏美の顔が目に浮かんだ。

「浩くんは・・・、私の事はカラダなの?」

紫は思わず聞いた。

『何を言い出すんだよ突然。そんなわけないじゃないか。お前のことは心底愛してて好きなんだよ。』

「・・・やっぱりこんなの、子供に悪いわ・・・。」

『正直あれは事故だったんだ。今回の事は。本当にたまたまだったんだよ。だから、お願いだから機嫌直してくれよ。』

「・・・。」

『紫!』

「・・・ごめん今実家に帰省してるの。お風呂入る時間だからもう切るね。」

紫はそう言って電話を切った。

また涙が溢れてしまう。

・・・家族にこんなの言えっこないわ・・・。

浩輔と本当に別れる心づもりができ始めていた。

・・・何で私こんなに彼の事が好きなの?子供も二人いて更に奥さんがまた妊娠してるのよ。三人も子供がいて離婚なんて絶対してくれない。夏美や比奈の言う通りよ。私は労力と時間の無駄なことをしている・・・。

いくら成績良くてもこんな簡単な事がわからないなんて私って何て愚かなのかな。

紫は泣きながらそう思う。

ふと携帯を見ると検一から新着メッセージがあった。

『GW楽しんでる?紫ちゃんは実家の茨城に帰ってるんだよね?俺も実家の愛媛に帰ってるよ。もしよければ今度の土曜空いてない?』

紫はそれに返事した。

『実家の周りはほんと何もないよ~畑と田んぼだらけ!でもやっぱり落ち着く♪その日は空いてるよ』


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