第7話 明るみのデート
土曜日になった。
あの後紫は検一との何度かのやり取りの後、表参道でデートすることになったのだ。
待ち合わせは十一時前に駅の三番出口だった。
「お待たせ。」
紫は少し胸がわくわくして十五分も早めに来てしまった、五分ほど後に検一も現れた。
私服姿の検一も中々素敵だった。自分の体形に合う服装をチョイスしていた。
まず案内されたのは、表参道でも隠れ人気のビストロだった。
ランチコースがあるからとメインは魚とお肉を選ぶコースだった。中々店内は小ぢんまりしているがそんなに騒がしくもなくいい感じの店だった。
そこで最近出張で長野に行ったとのことで、丸山珈琲のブレンドを渡された。
「確か家にコーヒーメーカーあるってラインで言ってたからさ・・・。コーヒー好きなんだよね?」
「うん、それで聞いてきてたんだ。わざわざありがとう!」
「荷物になるから持っとくよ。帰り際忘れないように渡す。」
料理を楽しんで、仕事の話を真剣に話す姿はとても魅力的に感じた。
食事が終わり・・・
「俺さ・・・一回臨海公園って行ってみたかったんだけど。」
と提案される。
「水族館?」
「うん、ってベタすぎ?」
「ううん、そんなことないよ!私も水族館にもう何年も行ってないし。」
確か最後は祥吾の後にできた彼氏の亮一と大学の最初ら辺に行ったきりだ。
表参道から電車で四十分ほど。
何か新線だった。
こうして休日に電車で二人並んで街を歩けるだなんて。レストランや水族館に人目を気にすることなく堂々と行ける。
浩輔とのデートは密室オンリーだったから、こういう場所に行きたくてももう一生行けないのかなと思っていた。
臨海公園に到着し、少し待った上に、館内は混雑していたが久々に訪れる水族館はとても鮮烈だった。その間も検一との会話は楽しかった。
日が落ちかける頃、お台場定番の観覧車に乗った。
「何かこういうの新鮮!ずっとこういうのしてなかったんだよね、私。」
夕日を眺めながら笑顔で話した。
「え、紫ちゃんって意外にそうなの?ずっと彼氏いたのかと思ってたし。」
「そんなことないよ。実は丸三年ちゃんとした人はいない。」
だってその頃から浩輔と付き合い始めたから。
「へー、意外だな。」
「検一くんはどうなの?彼女は?」
「半年前に別れたんだよね。結構長かったんだけど、向こうに好きな奴ができたみたいで。」
「え、そうなんだ。」
「まー簡単に言うと軽く浮気されてて、もういいやってなったっていうか。」
「あー、なるほど。」
「この後さ、六本木行かない?俺結構前から行ってみたかった店あるんだよね。」
検一がそう言うのでそれに従うことにした。
そうして案内されたのは、六本木のタイ料理レストランだった。そこでも食事を堪能した後、次に、
「あそこのホテルのバーがいいって口コミ見たんだけど、行かない?」
と誘われた。
「え・・・。」
あそこいうのは、いつも浩輔と訪れているホテルのバーのことだった。
それだけは避けたかった。
「ごめんっ、ちょっとあそこはあんまりいい思い出がなくて!あの、別のとこにしない?」
必死に断る。
「そうなの?んじゃさ、ここは?」
と候補の一つだったらしく別のルーフトップバーをスマホで見せられた。
「まあ今二月だからさすがに屋上は寒いから中で。」
「うん、そうしよう!」
紫は承諾した。
同じく六本木での高層階のバーに案内された。
「ここ雰囲気割といいって。お酒も結構あるみたいだし。ああ前もそう言ったよね、俺結構飲む人だからさ。」
「そうだよね!こないだのとこも美味しかった。」
紫たちは店内の、テーブル席に案内される。
「夏とかなら東京の夜景が一望できるのにな。さすがに今は締めてるみたい。」
「そうなんだね・・・、じゃまた夏に来ないとね。」
「勿論・・・。」
何となく検一は言葉に詰まった。
・・・あ、今のまた誘ってるみたいなカンジだったかな?
検一はビールを紫はマティーニをオーダーした。
「結構渋いの飲むんだね。」
「ああー、これはオーダーし慣れてるからさ・・・。」
・・・ていうかこれは浩くんと来た時に凄くおススメされて以来の毎回の私の定番カクテルなんだよね。そこそこ辛口で私好みの味。
「・・・紫ちゃんって今までどんな感じの恋愛してきたの?」
ふと聞かれて躊躇った。
「え、えーっと。別に普通だよ。平凡!同級生とか・・・。」
「へえー意外だな。もっと年上のヤツが好きなのかと思ってた。」
「いや、えっと年上もあるよ。七歳上とか。」
高三の初めに出会った亮一のこと思い出した。田舎だったので大手ではなくて、地元の個人塾に行っていたのだがそこで二年目として勤務していたのが当時二十四の翁田亮一だった。
数学が苦手だった紫はグループとマンツーマンの授業もとっていて(センター利用も視野にいれていたからなのだが)どちらの担当も亮一だったのだ。亮一は塾生の中でも人気があった講師だった。
勿論受験が目の前だったのですぐに恋愛関係には発展しなかったが、受験の合格祝いにご飯に連れて行ってくれ、それがきっかけで連絡を個人的にとったり、会うようになり大学に入る前の春休みには恋愛関係に発展した。
ただし二年経って亮一は関西の某大手予備校に就職が決まり転職し、紫が就活に入ると同時期に遠距離になり、その後疎遠気味になってしまって別れることになった。
・・・亮ちゃん元気にしてんのかな?
この所めっきり連絡なんてしていない。もう何年も。
・・・もう三十三だよね?結婚して子供もいるかも・・・。
「何か思い出してた?」
ぼーっとしてしまったので、ハッとする。
「あ、ごめん。」
「何か面白いよね、紫ちゃんて。ミステリアス系?」
「・・・たまに言われるねそれ。」
「けど何かすげー落ち着いてるよね。最初の印象から思ってたんだけど。」
「え?そ、そうかな?」
「俺前の彼女がタメだったけど、そのコよりも大分雰囲気も違うし。」
「あー、一応長女だからかな?」
適当に誤魔化す。
「ねえ、ここビリヤード台とかダーツあるみたいなんだけど後でしない?」
検一は嬉しそうに誘ってきた。
「え、あたしダーツもビリヤードも少ししかしたことない・・・。」
「だいじょーぶだって、教えるから。こう見えても学生の頃バーテンしててさ、ダーツバーで働いてて。」
「ああ、だからお酒が好きなんだね。」
「そうそう。ビリヤードもよくしてたし。」
暫くして、きりがよくなると検一はビリヤードを教えてくれた。キューの持ち方だったり、ルールだったり・・・。ダーツも紫はスタンダードなカウントアップのルールしか知らなかったがそれ以外のルールのゼロワンだったりクリケットだったりを教えてもらった。
検一はかなり上級者だった。
「凄いね!こんな特技があるなんて!」
紫は素直に感嘆した。
「まあ、自分が好きだから・・・かな。」
と明らかに検一は照れていた。
こんなの浩輔とはあり得ないデートだった。
いつも人目を憚って、密室オンリーの閉鎖的で非日常なデート。会える時間も限られている。
何回も思った、この人と離れなくてはと。
でも必ず戻ってしまった。
結婚したいとまで考えてなかったけど、常に傍にいて欲しかった。
帰りは電車がある時間帯でまた地下鉄で帰った。
帰りの電車の中、
「今日は楽しかったね。」
検一が嬉しそうに言ってきた。
「うん、私も。こういうの久々で楽しかった。」
「また誘っていい?」
「えっ、いいの?私で。」
「勿論。紫ちゃんさえ良ければ。」
「じゃあまた誘ってね。」
「今度何処行きたい?」
「うーん・・・、何処でも。」
「じゃまた考えとく。結構俺デートプラン考えんの好きだし。」
「へーっ、女のコの扱いに慣れてるね~。」
「そんなんじゃないけど・・・!軽くきついなあ。」
そうして二人は笑い合った。
「じゃあまた。」
とメトロ線で紫の最寄りである神楽坂に先に降りた。
「ああ、じゃあね。」
そうして検一も軽く会釈する。
楽しかった、こんなの学生以来だ。
浩輔と別れられるかも知れないと思った。
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