第3話 重ねる逢瀬

来る日曜日になった。紫は浩輔のために土曜の夜からビーフシチューの下準備に励んだ。夜から煮込んでおくと翌日には牛肉に赤ワインのコクがしっかり出ておいしいのだ。紫のヘビロテレシピ。

十二時過ぎにインターホンが鳴り、エントランスをカメラで確認した後開錠した。

「久しぶりだね。」

紫が玄関の鍵を外して浩輔が自宅に入ってきた途端に凄く抱き締められた。

「会いたかったよ・・・。」

「もういきなり何。」

紫はそして用意していたビーフシチューを浩輔に提供した。

それから主に仕事の話をした。

今、彼は量販店が少ない四国の地域でよりオンラインサイトでのショッピングを使用して貰うための構築の業務に携わっていた。実店舗の収益をあげるためにもいずれオンラインとの連携も視野に入れているとのことだ。

「しかし今度のサイトのデザイナーさんイマイチなんだよなー。」

「ふうん、どんな人??」

シチューと一緒に、神楽坂にある美味しくて有名な亀井堂というパン屋でバケットも買って持ち寄ったので、そちらも千切って口に放り込む。

「何か年は三十過ぎの人で、七年この世界いるっつってたけど。全然ダメ。あれじゃアクセス数稼げねーかなって。見栄えも使いづらいし・・・。」

「担当者替えれないの?」

「いや・・・、依頼先がお得意様で文句つけにくいんだよな。それにその子が一応そこのデザイン会社の部長イチオシらしいから。」

「そうなんだ・・・、なら仕方がないね。」

「あれなら紫の方が多分センスいい。」

「ええっ。私、WEBの知識なんて何にもないけど?」

「けどさ、新パッケージの企画してた時に色のレイアウトとか中々良かったじゃん。何個か候補挙げてくれたし。」

「あれは・・・、あの時星野さん(三歳上の先輩社員)に言われて渋々だよ。新人が仕事さぼってると思われるの嫌だったし・・・。よく覚えてるね、私まだ二十二の時だよ?」

「いや、結構覚えてるもんだよ。まあ紫は目立つしさ。」

「えーそうかな?悪目立ちってやつでしょ?今でも主任から冷たいご指示しかもらえないもん・・・。やっぱ四十前で独身の人って性格キツクなっちゃうのかな。」

「あー、高木さんのこと?まあ多分恐らく貫くと思うけど、シングルを。俺の一歳先輩だから兼ねてから噂聞く限り、暫くは彼氏いないっぽいし。」

「やっぱね~・・・。結婚しないつもりなのかな?まあ仕事はできると思うけど・・・。」

いつも眼鏡をかけてスレンダーな冷静沈着な対応で仕事をする高木の姿が頭に浮かんだ。

「て、私もさ人の事言えないな。今度の冬には二十七だし。こないだ地元帰ったら地元組の子たちはもう子供小学生になったりしてるの。まあまずその前に結婚だけどね・・・。」

「はえーな逆にそれ。」

「まあデキちゃったコとか割と多い田舎だしさ。」

「ふうん・・・。いくつまでとか希望あるの?」

「・・・できたら俗にいう三十まで・・・。」

紫は視線を落として答えた。

この人何て質問するんだろ・・・。

「結婚って幸せ?既婚者さん。」

紫は意地悪に質問した。

「まあ・・・それなりに。子供はやっぱ可愛いし。」

「その子供置いて外で女と会ってるのは何処の誰?」

「・・・そういうこと言うなよ・・・。」

「別に・・・。聞いただけ。私未経験者だから。」

そうして食卓を片付けて皿洗いをする。

「部屋呼んでくれるのは有難いけど、もっと楽な格好したら?外なら別だけどさ。ほら部屋着っていうの?最近ルームウェアとかあるじゃん。」

紫はお気に入りのワンピースにエプロンの格好だった。

メイクもしてるし、髪だってヘアアイロンでサイドを巻いた。アクセサリーもいくつかつけている。

「・・・だって一応デートってやつでしょ。」

「まあそうだけど。」

「外で会うことできないから、会ってる時は女に見られたいんだもん・・・。」

紫はそう呟いた。

片付け終わって、二人掛け用のソファーに座って浩輔に凭れ掛かりながらテレビを見ていた。

「ねえ、映画でも見る?私Netfilixの会員だし・・・、」

そう言いかけるとふいにキスされた。

あー・・・、これは。

いつもの流れ。

そして程なくベッドに入って行為をした。

・・・この瞬間だけが・・・愛されて満たされているひととき。

午後三時半。

全自動マシンで沸かしたコーヒーを淹れた。

浩輔はシャワーを浴びて出てきた。

「はい、コーヒー淹れたよ。」

紫はテーブルに置く。

「ありがと。はいこれ。」

とテーブルに一万円札を置かれた。

「え、何これ?」

「食材費。結構手間かかったんだろ?」

「そんなのいいよ。余りは自分で食べるし。」

「いいから取っといて。」

「じゃあ・・・。五千円でいい。一万は貰いすぎだから。」

「わかったよ、遠慮なく受け取っとけばいいのに。女の後輩社員何てもっとたかってくるぞ。」

「一緒にしないでよ・・・、私は一応彼女なんだけど・・・。」

紫は不機嫌になって言う。

「・・・今度さ・・・、一泊で旅行いかない?」

突如言われて驚く。

「つっても・・・、仕事のついでなんだけど。予定ない?二月二十八、土曜日。」

紫は慌ててスケジュール帳をめくる。

「大丈夫・・・この日は大事な予定ないし。」

「じゃ行こう。俺は前日の二十六、七に静岡に出張だからビジネスホテルに泊まるんだけど。その後一泊旅館とって・・・。熱海も近いし。」

「えっ、本当に!?私あそこ行ってみたかったの!」

「実は結構いい旅館があの辺多いから早めに押さえておきたくて。」

「高いんじゃないの?そんなの。」

「値段のことはあんま気にしなくていいから。じゃあ行けるんなら早速押さえておくよ。新幹線のチケットも手配しとくし。」

「えっ、そんなのいいよ。」

「いいんだよ。ボーナス入ったところだし。それに一度も旅行なんて行けた事なかっただろ?」

「いいの・・・?ありがとう。」

「ただし帰りの新幹線は別だから。会社の人間が東海方面にもいるし・・・。観光も悪いけど一緒にはできない。帰りはそのまま東京駅で降りて直帰して。」

「わかった・・・。」

紫は承諾した。

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