第33話

桜が散らぬ間に学校が始まった。キリ君は相変わらず蝙蝠姿のままだった。先生には風邪を引いたと伝えて置いた。

「お願いがある」

キリ君にそう言われて、私は今電車に乗ってとある街に行った。

「そこの角から裏通りに入って」と言った。言われた場所は角と言うより店と店の隙間だった。

何とか抜け切るとキリ君は「後ろ向きに戻って」と言って羽をバタつかせた。私は不振に思いながらも言われた通りこけない様にコンクリートの壁に手を這わせながらゆっくり後ろに下がった。すると突然手の感覚が変わった。「レンガ?」そう思って振り返ろうとすると足が縺れて転んでしまった。

「うおっ」頭の上にいたキリ君は思いっきりさっき歩いていた道の方に吹っ飛んで行ってしまった。

「いたたたた…あっキリ君ごめん…」

私がそう言いながらキリ君のところまで行くと道の雰囲気がさっきまでと少し違っていた。私はキリ君を手に拾い上げながら周りを見回して見た。

「人がいなくなってる」

私がそう呟いているとカランとベルの音がして目の前の店の扉が開いた。

「これは、これは可愛らしいお客さんが」

そう言いながら糸目に小さな眼鏡をかけた長身の男が立っていた。少しウェーブのかかった髪を後ろで三つ編みにしていて服装は現代にはあわない英国貴族調の服装だった。男は自然な姿で肩膝を突くと手袋を外して私に手を差し伸べて

「お嬢さん、お手をどうぞ。レディーがこんなところに座っていちゃいけないな」とキザっぽく言った。

私はキリ君を持っていない方の手でその手に掴まった。

男はふわりと私を立ち上がらせると、私の手を見て糸目を少しだけ開けて笑った。

「お嬢さんその蝙蝠高値で買い取りますよ。煮込んだらいいダシがとれそうだ」男はそう言ってキリ君に手を伸ばした。

「だっ駄目です!彼は友達なんです!!」私はそう叫ぶと自分の後ろにキリ君を隠した。

男はぷ~と噴出して笑うと「そうですか~じゃあ、まあ中へどうぞ。色々ありマスから」と言ってガラスと木製の扉をゆっくりと開いた。店の中は全体に木で出来ていて薄暗かった。見上げると看板には『アンテークショップ銀月館』と書かれていた。キリ君は相変わらず気を失っていた。

私はその店に入る事を躊躇っていたが”どうぞ”と言う男の声を何故か拒否する事ができなかった…

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