第5話

中学生の頃、私は一時期義兄を嫌いになった。兄はいつも輝いていて、私は何だかいらないものの様な気がした。兄が笑いかけてくる度にイラついた。兄は頑張り屋で何があってもめげなかった。すぐに諦める私は自分がみすぼらしく見えた。弱い姿を見せない兄が腹立たしかった…


リビングの電球は淡いオレンジがかったものだ。部屋全体は蝋燭を灯している様にほんのりと明るい。

目の悪い私は暗くなると一層目が見えなくなる。しかし、眩しい電球の下に長時間いると目が疲れて翌日さらに見えなくなるのだった。家の中にあるものの位置は大抵把握しているから目を閉じてでも動ける。

それでも、やはり夜はあまり多くの事が出来ない。だからなのか夜は大抵兄と私はリビングで一緒に過ごす。体の温まるハーブティーを飲みながら色んな話をする。私はそんな兄の気遣いにとても感謝している。

でも今日は大学のレポート提出が終わらないらしく部屋から出て来ない。

やることもない私はソファーに座りながら知恵の輪をして遊んでいた。これが中々難解で私には全く解けないのだ。絶対外れないような気までしてくる。自棄を起こしてついブンブンと振り回していると知恵の輪はベランダに出る為の大窓の方へ飛んでいってしまった。

私の家はアパートの三階で家の目の前には電柱の頭がひょっこりとのぞいている。

知恵の輪を拾い上げて窓の外を見ると真っ黒中を白いものがふわふわと空からおりてきていた。

「あっ雪だ」

私は少し嬉しくなって窓にペタリと張り付いて雪を眺めてた。

「そんなにくっついてたら冷えて風邪引くよ」

その声に視点を変えると窓に兄が写っていた。

「レポート終わったの?」

と私が言うと兄はダルそうに「まだ」と答えた。そして私に被さるように窓にくっつくと

「何だか幸せがやってくる気配がしたんだ」

と言って嬉しそうに笑った。そして私に自分の着ていた上着をかけると窓を開けて外に手を伸ばした。兄の着ていた黒色のインナーは雪がくっつたのがよくわかった。

兄はそれを見ながら

「雪の中には幸せが閉じ込められていて、溶けるときにその幸せを解き放すんだ」

と言って私に濡れた袖をくっつけた。

それはとても冷たくて一瞬とても驚いたが何だか悪い気はしなかった。

「もう、やめてよ~」

口ではそう言ったが部屋の中には冬の風と共に笑いが広がった。

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